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増える化学物質過敏症!対策にオーガニックアパートを

賃貸経営/技あり・話題の賃貸物件 ニュース

2023/11/13 配信

近年、化学物質過敏症という言葉がじわじわと広がりつつある。洗濯時に柔軟剤の使用が一般的になるなど無意識のうちに使われる化学物質が増加、それが症状に繋がっていると言われるが、これによってそれまで住んでいた住宅に住めなくなるなど各種被害が出始めている。

それに対して少しでも症状が出ない、安心な賃貸住宅をと「オーガニックアパート」の研究を始めた人がいる。何が問題か、今後についても聞いた。

増加する化学物質過敏症患者

認定NPO法人化学物質過敏症支援センターによると化学物質過敏症とは「過去にかなり大量の化学物質に一度暴露された後、または長期間慢性的に化学物質の暴露受けた後、非常に微量の化学物質に再接触した際にみられる不快な臨床症状」と定義されている。

重症になると仕事や家事ができない、学校に行けないなど通常の生活が営めなくなることもある、言ってみれば環境による病である。

しかも、面倒なのはそれまでは全く問題がなかったものが原因となり、ある日突然に発症すること。花粉症と同じで誰もがいきなり発症者になるのである。

原因となるものとしては柔軟剤、洗剤、芳香剤、消臭剤、防虫剤、殺虫剤、接着剤、塗料、ワックス、住宅建材、粉塵など。特に近年は柔軟剤、芳香剤などの強い香りに反応する人が多く、香害などという言われ方をすることもある。

自ら化学物質過敏症でも暮らせる賃貸住宅に取り組む

これに対して少しでも症状が緩和できる、快適に暮らせる賃貸住宅「オーガニックアパート」を研究している人がいる。大手企業の研究者として勤務しながらまちづくり、住まいづくりを東京大学大学院で学ぶ柳田徹郎さんだ。

柳田さんは自らも化学物質過敏症を発症、苦しんだ経験からオーガニックアパートの研究をスタートした。

「化学物質過敏症は病名としては登録されていますが、専門医は少なく、診断の機会を得ることは容易ではありません。症状から自律神経失調症と間違われることや、原因不明とされることもよくあるため、症状を自覚することはなかなか難しいといえます。その一方で身の回りでは化学品の量が増え、発症リスクは高まっています。

大人の場合、1日あたりの体内への取り込み量は食品で1㎏、水分で2㎏ と言われており、それが空気になると15㎏。私たちはずっと空気を取り入れ続けており、取り入れなければ生きていけません。それを考えると空気の質は大事。食品、水分については肝臓で解毒できるのに対し、空気は肺から血液へ直接入り、脳へと体内を循環するのです」。

経済合理性で考えると大家はこうした建材を選ばざるを得ない
経済合理性で考えると大家はこうした建材を選ばざるを得ない。画像はすべて柳田さんが第31回日本臨床環境医学会で使用したもの。そのため、物件については改修中となるが、現在は完成している

そう考えると、できる限り、化学物質が含まれていない、放散しない材を使った住宅が良いことになるが、それは経済合理性に反する。大家の立場で考えると壁紙、クッションフロアなどの内装材にはそれほどお金をかけたくないのが本音。できるだけ短時間で施工でき、見栄えが良いモノを選びたいと考える。

「市場経済に任せている範囲においては問題は解決しないと考えました。では、どうすれば良いか。いくつか、市場を調査しました」。

市場経済に頼らない方法を研究

ひとつは団地。木造よりもリスク物質の放散量が少ないRC造の集合住宅である。URに代表される団地ではストック再生、子どもや高齢者などを対象にした福祉的活用の試みが各所で積み重ねられており、団地再生のひとつの方策として化学物質過敏症への配慮をテーマとしても相性は良いのではないかと考えた。

続いて調査したのは経済的不利を克服した不動産活用例。具体的には福岡県で築古ビル等の再生を手掛けてきた吉原住宅の吉原勝己さんが中心となって活動しているNPO法人ビルストック研究会の活動を対象とした。

「ビルストック研究会ではまちの活性化のため、市民を巻き込みながら九州各地の空き家、空きビルをDIYで再生されています。吉原さんは好きな暮らしは自分で作るという言い方をよくされており、コーポ江戸屋敷という団地の改修も手掛けられていらっしゃいます。

「住みたいまちは自分たちで作る」というマインドは、現状悲観的にならざるを得ない化学物質過敏症の患者たちにとって大きなヒントになるように思いました。

さらにリサーチしてみると地域の人と一緒に空き家などを改修するコミュニティ大工・加藤潤さんという存在に行き当たった。大家だけが費用を負担して作るオーガニックアパートメントでは収支が合わないとしても、それを大家と入居者が力を合わせて作るものだとしたらどうだろう。

団地の一室を自ら改修、患者に貸し出すという計画

築古団地の一室を自ら購入、DIYをした
築古団地の一室を自ら購入、DIYをした

そこで柳田さんは1969年築、かつて神戸市住宅供給公社が分譲した六甲の団地の一室を購入。リモートで大工さんの指導を受けながら入居希望者やその家族、協力者と一緒にリノベーションを手掛けてきた。

自分たちで手掛けることでいくつものメリットが考えられる
自分たちで手掛けることでいくつものメリットが考えられる

「これまで多くの患者が不慣れで知識のない工務店に依頼、お金を使って住めない家を作ってきました。ですが、自分たちでやることで情報、ノウハウを蓄積し、それを仲間と共有できれば無駄なことをしなくて済みます。また、そこでネットワークが生まれれば、症状の辛さ、理解してもらえなさ、社会との分断から生きることを止める人を出さずに済むのではないかとも考えました」。

団地はすでに完成。11月から住みたいと希望している人がいるがそこでも問題があることに気づいたという。一口に化学物質過敏症といっても人によって反応する物質は異なり、そのレベル感にも個人差がある。

また、体調によってダメな時と大丈夫な時があり、安定していない。そのことから物事をすぱっと決めにくいのである。住宅でいうとこの部屋に入居して大丈夫か、躊躇してしまい、決められないというのだ。

安心できる部屋を作るまでに時間がかかるだけでなく、入居を決断するまでにも時間がかかるのである。

オーガニックアパート研究所を設立

だが、そんな状況下でも柳田さんは取り組みを促進している。

「ワンルーム29室の物件を購入、オーガニックアパート研究所を設立して、さらに研究を続けています。反応する物質が花粉症より多様で複雑なところはありますが、それでもこれまでの研究でゴム系がダメな人、木材由来のピネン系がダメな人など、いくつかパターン化できることが分かってきました。

今後は室内空気室の判定できる人を増やす、住んでいる人の声を集める、計測して定量的な評価をすることなどを続けてオーガニックアパートの需給がスムーズに結ばれる仕組みをつくり、選択肢のひとつになるようにしていきたいと考えています」。

オーガニックアパート研究会では前述の吉原氏や大家さん、施工に詳しい人たちがメンバーとなり、柳田さんが得た検証結果をもとに議論を重ね、いずれは実現可能なルールを定めていこうとしている。それがある程度まとまってきたところで外部の方向けにも情報提供、物件見学などの定期的に作っていこうと考えているという。

さらに将来的には現状では社会のお荷物になっているともいえる過敏症患者でも社会に貢献できるようなエコエリア(環境規制特区)を作ることを考えているという。

子どもたちに対してもそうしたエリアを作ることで発達障害や各種アレルギー疾患の抑制にも繋がり、健全な将来世代の育成に寄与するのではないかという。また、衛生環境を保つために化学品が多用されている高齢者施設では化学物質過敏症患者は生きていけないため、オーガニックサ高住も必要になってこよう。

こうした話に自分には関係ないと思う人もいるだろうが、現時点で大丈夫だからといって安心しないほうが良い。有病率は増加しており、しかも、化学物質過敏症の人は早い時期に花粉症を発症している。すでに花粉症の人には発症のリスクがあり、そうでない人にも花粉症同様にある日、発症するかもしれないといえるわけである。

ちなみに発症しないためには換気を心がける、不要な芳香剤、柔軟剤、防虫剤の使用を止めるなどの手があるが、世の中全体では使用が増えている。注意したいところである。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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