低金利の住宅ローンが利用できる「賃貸併用住宅」。マイホームと収益物件を一度に手にすることができ、家賃収入をローンの返済に充てることもできる。
そこで今回は建築家と建てた、設計の妙を感じられる賃貸併用住宅を紹介する。手掛けているのは、平井直樹建築設計事務所代表で一級建築士の平井氏である。これからの賃貸住宅の設計で大事なことや、賃貸併用住宅ならではの工夫を取材した。
賃貸併用だからこそ、戸数を抑えつつ、
落ち着いて長く住んでもらえる工夫を
こだわりの個人住宅や集合住宅を多数手がけてきた平井氏。賃貸住宅において、これまでの常識が通用しなくなっていると指摘する。
「これまで不動産投資のセオリーはできるだけ安く、小さな住戸をたくさん作ることで収益を上げることだと考えられてきました。しかし昨今では都心部ほど狭小のワンルームマンションが増え、飽和状態で年数が経つごとに入居付けに苦労することになります。
長期的な視点で、入居者を惹きつける強い魅力を持たせることが、これからの賃貸住宅には必要不可欠です」
たとえば平井氏が手掛けた冒頭の写真の賃貸併用住宅は、駅近の立地を活かして、自宅に加え、2戸の賃貸住戸を確保した。1戸はフラットな1LDK、もう1戸はメゾネットタイプの1LDKと限られた敷地でありながらも、それぞれの住戸に異なる魅力を持たせている。
下図で示すように、1軒の住戸をパズルのように組みあわせ、3つの住空間にわけて、空間を活用しているのが特徴的だ。
法的な制限のなかで敷地をより有効に活用するために「長屋」形式を採用したが、長屋にしたことで、各住戸それぞれに独立した玄関が必要になる。それによりオーナーと入居者、それぞれ同じ建物に住みながらも、視線が合わず戸建て感覚で住むことができる。
「賃貸併用住宅では、オーナーと入居者の距離が近いため、戸数を増やして入居者を増やすよりも、戸数を抑えて、その分、広めの住戸を確保して長く定着して住んでもらう方が、オーナーさまも快適に暮すことができます。そのため広めの1LDKにして、居住快適性を高めるように設計しました」
いざ募集を開始すると間もなく入居者が決まり、竣工から5年ほど経つが満室が続いている。
六角形の変形敷地も有効活用した七角形の建物
1~2階を賃貸、3~4階を自宅に
世田谷区世田谷では六角形の変形敷地を活用した賃貸併用住宅を手掛けている。敷地の一部が計画道路として使われることになり、道路として削られた部分を除くと、敷地が「六角形」の変形地となってしまい、活用に悩んだオーナーさんから相談を受けたのが始まりだ。
「変形敷地に対応している業者が少なく、いいプランに出会えなかったようで相談を受けました。オーナーさまご家族も住むことが前提で、駅徒歩2分程度の好立地を活かして、賃貸の住戸を確保することに。とはいえ戸数を増やして多くの入居者が集まるより、戸数を減らして、落ち着いた入居者に長く住んでもらいたいとお望みでした」
駅近の立地を活かして1階は店舗に。2階を賃貸住宅として2戸確保した。1戸はフラットな1LDK。もう1戸はスキップフロアにして、メゾネットの1LDKに。
周辺は世田谷の閑静な住宅街で、お寺が多いことから、外壁タイルのカラーは落ち着いた配色で景観に配慮。さらに建物の七面どの面から見ても正面に見えるようなデザインで、かつ一目で住宅とはわからないように配慮した。
「相場より高く家賃を設定したこともあり、入居が決まるまでに少し時間がかかりましたが1階には美容院が入り、8年ほど入居されています。
テナントは決まるまでに時間がかかることもありますが、街になじめば入居期間が長く、家賃が下がりにくい利点があります。
2階の賃貸の住戸はやや広く、一般的な賃貸ニーズとやや異なる層を狙ったため、こちらも入居者が決まるまで少し時間はかかりましたが、決まってからは定着しています」
どちらの事例も他の賃貸住宅とは異なる空間設計や内装デザインで、一度入居者が入ったら、長く住んでもらえる傾向があり、長い目でみて安定経営につながっている。
「ますます競争が厳しくなる賃貸住宅市場ですが、変形地など対応に困るケースでも空間の使い方次第で、うまく魅力的な賃貸住宅を実現できる可能性があります。困ったときはぜひ建築家の発想やアイデアを頼りにしてほしい」
●取材協力:建築家ポータルサイト『KLASIC』
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