日本中はもとより世界中から熱い視線を浴びる「ニセコ」エリア。
今年の公示地価も日本一位で上昇率58%のニュースは記憶に新しいだろう。
実際の取材を通じて感じた「ニセコ」の盛り上がりと、それに伴う不動産の動きを2回にわたりレポートする。
前回(4月4日掲載)は海外からの投資が盛んなスキー場エリアについて取材した。2回目はそれに伴う倶知安市街地の状況等をレポートする。
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① 倶知安中心部の売地
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ヒラフから倶知安市街地の売地や売アパートを取材した。
最初に倶知安駅からすぐ近くの立地にある「南1条西2丁目売りアパート」を見学した。

この物件はネット公開されている物件であるが、1962年築でなんと築50年以上のブロック造の物件である。
こんなにも老朽物件であるにも関わらず、いまだ現役で稼働している。この場所は前面道路の拡幅計画がありセットバックが入っているが、土地面積163坪で約3000万円の売値で、土地だけの坪単価にすると18.4万円/坪である。
建物がブロック造で解体費が通常よりも高いので、更地にするにはお金が掛かりそうな物件だ。
次に近くの南2条近辺の更地を見学した。この土地はネット非公開物件なので写真は掲載しないが、面積は約380坪で1.1億ほど、坪単価は約30万円だった。
実は2年前にすぐ近くの中古戸建物件の情報があったのだが、建物付きの100坪の土地が当時約1980万円(坪当たり約20万円)で売りに出されていた事を考えると市街地も高騰している事が分かる。
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② 人気の賃貸マンション
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次に地元で人気の賃貸マンションを見学した。
一番の人気の理由はこのカーポート。雪の多い倶知安町では駐車場の除雪が大変だ。
頑強なカーポートで、車の雪下ろしの心配がなく大変評判が良いと業者に聞いた。
空き予定が出たら、すぐに次の入居者が決まる人気物件だと言われたが納得である。
この物件のオーナーは地元の人で、ニセコの冬を知り尽くして、このようなカーポートを設置しているとの事。
後から紹介する町外のオーナーが建てた賃貸マンションだと、駐車スペースにカーポートは設置されておらず、敷地にも余裕が無く、雪を堆積しておけないのでクレームが多いとのことだ。
このような地域的特性を、外から投資するオーナーはしっかりとリサーチし対応すべきと感じた。
倶知安は今まで地元の不動産会社が活躍してたが、札幌圏から様々な業者が進出している。2016年には大和ハウス工業が出張所を開設。札幌の賃貸アパート専門会社の「モード・アライブ」や、札幌圏のアパート建築棟数で5本の指に入る建築会社、ノースファイン・プランニングなどが事務所を出していた。


一昔前の倶知安は、部屋の仲介・管理や建築を地元の業者だけで行っていたが、札幌圏から業者が進出してくる事によって品質や価格の競争が生まれて来ている。
2年前では、駅周辺の売地で15-16万円/坪、倶知安町役場がある東3丁目で10万円/坪、東部の東7丁目くらいに行くと3万円/坪の売買相場価格だったのが、当時から1.5倍~2倍くらいに大きく相場を上げている状況である。
倶知安で木造アパートの新築家賃相場は、実際の募集例で1LDK(37.27㎡)管理費、駐車場代込みで7万円である。
しかも敷金・礼金を1ヶ月ずつの条件で札幌市内の家賃に劣らない。
この相場家賃で札幌の建築単価でアパートを建築できると、とても儲かるのだが実際にはそうではない。
建築コストが高いのだ。
コストアップの要因がニセコエリアの「垂直積雪量」だ。
垂直積雪量とは、「屋根の上に雪が◯cm積もっても構造的に持つように設計せよ」と決められた構造基準である。
例えば札幌市は140cmが標準の垂直積雪量である。ちなみに1m×1m(1㎡)に140cmの湿った雪が屋根に積もると、約1トンの重さにもなる。
これがニセコでは道内で一番の230cmの基準なので、強固な構造が必要である。
倶知安に新築アパートを企画するにあたって気をつけるポイントは、雪の量が極端に多いので、冬季間の除雪・排雪の問題がある。
ゆとりを持った駐車場の配置計画にしなければ雪を堆積できずに、除雪代+排雪代で大赤字になるどころか、除雪業者が不足しているために、雪が降って入居者が自分で除雪したとしても雪を置く場所が無く、クレームになっているのである。

例えば札幌市内で間口22m×奥行き6mの土地があったとしたら車は8台駐車できるが、ニセコでは台数を少なくするか、奥行きを更に2m以上取って雪置き場をつくる必要がある。
雪の堆積場所を敷地内に取らずに、その都度ダンプで排雪していては、とんでもないコストになるのである。
倶知安市街では、このアパート駐車場の雪置き場の少なさが、問題になっているという。
特に町外のオーナーと建築会社が企画する物件では、駐車場を小さくしてしまい、将来の大きな問題になるとある地元不動産業者に言われた。


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2回にわたりニセコ地区の視察報告をした。
インバウンドは「平和」があってこそのもの。東日本大震災では一夜にして、多くの外国人がすぐに国外退去し、一気に人がいなくなった。また2010年9月に起こった「尖閣諸島中国漁船衝突事件」の際にも多くの中国人が消えてしまったように、国際情勢と密接なリスクがある。
「山の不動産屋」と地元の不動産業者がいうように、山のエリアと市街地エリアでは市場が全く違う事もおさえておいて欲しい。
そして人口約1.5万人の小さな街なので、多くのアパートを一気に建てると供給過剰にもなってしまう。
ポイントを押さえると、とても投資魅力がある街である事は確かだが、しっかりと調査してから将来の供給過剰にも応えられる物件を供給していく事が大切であるという事を感じた。
執筆者:J-REC教育委員 原田哲也
【プロフィール】
2010年より、一般財団法人日本不動産コミュニティー(J-REC)の北海道支部を立上げ、不動産実務検定の普及に尽くし、多くの卒業生を輩出。2018年よりJ-RECのテキスト編集、改定などを担当する教育委員に就く。
また自身が主宰する北海道大家塾は既に50回の開催を数え、参加人数も述べ3000人を超える。