ウクライナ危機に端を発した、エネルギー価格の高騰。電気代やガス代の高騰は、毎月の出費に影響するため、家計負担は大きい。そんな中、少しでも生活費を安く抑えようと、都市ガス物件が見直されていると聞く。そこで、プロパンガスと都市ガスのシェアが拮抗するエリアでの影響を調べてみた
■都市ガスのほうが
プロパンガスよりもお得
あまり知られていない事だが、都市ガスのほうが、プロパンガスよりも出費が少ない。例えば、東京都の東京ガス(都市ガス)の2023年6月の一般契約料金は、「基本料金759円/月」であり、20m3までは、「従量課金145.31円/m3、すなわち20m3なら2,906.2円/月」であるのに対して、一般社団法人日本エネルギー経済研究所・石油情報センターの東京都のプロパンガス平均単価は、「基本料金1,862円/月」であり、「20m3なら14,109円/月」となる。かなりの差である。
とはいえ、「プロパンガスの熱量は都市ガスよりも高い」ので、同じ体積で計算するのは不利ともいえる。そこで、一般社団法人プロパンガス料金消費者協会によると、「プロパンガスの熱量は都市ガス比2.23倍である」としているため、この数字を採用すると
都市ガス 基本料金759円 20m3の2,906.2円×2.23倍=6,480円
プロパンガス 基本料金1,862円 20m3 14,109円
と、それでも倍違う事になる。(ただしあくまで平均であり、安いプロパンガスもある)
■プロパンガスは輸入価格連動方式で自由価格。
ガソリンスタンドのように、運営企業によっても異なる
プロパンガスの料金は、輸入価格連動方式で、「中東の原価」「アメリカの原価」に連動する「輸入価格連動方式」によって決められている。
当然、ロシアからのガスの供給が減り世界的にガス価格が高騰するとダイナミックに価格に影響する。ここに、民間企業ゆえ、人件費や輸送費など固定費もかかる。都市ガスインフラの普及していないローカルなどで、プロパンガスをトラックなどで運ぶ事で、さらにコストは上がり、人件費も上がる。
また、「ガソリンスタンドのガソリン価格が、お店ごとに違う」ように、プロパンガスの料金も、運営する民間企業により異なる。
当然、割安な価格で競争する企業もあれば、なかなか価格を避けることが出来ない企業もいる。そして、賃貸物件は、入居希望者がガス会社を選択するということはなかなかなく、入った物件のガス会社の料金が高ければ、高いガス代を払うということはありえる。
一方で、都市ガスは公共料金として規制されていた歴史も長く、安い時に輸入したガスをタンクに蓄積しておくなどといった、経営上の効率化も行いやすいともいえる。
■プロパンガス会社の競争激化の中、
設備負担を行う企業も
プロパンガス会社は民間企業であるため、ほかのプロパンガス会社と価格競争をしている。「Aというプロパンガス会社よりも安いですから、Bというプロパンガス会社に変えてください」という競争原理は、入居者にとっては歓迎すべき企業努力であり、資本主義とはこうした価格競争があるからこそ、切磋琢磨して進化と成長が見込まれるものだ。
ところが賃貸物件の契約時に「ここのプロパンガスは、よそより安いですよ」といった説明はなかなか受けない。
建物単位で同じガス会社のボンベを置くのが普通であり、その意思決定権は、建物の持ち主である大家さんとなる。大家さんにすれば、月々のガス代の単価の高い安い、よりも、例えば、プロパンガス器具をリースしてくれる、あるいは故障時にすぐ直してくれる、あるいは日頃から仲が良いといった様々な理由で、プロパンガス会社を選んでいるという実情がある。
■都市ガスでもプロパンガスでも
お部屋探しには関係ない?
たしかに、「どのプロパンガス会社か」はなかなか、消費者の物件選びには影響していないだろう。価格の違いなど、なかなか比較検討は、ガソリンスタンド価格のように容易ではない。
では、都市ガスとプロパンガスではお部屋探しに影響があるだろうか。
リクルート住まいカンパニーの2018年度の賃貸契約者調査によると、「次に引っ越すときほしい設備」第4位が「都市ガス」であった。
■次に引っ越すときほしい設備
残念ながら、この調査では、2019年度調査からは「都市ガス」を「調査項目から外してしまった」ため、経年変化が見られない。また、この調査は「次に住むときには」という前提。
初めてのひとり暮らしでは、「都市ガスのほうがプロパンガスより安い」とは「知らなかった」という人が多いのが実態だろう。実際に毎月払ってみて、「次は、都市ガスにしよう」と考えるような選択ポイントだったのは、現場実感値とも合致する。
■都市ガス物件を
わざわざプロパンガスに変更?
実はこれまで、都市ガスで建築した物件をわざわざプロパンガスに変える、といったことも地域によっては行わる事もあった。
入居者目線では月々のガス代支払が増えてしまうような施策であるが、民間会社であるプロパンガス会社が、オーナーのためにガス管工事やガス設備などを負担し、あるいは、エアコンやリフォーム代などもサービスしてくれるのであれば、「では、そのプロパン会社に変更しよう」といった事もあったと聞く。
とある新進気鋭の管理会社の社長が発売した、収益物件オーナー向けの書籍には、はっきり、「プロパンガス会社を変えて設備強化」と書かれていた。企業努力とはいえ、生活者にとっては、あまり良い傾向ではない事もある
■ところが、都市ガス物件のほうが
プロパンガス物件より、家賃下落していないことが判明
なるほど、都市ガスとプロパンガスの価格の違いは、さほど入居希望者に認知されていなかった。しかし、昨今のエネルギー価格高騰で、入居者の意識にも変化が出ている。
この繁忙期では、賃貸の現場で「都市ガス物件ですか」という質問が、ちょうど都市ガスとプロパンが拮抗しているエリアでは多かったという現場の声を聴いた。生活者の視点としては、エネルギー価格に対する意識が変化しているのかもしれない。
そこで、都市ガスとプロパンの激戦区である広島市の中心部で、賃料の変化を調べてみた。
まさに「神の見えざる手」。全築年数で、都市ガス物件よりも、プロパンガス物件の賃料ダウンが激しい。
ご承知のとおり、築年を経ると賃料相場は下がる。その一方で、人気設備をつければ賃料ダウン幅は小さくなる。プロパンガス物件の人気が下がっており、なかなか空室が埋まらず、募集賃料を下げざるを得なかったのではないだろうか。
これほどまできれいに賃料相場に差が出るとは。
逆に言えば、プロパンガスのほうが家賃を安くして募集したため、生活費は同じくらいに着地したともいえるかもしれない。各物件を見ると、プロパンガス物件の入居率の悪化の実態は明らかである。これもひとつの「アフターコロナの変化」であろう。
■国が、プロパンガスの
設備上乗せについて、問題視
こうした情勢の中、経済産業省資源エネルギー庁は2018年2月、ガス会社に対する取引適正化のガイドラインを改訂し、自社の料金メニューの公表を要請した。
ガス料金の重要事項説明時に、「このガス料金には、これこれの設備の料金も含まれています」ということも述べるようにという趣旨であった。なかなか踏み込んだ中身であったがあくまで要請レベルであった。
しかし、経済産業省資源エネルギー庁は2023年3月、「料金透明化・取引適正化の動向」などを議題とした分科会を開催し、設備費と利用料金の契約を、物件オーナーと入居者に分離する」という内容を議論した。そして7月には「制度改正」を行うとのこと。
そもそも、こうした設備負担はプロパンガス会社の経営にも負担となっており、輸入価格高騰も相まって、プロパンガス会社の取り込み方は変わっていくだろう。
災害時の復旧が速い、火力が強い、地域密着で修理などもすぐ飛んでくる、といったプロパンガスには良さがある。その良さを活かして、プロパンガス会社も、輸入価格高騰と闘っていくステージに進化していくのである。
執筆:
(うえののりゆき)