東京タワーのお膝元に、江戸の風情で満たされた広大なエリアがある。高級豆腐料理専門店「東京 芝 とうふ屋うかい」だ。
芝公園や増上寺などの緑に囲まれた約6000平方メートルの敷地に、池や築山を備えた日本庭園を配置、山形から築 200 年の造り酒屋を移築して、東京タワーの真下とは思えない「大江戸情緒」が、2005年の開業以来、国内外から人気を集めてきた。

ここに、タワーマンションが建つという噂が、この数年まことしやかに流れていたが、近々いよいよそれが本決まりになるのではないかと不動産業界が騒然としている。
東京タワービューを売り文句にしてきた港区や近辺の既存マンションからの景観が大きく損なわれるのではないかというのだ。
近年、「景観」と開発をめぐるニュースが相次いでいる。
今年6月、東京都国立市で積水ハウスが手がける新築マンションが、「富士山の景観が阻害される」という住民の反対を受け、完成・引き渡し直前に解体されることになったニュースは記憶に新しいだろう。

首都圏の不動産市場においての東京タワーの眺望は、万葉集で「神の山」と詠われるなど、古来、日本人の心の拠り所となってきた富士山の眺望と同等かそれ以上の価値を持つと考えられる。
昨年11月に完成した東京タワーと同じ高さの「麻布台ヒルズ」が、東京ミッドタウン方面からのタワービューを完全に遮ってしまい物議を醸したことを思い出す人もいるだろう。
とうふ屋うかいの敷地にタワマンが建つと、東京タワーの南側からの眺望は絶望的だというのが大方の見方だ。具体的には、古くからの高級住宅地として知られる港区の三田や高輪、または品川駅周辺のタワマンからは、東京タワーが完全に隠れてしまうことになると見られる。

2021年10月に、日本経済新聞が「東京タワー地区の再開発、三井不動産が検討 10年後めど、シンボル生かし再生」と報じている通り、このエリアの再開発は三井不動産が担うことになりそうだ。
日経の記事に「2030年前後に周辺一帯の2万5000平方メートルに商業施設などの建設」と書かれているが、東京ミッドタウンで培った三井の得意とする複合施設となれば、高級レジデンスが組み込まれることも大いにあり得るはずだ。
三田、高輪、品川エリアには三井が分譲した高級マンションが複数存在するが、そのあたりの利益相反を同社がどのように解釈していくかは気になるところ。東京タワー眺望の利益を最大限享受できるのは誰なのか、不動産関係者でなくても注目に値する。
今後のスケジュールを予想してみる。同店を運営する株式会社うかいが、土地の所有者である株式会社TOKYO TOWER(旧:日本電波塔株式会社)から事業用借地権方式で同地に出店することが発表されたのが2004年6月のこと。
現在は事業用借地権の期間は「10年以上50年未満」と定められているが、2008年1月1日に借地借家法が改正される以前は、「10年以上20年以下」だった。
ここで、2021年9月に惜しまれつつ閉館した「東京お台場 大江戸温泉物語」のケースを思い出してもらいたい。
こちらも契約締結当時の借地借家法では、東京都と交わした事業用借地権契約の最長期間は20年だった。都との再契約も叶わなかったため、建物を解体撤去し更地にしたうえで土地を返還するため、同年12月の契約満了日を前に閉館したという経緯だった。
うかいとTOKYO TOWERの正確な契約開始日は明らかにされていないが、今年中に事業用借地権の契約切れになることは間違いないだろう。
一方で、同店は通常営業を続けており、今のところ閉店のお知らせもされていないことを考えると、おそらく当初の借地権契約はすでに5年程度の再契約が交わされているのではないか。
とすれば、2030年前後に一帯が再開発されるという日経の報道は的を得ていると言えそうだ。
健美家編集部(協力:(おおさきりょうこ))







