賃貸物件の中で、コロナ禍で最も影響を受けたのはテナントであった。飲食店は閑古鳥がなき、「家賃が払えない」「減額してほしい」といった要請だけでなく「もうラーメン屋をやめる」「店を閉めるしかない」といった声が聞かれ、収益物件を持つオーナーにとっては手痛い状況がここ数年続いた。
そして、昨今のアフターコロナという社会情勢。まだまだ慎重さはありつつも、テナントマーケットがV字回復を狙って動き始めている。
感染拡大で大打撃を受けた
テナント賃貸
日本フードサービス協会による、日本の外食産業の市場は、新型コロナ感染拡大が始まった2020年には、前年の26兆2684億円から18兆2005億へと縮小した。前年比30.7%という大打撃である。
世の中は「不要不急の外出は避けるように」という政府要請に基づき、特に外食産業は利用を控える社会情勢。各店舗は、飛沫防止のアクリル板の設置や人数の制限、マスク着用など感染対策に苦慮しつつも、来店客の少なさから経営難が続発。家賃滞納や減額交渉も増え、国の支援も受けながら耐え忍んできた。どうしても飲食時には飛沫感染が増え、クラスターの発生がしやすいこともあったためだ。
初期のコロナ感染のクラスターが、屋形船や飲食店あるいは歓楽街であり、「飲み会に出るだけで非常識」と周囲から思われ、送別会などの会食が次々と中止となってしまった。
コロナ禍でも過去最高益となった
マクドナルド
では、コロナ禍ですべての飲食店が厳しかったのかというとそうではなかった。テレビ報道などを見ていると、飲食店は全部厳しいとステレオタイプに感じてしまうかもしれないが、世界的なこの環境変化の中で業績を伸ばした会社もあった。
例えば日本マクドナルドホールディングス。2020年の業績は1~6月で前年比2.0%のプラス。第3四半期累計(1~9月)でも1.8%のプラス。営業利益は、前年比17.8%。四半期純利益は21.0%増であった。
多くの外食チェーンがコロナ禍での来店客減に苦しんでいる中、ドライブスルーなどで好調。独自の宅配サービスやUber Eatsを利用できる店舗を、9月末時点で1301店舗にまで拡大するなど、「コロナ禍での対応」にシフトしたのだ。
日本国内でドミノ・ピザを展開する「ドミノ・ピザ ジャパン」社。2008年に100店舗台だった店舗数は、2019年11月には628店舗にまで伸ばした。そして、コロナ禍でもその出店意欲は衰えず、2022年3月現在では900店舗まで拡大している。
もともと、「デリバリー」を重要な事業戦略としていた同社は、スマホ対応なども早く、コロナ禍でも出店意欲は顕著であった。
「行動抑制のない」アフターコロナで
飲食業界に活気が
2022年末。ようやく、行動抑制のない年末年始がやってきた。12月26日発表の日本フードサービス協会の外食産業の市場動向調査(2022年11月売上)は、前年同月比でプラス8.9%となった。
まだまだ第8派の感染拡大などがあり完全なコロナ収束ではないものの、全国旅行支援・水際対策の緩和など、外食産業は回復基調にある。
となれば、減額した賃料での入居継続よりも、積極的に出店したい全国フランチャイズなどに高い賃料で借りて頂くという道も検討したい。そもそも飲食店は流行りすたりもあり、新規入居は収益物件オーナーには欠かせないマーケットだ。
「前と同じ」ではない
テナントマーケット
では、飲食店全体が回復基調なのだろうか。売上同月比でプラス8.9%となった外食産業ではあるが、店舗数は前年同月比でマイナス1.1%。すぐには戻せない事情がある。
これまでコロナ禍でアルバイトや社員をリストラしていて急には増やせない。失った労働人口の確保も必要なため、出店が加速するのはこれからであると考えるべきだ。
また、テナント物件の出店エリアも変化が出ている。これまで出店意欲が高かった都心は、今後もテレワークが続く可能性が高く、以前の状況に戻るかは不透明。学生街もオンライン授業が並行して続くため、以前と同じ水準になるかはわからない。
首都圏では、駅近に、テレワークブースも続々と出店している。駅近3分で空中店舗が空いていれば、無理に飲食店を狙うよりも、こうした社会ニーズに対応したほうがいいかもしれない。
「郊外」「デリバリー」というキーワードは
アフターコロナでも有効
一方で、前述したマクドナルドのように、郊外ロードサイドでは、ドライブスルーなど新しい店舗開発が闊達だ。駅前商店街にこだわるよりも、クルマ社会を反映した立地は継続的な出店意欲が続いている。
また、ドミノ・ピザのようにデリバリーというニューマーケットの登場は、リアルなカウンターや駐車場の設置が難しい物件でも、バイクが置ければ、製造場所だけでもテナント立地が可能と、テナント立地のターゲットが変わってきている。
こうした「変化」を見据えて、それに対応したテナント誘致をしていくことも、賃貸経営では重要になっていく。
テナントの変化を
収益物件オーナーもつかむ
飲食店だけでなく、紳士服などの物販などもコロナ禍での打撃を受けているが、一方で、ユニクロ・ワークマンなどの店舗は積極的に展開している。
ニューノーマルな生活が続く中で、テナントの顔ぶれの入れ替わりも進んでおり、厳しくなったテナントに家賃を下げてでもなんとか契約維持を狙うという手もあるが、一方で、半年前告知などの段階から水面下で新しい業態に入居打診を行うのも良いのだ。
こうした新しいテナント誘致のためのサイトサービスも登場している。管理会社とともに活用していくことも、収益物件の健全な運用のためにも必要となっている。
執筆:
(うえののりゆき)