性的マイノリティー、いわゆるLGBTに対する理解を深めよう、という動きが活発だ。その差別をなくすことを目指して「LGBT理解増進法案」(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律) が今年の6月16日に国会で可決、成立した。いわゆるLGBT法案である。
内閣府は、「全ての国民が、その性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指し、性的指向とジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を推進する」としている。
国土交通省では、民間の賃貸住宅や空き家等を住宅配慮者の入居を拒まないセーフティネット住宅として登録する制度を2017年に創設している。
この住宅確保要配慮者は法令上、低所得者や被災者、高齢者、障害者、子ども養育している人などを指すが、LGBTへの取り組みとして、自治体の判断で柔軟にセーフティネット住宅の対象者を拡大することができるよう、自治体の賃貸住宅供給促進計画において要配慮者を追加可能としており、国の指針で要配慮者に含まれうる者としてLGBTを明示している。
多様性を意識する不動産会社
福岡市内を中心に不動産管理事業を展開する三好不動産は、このLGBTの取り組みが評価され、任意団体「Work With Pride」が認定するLGBTに関する企業等の取り組みを評価する「PRIDE指標2022」で最高評価のゴールドを受賞している。
同社が評価を受けた内容をみると、2016年に同性カップルの部屋探しの取り組みを始めたり、全拠点にレインボーステッカーを掲示するとともに全従業員がレインボーバッチを着用、名刺にもレインボーマークを配置する、SNSでの情報発信に努めている、ことなどが評価されている。
部屋探しでは、これまでに約150組の同性カップルの賃貸借契約を成立させてきたようだ。同社の就業規則においても2017年に「人事異動にあたり性的志向や性自認に起因した差別を行わない」ことを盛り込んだ。
ほかに、LGBTカップルが共同で家を購入したいというニーズに対応できるよう楽天銀行と住宅ローンで提携(2021年)したり、LGBTフレンドリーサイトやユーチューブチャンネルを開設している。
ただ、LGBTフレンド―対応に関する社内勉強会を今年7月に開催したところ、当事者や同性カップルが大家から入居を断られるケースが依然として見られるとしている。
大家の年齢層が上がるほど拒否感
LGBTの当事者などで運営する不動産会社、IRIS(東京都新宿)では今年5月にLGBT当事者を取り巻く住宅環境の課題についての調査をしており、それによると、LGBT当事者にどの程度具体的な課題を認知しているかを尋ねているが、賃貸における課題の認知率が高く、特に「同性カップルだと入居を断られることがある」「緊急連絡先や連帯保証人へのアウティングリスク」などが上位に上がっている。
そもそも大家は同性カップルの入居をどうして嫌うのか。少子高齢、人口減少など賃貸住宅を取り巻く環境が厳しさを増す中で、家賃の滞納なく住んでもらえれば物件の収益力の裏付けとしては問題ないはずだが、なかなか理解してもらえない現状が続いているようだ。多様性を意識する不動産事業者と大家の意識格差が縮まらない。
複数の大家に聞いてみると、「特殊な人が入居すると、他の一般の人が嫌がって出て行ってしまう」「入居する際の契約が複雑になるのではないか」「家賃を滞納されたら面倒くさそう」などが挙がる。なかには、「そのような性向の人は生理的に受け付けない」といった強い拒否感の声も挙がる。
大家の年齢が高くなるほどそうした感じの返答が少なくない。「今の風潮を見ていると、これは私の好き嫌いの問題なのに性差別だと逆に私が炎上しかねないので、LGBTだから、という以外の理由を探して断っている」(70代男性)と本音を漏らす大家もいる。
こうした大家たちはLGBT法案の成立を受けてさらに地下に潜る可能性もありそうだ。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))