「住宅確保要配慮者」が対象の支援制度
大家が安心して貸せる環境づくりも議論
日本の総人口が減少するなか、高齢者人口は3627万人と過去最多。総人口に占める割合は29.1%と、高齢化率も過去最高を記録した。
こうしたなか、賃貸で暮らすシニアも増えている。「令和5年版高齢社会白書」によると、65歳以上の9割近くは持ち家に住んでいるが、約1割は賃貸住宅。
ただし、日本人全体で見ると借家世帯は増えていて、2000年に約1229万世帯だったのが、2020年には1633万世帯になった(民間借家)。晩婚化などによる単身世帯の増加、収入などが理由と推測できるが、こういった層がそのまま年齢を重ねると、賃貸で暮らす高齢者もますます増えるばかりだ。
これに伴う問題が、高齢者の住宅確保だ。家賃の不払いなどを理由に入居に抵抗感を覚える大家は少なくない。今後の単身高齢者の推移と照らし合わせると、住宅難民はさらに増える可能性がある。
高齢者だけではなく、ひとり親世帯や障がい者など、さまざまな事情から住宅を借りるのが難しい人はいて、生活の基本である「住まい」の確保は、社会課題のひとつと言えるだろう。
対策は始まっていて、直近であれば、国は高齢者や生活困窮者、障がい者、ひとり親、刑務所出所など「住宅確保要配慮者」を対象とした支援制度の拡充を検討。7月3日に国土交通省および厚生労働省、法務省の3省は「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等の在り方に関する検討会」の初会合を開いた。
本検討会は住宅と福祉政策が一体となった居住支援機能の在り方を検討することから、住宅分野が所管の国土交通省、福祉介護分野の厚生労働省、刑事司法分野の法務省が合同で検討会を設置、不動産業界や居住支援に関する専門家、大学教授らで議論を進める。
初会合では3省の担当者による現状の把握や論点を整理。国土交通省住宅局による説明では、住宅確保要配慮者に対する大家等の意識や入居制限の理由についても触れられた。
課題を共有したうえで、同検討会では以下の4点を中心に検討を進めることを確認。今秋をめどに中間とりまとめを行う予定だ。
現在も、民間賃貸住宅を住宅確保要配慮者の入居者を拒まない住宅として登録し、要配慮者に提供する住宅セーフティネット制度や生活困窮者自立支援制度などを国は用意している。
住宅確保要配慮者に対する家賃債務保証の提供、賃貸住宅への入居に係る住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援等を実施する住宅確保要配慮者居住支援法人も全国に710法人(2023年5月末時点)あるが、入居後の相談・見守りまで手が回っていないという。今回の取り組みを通じて、既存制度の強化を目指す考えだ。
全国の公営住宅の供給数は2005年をピークに減少に転じている。また、2021年における国内の空き家率は13.6%と過去最高。今後、住宅確保要配慮者の受け皿は民間の賃貸住宅にシフトする可能性が高く、安心して貸せる仕組みが整備されると大家にとっても後押しになる。賃貸経営は慈善事業ではないからこそ、法的な整備・支援は急務と言えるだろう。
一方、支援制度が強化されると、住宅確保要配慮者は中長期的な賃借人になるかもしれない。社会貢献の一環にもなるので、気になる大家は今後の動向を探りつつ、前向きに検討してはいかがだろうか。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))