築古の集合住宅に手を入れようと考える人の多くは室内を新しくと考える。室内だけでなく、外構も少しやり直すかと思う人もいるだろう。
だが、これまでほとんど誰も手を付けてこなかった場所がある。表札だ。なぜか。古い表札に水道局の水道使用者標識(番号プレート)やNHKの放送受信票などが貼られており、なんとなく、外したらいけないように思っている人が多いからだ。しかし、それは勘違いだった。
表札に貼られたシールには意味が無かった
練馬区春日町にある本多マンションは築41年。レトロな雰囲気のある建物だが、内装についてはDIY可となっており、しかも、DIYをサポートしてくれるサービスもあるとあって空室が出るとすぐに埋まる、人気の高い物件である。
内装については入居者が変わる度に手が入るようになっており、ここ3年ほどで大きく変化しているのだが、それ以外の建物内にも順次手が入ってきた。エントランスの物件名を記すプレートや照明、郵便受け、掲示板と来て、今回手が入ったのは表札だ。

かつての表札は薄茶色のプラスチック製のよくあるタイプ。部屋番号が書かれており、その脇に自分の名まえを入れるスペースがあり、下半分にはさまざまなシールが貼られていた。水道局の水道使用者標識(番号プレート)、NHKの放送受信票、国勢調査などである。
「これまで表札を変えようと思いもしなかったのは、貼られているシールには手を出せないと思っていたからです」というのはハウスメイトの伊部尚子氏。だから、古くなり、汚れていても交換しようと思わなかったという。
だが、それは勘違い。物件全体が変化していくのに、号室プレートだけが古いままが気になり、調べてみたところ、NHKの放送受信票は2008年に廃止になっており、貼る必要は無し。水道局の番号プレートも水道局に連絡をすれば新しいものを用意してもらえる。その上、水道局によって対応は異なるが、必ずしも表札に貼る必要がないこともある。
また、国勢調査のシールについては近年は配布されていないらしい。貼ってある家のものを見ると新しくても平成7年などとなっており、新しいものは見ない。そもそも、オートロックの場合、調査員が玄関先まで来られないことを考えると必要性は感じられない。
躯体に傷つけない簡単な方法とは?
と考えると、現在表札に貼られているシールはそのまま貼り続ける必要はほとんどないことになる。だったら表札を変えようと考えたが、次の問題はプラスチック製の、現在の表札を剥がすとその下に下地としての木が貼られていること。除去するとなると塗装が剥げる懸念がある。
そこで次に考えたのは新しい表札をビスで壁に固定すること。しかし、作業に時間がかかる上に、躯体に釘を打つ作業はしたくはない。また、新築マンションによくあるステンレスの表札はレトロな雰囲気の本多マンションには似合わない。悩んでいたところにサインズスクエアの西村友宏氏から提案があった。
看板製作が本業の同社にはその発展形として集合住宅の入口、1階周辺に手を入れることで古い建物の印象を大きく変えるノウハウがあり、この何年かで本多マンションを含め、さまざまな物件を再生してきた。
「看板に使う軽くて丈夫な素材・アルミ複合板を使い、外装用の両面接着テープを使って旧来の表札の上に貼るやり方でどうかという提案です。そうすれば躯体に傷を付ける必要はなく、作業も簡単。建物の合わせたデザイン、色合いのシートを印刷、板に貼って使えば、安価に新しく、雰囲気に合わせたものができます」。

そこで作成したのが木目を思わせる茶色にナンバーが書かれたシンプルなもの。わずか140gという軽さで、外装用の両面テープを使えば簡単に貼り付けられる。
空室対策以上に退去を減らす効果も
実際に交換してみると思った以上に入居者からの反応があった。郵便受けや掲示板は新しくなっても全員が見るわけではないが、我が家の表札は誰もが必ず目にする。そのためか、管理会社に「可愛くなってうれしい」という感謝の声が寄せられたのである。

「これまでさまざまな物件で空室対策として共用部に手を入れてきましたが、面白いことに大家さんからは空室対策以上に退去が減ると評価されてきました。
現在住んでいるところに手が入る、住んでいるうちに物件が良くなると入居者は得した気持ちになり、満足度があがる。その結果、住み続けたいと思うようになるのではないかと思います」と西村氏。
目の前の空室対策としてだけでなく、長い目で見ても効果があるというわけだ。
価格は1枚4000円〜。できれば自分で設置を

では、表札を変えてみようと思った場合、どうすれば良いか。同社では軽く、外装用の両面接着テープで取り付けられる表札を何タイプか用意しており、それを利用するのが手っ取り早い。価格はサイズによって異なり、1枚4000円から大きなサイズで5300円(いずれも税別)となっている。表札本体以外にはテープも買う必要があるが、さほどの金額ではない。
現在は管理会社経由で販売することを想定しているが、近いうちにオンラインで買えるようになるとのこと。テープなども一緒に買えるようになるそうなので、自分の物件に合わせて選んでみて欲しい。いずれは違うサイズ、デザインをオーダーすることができるようになるはずだ。
取り付けはできれば自分でやってみよう。既存の表札の上に取り付けるだけなので、作業自体はさほど難しくない。水平、垂直が気になるようなら脚立に乗り、目の前で高さを確認しながら作業すれば良い。
もちろん、リフォーム事業者に依頼することも可能だが、プロの人件費は作業内容の難易度に限らず一日あたりの額で請求されることが多いので、率直なところ、高く感じてしまう可能性がある。もちろん、脚立上で作業するのが不安、やったことがない人は付き合いのある事業者に相談してみたい。
エレベーターの内外装の交換も効果大
もうひとつ、自分ではできないが、古さ一新のためのお勧めはエレベーター内外装の交換。エレベーターが設置されている物件の場合、エレベーター会社とメンテナンス契約を結んでいることが多く、すべてはその会社がやってくれると思っているはずだが、それは間違い。
エレベーター会社が面倒を見てくれるのは機械、設備のみ。エレベーター内の壁が汚れていても、扉に落書きがあっても、それをエレベーター会社がメンテナンスしてくれるわけではない。問い合わせてみると分かるが、内外装をきれいにしたいと言えば、お好きにどうぞということになるはず。立ち合いも必要はないと言われることが多いようだ。



そして、エレベーターの改装も実は効果が高い。1階の居住者以外は必ず使うことになるからで、毎日何回も利用する人もいる。その人たちからすれば毎日使う場所がきれいになれば感動もの。写真を見せていただくと変化の大きさが分かる。
ただ、表札ほど安価ではなく、たとえば5階建ての物件の場合で各階の扉周り、内外装に全部シートを貼って再生すると100万円弱。そこまで予算が取れないのなら1階の扉周り、内装だけを変えるという手もある。
表札、エレベーター、いずれも交換の際には事前に入居者に告知、意見、質問などがあればあらかじめ受けるようにしたいところ。
表札の場合、最近は名まえを入れている人が少ないため、名前を入れるスペースが無くても不満が出る可能性は低いが、中にはそういう人がいるかもしれない。その場合には郵便受けに入れていただくようにお願いするなどの配慮が必要だ。
エレベーター内外装の交換は細かい作業が多いため、一定期間エレベーターを止める必要がある。表札交換より入居者に不便をかけることになるため、より丁寧に告知しておきたいところである。
健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))