関西空港へのゲートである大阪・なんば駅から歩いて3分のところに、移動可能なホテル「Distortion 9」が7月10日にオープンした。敷地は3台分のコインパーキングとして運用していた土地70平米を利用。20フィートの建築用コンテナ6台を連結し、2階建てのホテル仕様だ。連結部のボルトを外せば簡単に解体し、架台に乗せて別の場所に移動させることができる。コロナ禍など災害時には移動させて別の場所での営業や、開発予定の空き地で期間限定利用も可能だ。
企画・設計は9(ナイン)株式会社。空き家、空きビル、遊休地の再生「リノベーション」を東京・大阪を拠点に全国で行っているデザインベンチャー企業だ。
都心のコンテナホテルは3密回避の別荘に。
出張シェフを呼んでパーティも!
各階は、20フィート(約6m)の建築用コンテナ3個を連結。1階部分と2階部分には一般的なホテルのような共用部分がなく、各階ともそれぞれダイレクトに入退室が可能。ドアは電子錠付きなので、チェックイン&チェックアウトも他人に会わずに済む。
間取りは約44平米の2LDK。ダブルベッド1部屋と、シングルベッド2つのツイン1部屋、広いLDKにはミニキッチン、シャワーブース、半屋外バスルーム、トイレがある。半屋外のバスルームでは、プライベートな露天風呂気分を味わえる。最大5名が泊まることができ、1組約2万5千円~で貸し出す。




倉庫使用ではなく居住用で利用するには、日本の建築基準法上、建築用コンテナを使用しなければならない。建築用コンテナは、輸出用コンテナと違って構造計算がされているからだ。大阪・なんば駅エリアは地価が高いため、コンテナを積み上げて2階建てにしている。
内装は、鉄で作られた建築用コンテナ内に鉄の柱を建て、石膏ボードを設置し、壁紙を貼っている。1階は黒を基調にし、床はラワン合板5.5mmをカットしてヘリンボーンで貼った。
合板はカッターで簡単に切ることができるタイプで、DIY用に後日販売される予定。2階は白を基調にしており、床は外壁などに使用されるフレキシブルボードを使って、セメントのようでありながら少し光る感じを出している。
「Distortion 9」はギャラリーホテルとして、アウトサイダーアート(知的障害者施設で生み出される創作物)が室内に展示されている。宿泊者は気に入った作品を購入することもできる。作品は数ヶ月ごとに入れ替え、宿泊予約の合間にギャラリーとして運営する期間も予定している。
ホテルの外には、アート作品としての靴下や歯ブラシなどが買える自動販売機も設置している。


家具は9(ナイン)の自社ブランド「ROR(ロア)」可変式オフィスリノベーションを使用。デジタルデータを元に木材を切断加工し、釘を使わず、現地で組み立てることができる。分解や移動も簡単だ。オーダーメイドで作成できるため、コロナ禍では、ソーシャルディスタンスが十分取れる特大の会議用机の注文が入っているそうだ。


コンテナホテルを建てる前、この土地は3台分のコインパーキングとして運用されていた。土地を購入したオーナーは、隣地が購入できた際にマンションを建設したいと思っていたからだ。しかし、買収に時間がかかりそうなので、9(ナイン)の久田社長に相談し、新しい試みとして移動可能なコンテナホテルを設営した。
コンテナホテルの建築費は、2階建てで約3,000万円。費用が高くなったのは、9にとっても初めての試みだったことや、敷地が防火地域で地盤が軟弱だったため補強したことなどがある。
今回の経験から、今後はもう少し費用を安く抑えることができるようだ。3,000万円かければ木造でも立派なホテルが建設できるが、コンテナホテルは「移動」させられるのが強みだという。

コロナ禍では「変化する」ことで
チャンスが広がる
コンテナホテルを設計した9(ナイン)株式会社の久田一男社長は、「ウィズ・コロナの時代では、変化できることが大切だと思います。住宅もホテルも土地に固定させない移動式の自宅やホテル等が重要になって、『地方』にチャンスが訪れるでしょう。私の友人もこのコロナ禍で、会社から車で1時間以内に移動できるところに引っ越し、週に一度の出勤以外はテレワークしています」と語る。
他にも「移動」アイデアとして、中古の輸出用コンテナを改装して小売り店舗にし、店ごと移動させるプロジェクトも計画中とのこと。都心の遊休地で「期間限定オープン」すれば、大きな話題になるだろう。
価値観の大きな変化を促した新型コロナウイルスの影響で、自ら「変化する」ことでチャンスが広がりそうだ。
健美家編集部(協力:野原ともみ)
※主な写真は9株式会社