前回の続きです。お取引のあるリフォーム会社の社長さまに、友人の投資家を紹介させて頂き、初めての不動産投資物件として社長さまが賃貸中の六本木駅近くの中古区分物件を購入されたお話の2回目です。
今回はこの物件検討の様子をお伝えいたします。
これから初めて不動産投資を検討なさる方にとって、特に超都心部・築古区分物件の投資検討手法の参考になれば幸いです。
■共用部管理状態と体制(重要事項調査報告書)を確認する
中古区分マンションで最も重要なのは共用部の管理状態なので、Aさんには「重要事項調査報告書」を手に入れるようにアドバイスさせて頂きました。
Aさんが売主の社長さんへお願いすると、手元には無いとのことでした。
通常の売買では、仲介業者さんへ依頼して入手しますが、今回は売主=仲介業者(社長さんは宅建+業免業者)なので、Aさんへは、建物管理会社へ直接お願いして有料で発行して貰うようにアドバイスさせて頂きました。
Aさんは建物管理会社さんへ直接請求され、1万円程度で発行して頂きました。
通常は1,000~3,000円程度ですのでやや高めでしたが、コストを支払ってでも入手することが重要で、その価値は大きいです。
これは会社経営で例えると、決算書か有価証券報告書に該当するともいえましょう。
多少日数がかかったようですが、記載事項で最重要の修繕積立金残高を伺うと8,000万円とのことでした。
この情報をもとに、以下を検討しました。
・積立修繕金残高 8,000万円
・1室当たりに換算すると
8,000万円÷65室=123万円/室。
過去の経験からして、ほぼ問題ない金額が積立てられています。
・想定大規模修繕
この規模のマンションの場合、一般的な大規模修繕工事のコスト(3万円/㎡)を計算すると、
65室×22㎡×3万円/㎡=4,290万円
程度と想定されます。
・積立修繕金
一方、現在の毎月の積立修繕金金額から、新築時から現在までの積立修繕金が幾ら貯まっているべきかを計算してみます。
1万円/室・月×65室×12か月×47年=36,660万円
過去3回、大規模修繕が行われたと仮定すると
4,290万円×3回=12,870万円
想定積立残高
36,660万円-12,870万円=23,790万円
このうち約半分が通常維持修繕(小規模個別修繕)に使われたとすると
現在積立残高≒23,790万円÷2=11,895万円
重要事項調査書に記載されている残高8,000万円は、想定値よりも不足しています。
その理由は新築時に設定された毎月集金する積立修繕金額が現在の1万円よりも安かったためと推定されます。
それが幾らだったかは資料からでは分かりませんが、おそらく1,000円とか3,000円程度にして、新築購入者の投資家から見て、投資後の維持コストを割安に見せかけるテクニックが使われていたと想定されます。
その後、実態に合わせて値上げされていったのでしょう。
結論として、この物件の共用部管理の財務状況は妥当と判断できました。
それをシミュレーションした結果が図1です。
Aさん、良かったですね!
この結果に私も安心しました。
■この物件の本質的な価値を具体的に定量化する
次に、今回は売主=仲介業者なので、社長さんが物件の課税評価証明をお持ちでしたので、それをAさんと一緒に拝見しました。
・土地評価:870㎡、 7.2億円
・持分割合:123/10,000
・土地持分:7.2億円×123÷10,000=886万円
・建物持分評価:150万円
・区分持分評価:886万円+150万円=1036万円
前回コラムでご紹介した超概算想定金額の約半分となりました。
その理由は、正確な持ち分割合(123/10,000)が不明でしたので、前回は総戸数をそのまま入れて、1/65としたためです。
共用部など専有部以外がありますので、上記のようになりますが、それでも、ほぼ土地評価価格で購入できることになります。
Aさん、ラッキーでした!
以上で、この物件の本質的な価値を具体的に定量化して金額で把握できました。
更に、未来の本質的な価値がどうなるか、つまり物理的な物件建物の裏に積立てられている修繕積立金が、将来どうなるかも計算できました。
建物が水面上の氷山なら、水面下の部分の大きさが分かったといえましょう。
或いは、企業経営や株式バリュー投資でいえば、企業の内部留保額の将来推移が見通せたとも例えられす。
Aさんは、それが分かったうえで、企業買収に取り掛かるというわけです!
■周辺流通価格調査と、この物件価値の相場感はどうか?
次に、今計算した物件価値が、周辺流通価格に対してどの程度かを検討してみます。
株式投資でいえば、PERやPBR、σ値のように、買値が割高か割安か見ることに相当します。
図2は、港区全体での築21年以上の中古区分物件の売買㎡単価を水色のグラフ、この物件・同棟内他室の売買㎡単価をオレンジの点で示しています。
この物件は築47年と築古ですが、ほぼ港区の周辺相場と同程度で過去10年間以上、売買単価事例が経年変化しています。
このデータから、現在の流通価格を計算すると、
・約100万円×22㎡=2,200万円
となります。
全国売買メジャーサイトでピンポイントに物件名検索をかけても、ほぼこの金額前後でヒットしました。
区分物件の場合、このように市場データが豊富なので、初心者でも誰でも簡単に価格調査ができるので、間違えて高値掴みをしにくいメリットがあります。
私が社長さんへ打診した希望金額1,200万円は市場価格の約半額程度と分かりました。
■周辺物件の賃貸相場と同棟内他室の相場はどうか?
次に、この物件を賃貸商品として賃貸市場へ出した場合、現在のお家賃8.7万円の相場感を検討します。
もちろん、内装や室内設備のグレードにもよりますが、社長さんから提供頂いた専有部内部は、ほぼ他室と同程度で、物件内では平均点を判断できました。
詳細なデータは省略しますが、全国メジャー賃貸サイトで物件名検索をかけると、この時点では3室程度、募集中のお部屋がヒットして、いずれも9万円前後で募集していました。
つまり、お家賃は市場価格程度でほぼ妥当。
稼働率は
(65室-3室)÷65室≒95%
と分かりました。
これを更に面的エリアに広げて調査してみましょう。
・周辺賃貸(空室)状況
図3の〇印は、港区六本木駅周辺の過去に募集サイトに掲載されたことのある全部屋数です。
一方、図4のオレンジの〇は、そのうち調査時点で募集中としてサイトに掲載されていた空室数です。
この2つの図を比較すると、前述の稼働率95%が感覚的に分かる気がします。
次回は売主の社長さんとAさんとの直接交渉に入ってゆきます。どうぞお楽しみに。