関西国際空港は、大阪府の南部、大阪湾内の泉州沖に建設された海上空港だ。その対岸にひろがるのが「りんくうタウン」。1996年にまちびらきし、総面積は約320ヘクタール。泉佐野市、田尻町、泉南市の2市1町にまたがる。
「りんくうタウン駅」はJR大阪駅から約60分、南海なんば駅から約40分。ここから「関西空港駅」までは長い空港連絡橋(スカイゲートブリッジ)を渡って1駅だ。
りんくうタウンには、SiSりんくうタワー(旧・りんくうゲートタワービル)や大観覧車のある複合商業施設「シークル」、「りんくうプレミアム・アウトレット」、映画館、家電量販店など160以上の店舗がある「イオンモールりんくう泉南」などがオープン。海岸沿いには、「りんくう公園」や大理石の白い石を敷き詰めた「マーブルビーチ」、海水浴ができる「タルイサザンビーチ」が整備された。
まちびらきした当初は苦戦していたが、コロナショックに見舞われる直前までは、関西国際空港に就航するLCCなどのインバウンド人気のおかげで外国人の姿も多く見られ、近隣にホテルも多く建設された。
大阪府がりんくうタウンを整備したのだが、海岸沿いに広がる大阪府営の「りんくう公園」は北側の泉佐野市と田尻町の1部だけしか整備されていなかった。予算の関係で、泉南市エリアはずっと手つかずのままだった。
そこで泉南市が、大阪府から無償で公園地の借り受けを依頼し、市営公園として民間企業と協力して整備事業を始めることにした。市の財源を使わずに、民間のノウハウや資金力を活用する方法での開発だ。事業者を公募したところ、大和ハウスグループの大和リースが選ばれ、「泉南りんくう公園 SENNAN LONG PARK」がオープンした。
昨今は大阪エリアで、「大阪城公園パークマネジメント事業」や天王寺公園「てんしば」などで都市公園において新しい試みが催されているが、SENNAN LONG PARKのように都市公園の建設や維持管理、運営をすべて民間企業が行うのは全国的にもレアなケースだという。
国土交通省によると、「都市公園」は地球温暖化の防止や災害からの防災などに加え、「地域の活性化に必要不可欠」だとしている。
夕陽や海を眺めながら、気軽にアウトドア体験
泉南りんくう公園SENNAN LONG PARKが開業
「泉南りんくう公園 SENNAN LONG PARK」は、当初はゴールデンウィーク頃のオープン予定だったが、コロナウイルスの影響で大幅に遅れ、7月に開業した。敷地面積10万7,800平米、駐車台数967台。
公園は4つのゾーン、アクティビティエリア、コミュニティエリア、マルシェエリア、グランピングエリアに分けられている。施設は、グランピング、バーベキュー、アスレチック、オートキャンプ場、合宿所、温泉施設、サッカーグラウンド、飲食施設、マルシェブースなどがある。関西最大級のレクリエーションスポットとして、「海と空と緑を感じて想い出づくり」をコンセプトとしている。
大阪湾や関西空港を一望できる地上15.5mのアスレチックHEART THROB(ハートスロブ)や、豪華なビーチリゾート風のBBQを楽しめる施設、近くの漁港で水揚げされた新鮮な魚や穴子の天ぷらなどが買えるマルシェエリア、AC電源付きのオートキャンプサイトでは車を横付けすることができ、「日本の夕陽百選」に認定された夕陽を眺めながらキャンプができる。
公園から道を挟んだ内陸側には「イオンモールりんくう泉南」があり、そちらで食事や買い物をしてから公園に来ることもできて便利だ。
トレーラーハウスを利用した都市型キャンプホテル。
車両扱いなので、固定資産税がかからない
大理石の白い石(マーブル)を敷き詰めたマーブルビーチのグランピングエリアには、「URBAN CAMP HOTEL Marble Beach」が設営されている。オーシャンビューの独立型ヴィラなのだが、実はトレーラーハウスを利用している。都会的なキャンプ体験ができるホテルとして、各トレーラーにはジャグジーがあり、海や夕陽を見ながらBBQも楽しめる(企画・運営は株式会社デジサーフ)。
以前紹介した、建設用コンテナを使ったホテルを開業した株式会社9(ナイン)がこのトレーラーハウスの設計も担当している。
コンテナとトレーラーの違いは車輪の有無。コンテナは鉄製で、それ自体には車輪がなく、架台に乗せて動かす。
「泉南りんくう公園」のトレーラーは約11m×3mの木造の箱に車輪がついており、移動させる時は箱ごと引っ張る形で動かす。トレーラーハウスの建設費は一個約1,000万円。移動できるトレーラーハウスは「建築物」ではなく「車両」となり、「建物」にかかる固定資産税はかからない。代わりに「車両」としての税金がかかり、減価償却は6年だそうだ(個別状況により、判断が異なる場合がある)。
コンテナ同様、好きな場所に移動させることができて、三密を避けたプライベートな空間を楽しむことができるのは魅力的だ。
7月22日からGO TO トラベル キャンペーンも始まったが、この夏休みは遠方に行くよりも身近な場所へ出かける人も多い。三密を避けるため、インドアよりもアウトドアやキャンプも盛り上がっている。
このキャンプホテルでは、開業してから現時点で、地元・泉州エリアや大阪府内からのお客さんが8割ぐらいだという。残り2割が和歌山県など近隣県からのお客さんだ。
日帰りで楽しむデイユースも1割ほどあるという。予約は3か月前から受け付けているが、ほぼ満室が続き、キャンセルが出てもすぐ埋まるそうだ。各トレーラーハウスが独立しているので三密回避できると、団体客の予約も入ってきている。
近くで「非日常」を味わうことができ、SNS映えすることも人気の一因のようだ。
コロナ禍でリモートワークが広がって、
『地方』に勝機が訪れるか?
例えば、パンダ飼育で有名な「アドベンチャーワールド」がある和歌山県白浜町は、コロナ禍の前から、Workation ワーケーション(リゾート地などで、休暇を兼ねてテレワークを行うこと)としてIT系の企業誘致を推進していた。和歌山県で唯一の空港があり、南紀白浜空港から羽田空港間が約60分と近いため、東京の会社が白浜にサテライトオフィスを開設するなど脚光を浴びていた。
大阪府内でも海に面している地域は限定され、りんくうタウン付近は海岸が美しく整備され、「日本の夕陽百選」にも選ばれているほどだ。大阪市内からも近く、ロケーションも良い。
今後は、都心から少し離れた場所で、広めの住居に引っ越し、自宅でリモートワークできる環境へとシフトする人たちも増えてくるだろう。
コンテナホテルやトレーラーハウスを設計した9(ナイン)株式会社の久田社長は、
「コロナ禍で『地方』が注目されてくると言っても、海や山があるだけではダメです。センスが合う人達と一緒に街づくりをしていくことで、その街の魅力が上がっていきます。大阪市内のアメリカ村や堀江もいろんな店が少しずつ集まってあの街ができたように。
みんなが気に入った地域で、価値が低いと思われていた土地を買って不動産投資を始め、徐々に美味しい飲食店ができて、数人の友人たちが移り住むことで街の価値が上がり、投資した人も儲かっていくと考えています」
人口が集中した都心はコロナウイルスに感染するリスクが高いが、テレワークなどを利用した分散型の社会として、今後は地方が発展・活性化していく時代になるかもしれない。
健美家編集部(協力:野原ともみ)