ようやく、コロナ禍以降に光明が見え始め、観光地にはインバウンドが戻り始めた。観光客の大幅減少に加え、人口減少数が全国でも有数と報道された京都市だが、現状はどうなっているのか。民泊以外の動きも含めて聞いた。
生き残ったのはユニクロとヴィトン
京都市下京区にある不動産コンサルティング会社・株式会社コミュニティ・ラボ代表の田中和彦氏は現在の京都市の宿泊事情を二極が生き残った状態と表現する。
「コロナ禍で淘汰が進み、生き残ったのはユニクロとヴィトンだったという感じでしょうか。コロナ禍でも一泊10万円以上のいわゆる5つ星ホテル、フォーシーズンズホテル京都、ザ・リッツ・カールトン京都、パークハイアット京都、HOTEL THE MITSUI KYOTOなどといったところは稼働も良く、人を集めています。
また、特徴があるわけではないけれど安定した品質、安価というビジネスホテルなどもそれなりに順調。問題はインバウンドが商売になると2017年、2018年くらいに始めた10~15戸ほどの小規模で特徴のない民泊です」。
もともと京都の宿泊者は修学旅行生が中心で、それほど宿の数があったわけではないと田中氏。関西からは日帰り圏でもあり、泊まるなら大阪というケースも少なくなかった。ところが、そこにインバウンドの波が到来。2014~2015年には宿泊施設が圧倒的に足りず、既存の宿はある意味、殿様商売ができていた。
それを見て、新たな参入者が押し寄せ、アパートを転用するなどした小さな宿が大量に生まれた。だが、これらは宿が足りないために埋まっていただけで選ばれていたわけではない。そのため、現在、苦労しているのがこの層。
ニーズは戻ってきているが人手不足が影を落とす
「戻ってきたインバウンドを相手にもう一度宿をと借りたい人も増えており、オーナーチェンジも進んでいますが、それは30~40戸レベル。それ以下の特徴の出しにくい物件は難しいかもしれません」。
宿再開にあたり、もうひとつ、ネックになっていることがある。人手不足だ。日本全体で人口が減少、人手が足りなくなりつつあるが、特に京都はその傾向が顕著。小さな宿では人を雇うことができず、それで再開、新規開業できないのだという。
「人手不足はさまざまな力関係を変えています。マンションデベロッパーとゼネコンだと以前は発注する側が強かったものですが、今は逆転。宿なども同様の動きです」。
小規模で回っているのが唯一、一棟貸しの宿だが、数は非常に少ない。
「一戸建て利用はバリアフリー法の関係もあり、年々難しくなっています。また、京都市はもともと民泊には厳しく、面白いものを作ろうとしてもハードルが高いのが現状です」。
小規模、個人オーナーの個性店が話題を呼んでいる
その一方で今、増えているのが小規模で個性的なレストランその他の店舗だという。完全予約制でコース料理を提供するというフードロス、無駄のないスタイルで評判になる店は半年、1年、それ以上先までの予約が入っているとも。
その背景のひとつには田中氏のような不動産会社や工務店などが小さなアパートや倉庫などを所有者から借りて改装、それを貸すという動きがあるという。
「工務店の場合、このところのメインの仕事は下請けですが、それだけではやっていけないと自前で仕事を作ろうという動きがあります。それが築古、小規模物件の改装で、大家さんからは改装費を負担するからと安く借り、それを店舗として貸す。
不動産会社の場合、本当は右から左に貸すほうが楽で儲かりますが、こうした改装、サブリース事業をやることで地域の価値が上がれば最終的には自分にも戻ってきます」。
最低限の改装で、初めて出店のニーズを捉える
田中氏が現在手掛けている物件を見せていただいた。場所は市営地下鉄烏丸線五条駅から東へ入った、寺院の多く集まっているあたり。
「お寺の周りに小さなアパートや倉庫、かつては店舗として貸していた古い建物が集まっており、それを順次改装、貸し出しています」。
まず、見せていただいたのは中央に階段を設けた2階建ての4軒長屋。各戸は車庫一台分とコンパクトなスペースで、これをいわゆる小商い的なことができる空間に変えた。1階は4戸そのままを貸店舗とし、入っていた古いガラス引き戸は新しくし、砂壁の上には合板を張っただけの、費用をかけないシンプルな仕上げだ。
2階は両側の住戸2戸を活かし、階段脇の2戸は吹き抜けにした。それによって建物の加重を軽くし、強度を上げるという意味もある。
「副業として週末にカフェをする、本業の他にポップアップショップを経営するというような使い方を想定しました。その場合、出せるとして契約時に100万円、年間で100万円くらいではなろうかと考え、賃料は月額7~8万円。建物の前に張り紙をしたり、こんなことをやっていると口コミで広めてもらって入居が決まりました」。
現在入居が決まっているのはテキスタイルのアトリエ、デザイナーのポップアップショップ、Fabcafeの展示場、パン屋さんの工房。残りは1戸だが、自分で使っても良いかなと田中氏。徐々に人が集まってきている感じである。
また、アパートの隣には蔵があり、これもいずれはと考えている。さらに角を曲がったところには3間の建物が並んでおり、この3棟もすでに使われ始めている。
一画が変われば地域全体も変わる
一番手前にあるガラス戸の入った建物はパン屋の入居が決まっており、これから改装の予定。現状、ガラス戸が割れているなど、かなり老朽化しているが、たぶん、改修後には見違えるようになるはずだ。
その隣は蕎麦屋。しかも、一部に陶芸工房があり、そこで焼かれた器で蕎麦が提供されるという趣向。細長い、元仕出し屋だったという店舗を利用、既存建物を残しつつ、新しさを感じるリノベーションが行われている。
その先、角にある建物は市内に何店かある立飲み店のセントラルキッチンとして使われている。今のところ、地域に開かれた使い方ではないものの、いずれはここを店として使うということも考えられているそうだ。
「このあたりは住んで、働いている人が多いのでその人たちに日常的に使ってもらえる店にニーズがあります。コロナ前に使っていない建物を活用しようという話になっていたのですが、コロナ禍で一層、そうしたニーズが高まったことを感じています。
大型店舗ではなく、地元の人に毎日利用してもらう小規模店舗なら、費用をかけずに改装できます。そうした建物を積み重ねていくことで地域も変っていくのではと考えています」。
普通だったら建物を取り壊して駐車場にする、あるいはプレハブを建てて無人店舗にするなどが常道だろうが、それでは地域の価値は上がらない。サブリースを上手に活用、築古不動産を再生する人が増えると地域とともに不動産の価値も上がりそうである。
普通の古い家でもセンス次第で化けることも
ちなみにこの地域では他にもこうした小規模な不動産を活用して今風に改装、繁盛している店がいくつかある。眺めてみて思ったのはもともとがいかにもという古民家でなくても上手に改装することで趣のある店舗は作れるのだなということ。もちろん、そのためにはセンスは必要だが、それがあれば十分繁盛店は作れるのである。
ちなみに京都ではここ10年ほどでもうひとつ、増えたものがある。コワーキングスペースだ。数が少ない時代にはあるというだけで利用者が集まったが、こちらもそろそろ淘汰の時期に入っている。京都駅八条口周辺の乱立ぶりを見ると工夫が必要な時代になったことを感じずにはいられない。