ここ数年の僕は、全空あるいはほぼ全空のような物件を買うのが当たり前になっています。というのも、満室やそれに近いものはたいてい高額です。立地も良いとは限らず、入居している人の質もわかりません。
それならば、全空でも立地が良くて、入居者の選定も含め、自分で1から物件を作る方が良い投資になります。もちろん、お金も時間もかかります。でも、家賃を自分で設定できますし、仕上がればすぐに回収できます。
ただ、これは投資家の初期のステージにおいては難易度が高く、金銭的にも厳しいと思います。僕は2005年に初めてビルを買っていますから、約20年のビル投資の経験があります。そういう意味で、今回のコラムは中級者以上の方向けかもしれません。
でも、これができるようになるとそれまでと違う投資ライフに進めるので、ぜひ参考にして欲しいと思います。
■好立地に建つ250万円ビル、中は想像以上にボロボロだった
すでに市場が高騰していた一昨年の10月、全空ビルを購入しました。250万円のこのビルをネットで見つけた時は、幻かと思いました。立地も最高に見えるのに、この値段で残っているのが信じられず、すぐに業者さんに電話をしました。
立地が最高に見えると書いたのは、ここが僕のセカンドエリアだからです。メインエリアに比較すると、イマイチ確信が持てません。とはいえ、そのビルは僕の絶好調の所有店舗から直線距離で約50メートルの場所にあったため、問題はないでしょう。
そして、1時間後に物件前で担当者さんと会いました。
2階建てのビルの前に立ち、1棟貸しならいくら、別々のフロアに分けて貸すならいくらと計算し、頭の中では秒で「買う」ことを決めました。
本当のことをいえば、電話をかけた時点で9割は買う気でした。僕は買付を入れた後で、「やっぱりキャンセルします」という素人ではありません。第一、この金額ですから、再生に1千万円かけても十分に回ります。でも、その時は業者さんが「中を見てから決めて」と言うので、その通りにしました。
業者さんと一緒にビルの中に入った僕は、「ムムッ!」と大好きな川平慈英さんのような唸り声をあげそうになりました。2階の床が1階まで崩れて垂れ下がっています。窓も窓枠から壊れていて雨も風も入りたい放題です。肝試しに使えそうな物件だと思いました。
2階にいく階段は鉄骨でしたが、いつ崩れ落ちてもおかしくないほどの脆さです。実際に登って、かなり危険に感じました。2階は住居スペースの和室。雨と風が建物の中に自由に入っているので中はボロボロです。そして住居なのに、トイレもお風呂もありません。
トイレは1階のものを利用して、お風呂は銭湯を利用していたのだと思われます。というのは、この50メートル先にある僕の物件も、2階は風呂なしで、「お風呂は銭湯まで行っていたようだ」と売主さんに教えてもらったからです。
3階へ行く階段は、2階の階段よりも階段幅が狭くて角度も急です。こちらもかなりボロボロのユラユラでした。不意に小学生時代の記憶が蘇りました。何を思い出したかというと、ファミコンのスパルタンXと、キン肉マンの五重塔のリングです。
クリアしても、次のより険しい試練が待ち構えている階段を登らなければいけません。この階段を登る前に何人の不動産投資プレーヤーの心が折れ、「もういいです」と帰宅したのだろう。好奇心だけでは登るのにキツすぎます。
しかし、僕の胸は高鳴りました。なぜなら、あちこちが傷みすぎているため、みんな面倒に感じて買わないだろうと思ったからです。僕は大家列伝でも答えたように「グチャグチャの方が競合が減って面白い」と考えるタイプなのです。
次の階段を登ると、3階は一部建物になっていて、洗濯機置き場らしいスペースがありました。「それなら、なぜ2階に水道がない?」と疑問に思いながら屋上スペースに出ると、防水がボロボロでした。はい100万プラス。頭の中で修繕費の計算をしながら内見を終えました。
■値引きなしで購入後、スケルトン状態に
「いかがですか?かなり酷かったからダメですか?」
業者さんは、この人がダメならまた違う人を案内しなければいけないのか、疲れるな~という顔をして僕を見ます。(僕の勝手な想像ですが)
「すでに充分安いのですが、これだけ酷いので100万円ほど安くなりませんか?」と訊いてみると、「売主さんは値段交渉には応じません。そのようなお話を持っていくと話が壊れてしまう方です」と言います。
僕は瞬時に頭の中を整理しました。もう少し金額を刻んで交渉したい気もするけれど、250万円のビルは今の時代なかなか出てこない。それに、立地が良いから、きちんと仕上げれば充分に利益を得られるはず。
値引きなしの250万円で購入し、500万円で改修と防水工事をして、1階と2階に分けて店舗を作って、合計で月18万円の賃料で貸せば、年間で216万円、実利回りは29%くらいになるな。
ちなみにこういう時は、改修にかかるお金は高めに見積もり、もらえる家賃は低めで見積もります。ですから、実際には30%超の利回りを見込めるでしょう。
もっと安く買いたい気もしましたが、「あの物件買えるかな」と何週間も考え続け、脳内メモリを消費するようだと、仕事の効率が下がります。ただでさえ、年をとって脳のスピード処理が遅くなってきたと感じるのに…。
「分かりました。価格はこのままで結構です。ただ、すぐに購入して年内に改修を進めたいので、決済だけ急いでもらえるようにお願いできませんか?」
「もちろんです、売主さんにお願いしてみます」
そして、1週間後の午前10時に決済完了。その1時間後に現場で工事業者さんと待ち合わせをして、その場で見積もりを依頼しました。依頼内容は屋上の防水と残置物撤去、壁と床、トイレ、カウンターなど、全てを取り払うスケルトン仕上げでの解体の見積もりです。
壊して捨てることがメインなので、計算はシンプル。業者さんも慣れたもので、即概算の見積もりを出してくれました。その場で発注すると、「翌週からすぐに現場入ります」と約束してくれました。
解体は無事に終了しましたが、入居付けは予想よりも時間がかかりました。たくさんの問い合わせがありましたが、スケルトンだと完成イメージをできる入居者の方が少なく、。空室期間は1年にもなりました。
でも、必ずテナントは決まります。これは、もう分かっていることです。僕の経験上、ずっと決まらなかった物件なんてありません。全ては所有者のやる気と行動量の問題です。
なぜスケルトンのままなのかというと、入居する人に1棟で借りるか、1フロアだけ借りるかを決めてもらい、それに合わせて改修を行うからです。自分としては、1階と2階を分けた方が利益が上がるので、できれば分けたいと思っていました。
最終的には、1階だけを使うスナックが入居しました。その前に、1棟借りてそこに住みたいという韓国料理屋さんやインドネシア料理屋さんの問い合わせがあり、工事費の見積もりを出すなど検討していましたが、まとまりませんでした。
1階は10万円で貸しました。2階はまだ空室ですが、8万円で貸す予定です。2階も多分スナックになると思います。工事費は、防水と残地物撤去で200万、残りの工事、床、壁、階段造作等で200万になる見込みです。
取得費と改装費で650万円というのは予想よりも低い金額です。あとは2階が決まってくれれば、利回りは33%になります。
■「自分の人生をこれだけに費やしていいのか?」
物件再生の目処が立つと、こういうことを無限に繰り返していける気がします。しかし、その一方で、「自分の人生をこれだけに費やしていいのか?」という思いが年々強まっています。
僕は妻や家族や友達と旅行にでも行こうか?と計画したら、最低でも1週間、普通に数週間は自由に旅に出かけられる自分でいたいと思っています。旅行に誘っても1泊か2泊しかできないなんて、ありえない。
極論を言えば、明日から1週間旅行に行こうと決めても何の支障もない、そういう状態になりたくて、20代の頃から就職せず、色々なものを犠牲にして、今の人生を作り上げてきました。
だから最近の僕は、売却のことをよく考えます。このビルは3年で投資金額を回収して、数年保有したらタイミングを見て1,700万円くらい、購入者にとって12%くらいの利回りで売却しようと思っています。自分のメインエリアから遠いものは少しずつ売却という方針は変わりません。
以前のコラムで書いた元風俗廃墟店舗も、銀行への返済が終わる6年後に入居者様の一人に売却予定です。4,000万円で購入して改修に2,000万円をかけたので、「最低でも6000万はするけど買いたい?」と訊いてみたところ、「とても興味があります」と即答されました。
参照:ブルーオーシャン市場は作るもの。廃墟風俗物件を飲食店舗街へ変えた3年間の格闘
賢い彼は僕の仕事をずっと見ていたのです。銀行にお金を借りても他のテナントさんから家賃が入る。それで返済分を支払ってもお金が残る。それをわかっています。この店舗には思い入れがありますが、ご縁のある人に譲ることができれば僕も満足です。
大切なのは、売却の時期です。というのも、僕は銀行の返済もドンドン進めているので、売却時期と完済時期の調整をうまくやらないと、一時的に必要以上に苦しい思いをすることになって、後から逆にラクになりすぎる可能性があるのです。
前々回のコラムで書いたように、今年から4物件で融資期間を短縮したことで毎月の元金の返済が50万円強増えました。これを僕はどう体感するだろうか。少しずつ楽になれるように、しっかりと計画を立てたいと考えています。
全ての計画がうまくいくとは限りません。その時々で適切な対応ができるよう、プランABCくらいは常に用意しておこうと思っています。