1、瑕疵担保責任(契約不適合責任)についての争い
さて、前々回から続く、大家さんの知っておくべき裁判例シリーズ第3回は、前々回と類似の瑕疵担保責任(契約不適合責任)についての争いです。ただし、今回は、売主が宅建業者という特殊性があり、前々回お話した「契約不適合責任免責特約」が利用できない事案になります。
参照→雨漏れを告知しなかったおかげで売主が多額の損害賠償請求を受けた事案(最新裁判例その2)
この点に加えて、建物自体というよりも「付属設備」に対する契約不適合責任の問題が生じている点が注目すべきポイントになります。
2、契約不適合責任の対象として設備は除くとした特約が問題になった
(1)事案紹介
まず、事案は下記の概要のようになります。(東京地判令和4年1月13日ウエストロー・ジャパン)
- 宅建業者Yは、約30年弱の築年数の4室2階建てアパートを、個人の買主へ2550万円で売却した。
- 一般的な「引き渡し後2年に限り瑕疵担保責任を負う」との約定。
- ただし、「器具・設備・建具・配管(赤水等を含む)…設備等は、経年変化・劣化、性能低下、傷、汚れ等があるが、支障・不具合があっても売主は瑕疵担保責任を負わない事を了承する。」との特約条項を挿入した。
- その後、4室のうち1室の入居者から「赤水が出る・排水のにおいが酷い、ただし、赤水は朝にしか出ない」との連絡が来た。
- その旨も売主に告げたが、特段対応はなく、買主から売主に対して、約300万円の損害賠償請求を行う訴訟を提起した。
※売主兼管理会社であったため、管理会社の立場としても適宜買主と売主は連絡を取っていた。
(2)契約不適合責任の対象として設備は除くとした特約が問題になった
まず前々回と同様、契約不適合責任、改正前の瑕疵担保責任ですが、これは、対象の不動産に瑕疵があった場合に、売主が買主に対して賠償責任を負うという内容の規定です。
今回は、2020年4月の改正前の事案なので、「瑕疵担保責任」が問題になっています。瑕疵担保責任も契約不適合責任も、大雑把な言い方をすると似たような責任という理解でよいかと思います。
契約不適合責任のほうが、より契約内容に留意して、不具合(≒契約不適合)と言えるかという点が問題になっていますが、あまり突き詰めすぎずともよいかと思います。
本記事でも、「契約不適合責任≒瑕疵担保責任」という言葉で記載しておりますので、この点はご容赦いただきたいと思います。
さて、今回は、売主が宅建業者のために、契約不適合責任免責・瑕疵担保責任免責特約には制限が置かれております。下記の条文です。
第四十条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。
要は、売主が宅建業者の場合には、契約不適合責任を「引渡し時から2年以上」負うとする特約以上に、業者有利にする特約は無効です、という内容です。
たとえば、契約不適合責任免責特約は、全く契約不適合責任を負わないので、当然無効です。また、契約不適合責任を引渡しから1年負う、という内容も、「2年以上」に引っかかってくるから当然ダメです。
そして、今回の裁判例では、期間的な制限ではなく、契約不適合責任の対象として、設備は除くとした以下の特約が問題になったのです。
おそらく、この特約を作成した業者としては、契約不適合責任免責ができないのは、不動産の目的物であるアパートや土地そのものであり、老朽化している排水管等付属設備はこの限りではない、という考えだったのではないでしょうか。
さて、みなさん、どうでしょうか?宅建業法40条からすれば、宅建業者が売主になる場合には、売買の目的物である不動産について、2年以上の補償に近い契約不適合責任を負いなさいという趣旨です。
仮にすべての付属物に及ぶとすれば、宅建業者は中古不動産を売却した場合には、網戸やインターホン等、すべての付属物にまで、契約不適合責任を負うような必要があるのでしょうか?
ここまで踏まえて、一度、事案を確認して、どのような帰結になるかを検討してみていただければと思います。
3、裁判所の認定は、特約は認定したものの、買主側の敗訴
では、裁判所の認定ですが、まずは結論からお伝えします。
1)築27年を経過した中古物件であり、契約書でも「赤水の可能性を含め、給水設備の経年劣化による性能低下が明記され、買主もその事情を考慮」すると、給水管等が相当程度に腐食し、頻繁に赤水が出るなど、賃貸物件として利用に相当の支障が出るような場合には、「瑕疵」に当たる
⇒この「瑕疵」に当たるものを免責する条項である以上、設備等の一切の免責条項は宅建業法40条に違反し無効である、と判示しました。
2)宅建業法40条により免責条項は無効と判断したものの、
①4室中3室からの苦情は出ていない
②調査も、退去した苦情がでた部屋の調査のみ
③その苦情がでた部屋自体も「居住に支障を来す程度に腐食しているとも認め難いし、赤水が頻繁に生じているとも認め難く、賃貸物件の利用に相当の支障があるとまでは認め難いことから」原告の主張は認められない
結論としては、特約は認定したものの、大事な勝敗としては、居住に支障がでてしまい賃貸利用に耐えられないほどの不具合、すなわち「瑕疵(契約不適合)」に当たらない、として、買主側に敗訴を言い渡すことになりました。
4、実際の瑕疵担保紛争でも難しいのが「瑕疵」と言えるか
さて、みなさんどのように思われましたでしょうか。本件では、水に「赤水」というさびのようなものが若干混じるような物件だったようですが、その程度が弱く、「瑕疵」に当たらないという認定で買主が敗訴したものといえます。
実際の瑕疵担保紛争でも難しいのが「瑕疵」と言えるかなんですね。たとえば、雨漏れも、本当にひどい台風の際には、少し水が漏れるが、一方で普通の雨ですとせいぜい天井にシミができる程度など、そもそも瑕疵と言えるのかが問題になります。
同様に床の傾きも、異常な傾き(※過去の裁判例ですと8度程度で瑕疵と認定したものなど)があれば、傾きも瑕疵に認定されますが、微妙な傾きでは認定されません。
今回の水道管老朽化による赤水も、若干の錆であり、瑕疵担保責任を問うほどのものではない、という裁判所の認定だったようです。
加えて、今回の裁判例で押さえておくべきポイントは、「設備」と一言に言っても、給水管等が相当程度に腐食し、頻繁に赤水が出るなど、賃貸物件として利用に相当の支障が出るような場合には、「瑕疵」に当たる、という部分が重要ではないかと思います。
売買対象は不動産ですが、すべての付属設備について売主側が瑕疵担保責任を負うのは、それまた不均衡がありますので、この点の指摘で、購入の目的である賃貸利用に耐えられるレベルの設備かどうかという視点も重要だったのではないかと思います。
特に、水に関しては、ライフラインの中でも生活に必須ですから、仮にこれが完全に壊れていて使えない、などと明確な瑕疵だったら、買主が勝訴していたのだと思います。
5、総括
さて、今回も比較的新しい裁判例から、宅建業者が売主のパターンでの契約不適合責任(瑕疵担保責任)の事例をご紹介しました。
「設備と契約不適合責任の特約」というタイトルに非常に興味を惹かれてご紹介しました。といいますのも、中古の戸建て売買では、「インターホンが壊れている、床が傷ついている、傾いている、網戸が壊れている、庭に大きい石が置かれたまま」などなど、契約不適合責任という名目で買主からの要求が多く、クレームなのか正当な法的主張として捉えるべきなのかの基準を模索していましたので、この点でも非常に参考になる裁判例だと感じます。
最後にお知らせです。下記のように、不動産大家さんのトラブル専用のホームページを公開しています。興味がある方はブックマーク等お願いいたします!( ※おそらく、自然検索では辿り着かないと思われます・笑 )
では、また次回もどうぞ、よろしくお願いいたします。