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マンションの将来を考える~「維持・延命」か「建替え」の分かれ道~

不動産投資全般/区分マンション建替え ニュース

2023/06/22 配信

社会全体の高齢化に合わせるかのように、マンションも高経年化が進んでいる。国土交通省の資料によると、2021年からの20年間で、築40年以上のマンションは115.6万戸から425.4万戸へと、3.5倍以上になる試算だ。

高経年マンション戸数の経時的推移(国土交通省HPより)
高経年マンション戸数の経時的推移(国土交通省HPより)

同省の「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」では、マンションの資産価値を維持・向上させていく行為を広義に「再生」と呼ぶ。

このマニュアル自体もその再生手法が広く普及するよう管理組合向けに作成されたものだが、肝心の管理組合では、「再生」に着手するための意識不足、知識不足、そもそも音頭を取るべき理事会メンバーの担い手不足、など様々な問題が立ちはだかる。

これらがボトルネックとなり、多くのマンションでは再生に向けた合意形成が先送りされる現状がある。逆に言うとそのような背景からこのマニュアルが国によってお膳立てされているとも言えるだろう。

今回、マンション管理士である飯田勝啓氏に、マンション再生をどのように考えてどう進めるべきか、に関する解説をもらった。

マンション管理研究会 代表 飯田 勝啓(いいだ かつひろ)氏
マンション管理研究会 代表 飯田 勝啓(いいだ かつひろ)氏

マンションを「再生」させる上で分かれ道となる2つの方向性

マンション再生には大きく2つの方向性がある。飯田氏はその一つを「維持・延命」と表現し、もう1つを「建替え」として整理する。さらに飯田氏は幾つかの観点から両者を比較する。

「『維持・延命』は入居者が居住継続しながら実施できるがオーナーの関心は低くなりがちです。反対に『建替え』はオーナーや入居者の関心度は高くなるものの、入居が一時的に不可能となるなど合意形成の難易度も高くなります。

どちらも先立つ資金が必要という基本的な共通点もありますが、当然『建替え』にはより高額な費用が必要となります。いずれにせよ2つの方向性や潜む課題には大きな違いがあります。」

それぞれの現状について、飯田氏は課題を指摘しながら留意すべき点を提言する。

高経年マンションの分かれ道で方向を決めるのは、他でもない管理組合の構成員である区分所有者の”民意”だ(写真はイメージ)
高経年マンションの分かれ道で方向を決めるのは、他でもない管理組合の構成員である区分所有者の”民意”だ(写真はイメージ)

「維持・延命」に向かう場合の留意点とは?

飯田氏はマンション管理士として10年超のキャリアの中で、管理組合の数にして40を超えるマンション再生支援に携わった経験も持つ。「維持・延命」は手段としての「大規模修繕」とひと括りに言い換えられることも多く、それを司る「長期修繕計画」がカギを握るという。

「マンションは建物や設備に対する管理・保全がよければ100年超も維持できるとされていますし、実際にそのような建物も国内外に存在します。『長期修繕計画』はそれを実現するための費用やスケジュール案を指し示してくれる大切な道しるべです。また、その前段階で分かれ道のどちらに進むかを判断するための参考にもなります。

ですが、長期修繕計画を持ちながらも、主体的に活用しているという管理組合は多くないのではないでしょうか。

国土交通省のマニュアルでは性能・機能を回復させることを『修繕』、性能・機能をアップさせることを『改良』と呼び、それらを合わせて『改修』としています。どちらも資産価値を維持するためには不可欠です。」

大規模修繕の回数を重ねるごとに「改良」の割合を大きくしていくことが重要、とある。(国土交通省HP「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」より)
大規模修繕の回数を重ねるごとに「改良」の割合を大きくしていくことが重要、とある。(国土交通省HP「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」より)

加えて飯田氏は大規模修繕に関する課題を幾つか列挙しながら、同時に警鐘を鳴らす。

「大規模修繕に関連する課題として、以下のような事象が挙げられます。

①マンションの将来計画を反映した仕様が必要(どの設備をどこまで手入れするのか?建替えの可能性もあるとしたらそれまでの年数に耐用する過不足のないスペックの落としどころは?など)

②数千万円~億単位の工事費用が発生

③組合員にとって初めての経験、専門知識なし

④無関心な組合員の存在

⑤不動産・建築業界におけるキックバックなどの商慣習

とりわけ⑤に関しては、不透明な受発注の例である”不適切コンサル問題”として国土交通省からも注意喚起が出ています。

この別紙1(リンク内4頁目)にある『一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注 できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様 の設定等に基づく発注等を誘導する』などの事例は実際に起きています。

教科書的には、施工会社にワンストップで依頼する『責任施行方式』よりも、設計と施工を分離して依頼する『設計管理方式』が推奨とされています。が、それはあくまで設計事務所が誠実であることが前提です。設計事務所(コンサルタント)と施工会社が”グル”になっている場合には、管理組合にとって利益相反となる”ぼったくり”が生じる温床となります。

大切な修繕積立金を巻き上げられないためにも、『相見積もりをする』『”一式価格”をそのまま受け入れず明細化する』『発注したい仕様を明確にする』『設計事務所や施工会社の提案を鵜呑みにしない』『管理会社の言いなりで進めない』といった自衛策が必要です。」

「建替え」に舵を切る場合にどのタイミングで動く?

一方、分かれ道で建替えを選ぶとなれば話はまた変わってくる。被災に基づかない建替えとなると、事例数としても295棟と全国的にまだ少ない(令和3年4月時点)。飯田氏は、数ある建替えへのハードルを挙げる。

「前述の『長期修繕計画』をベースに検討することで、建替えという選択肢のほうが合理的というマンションも出てくるでしょう。建替えを検討する上では、以下のような視点とそれに伴う懸念が考えられます。

①経済面(容積率や高さ制限などの観点で建替えに経済合理性があるか)

②近隣面(高層化、人口過密化、工事中の騒音・振動・粉塵への懸念)

③居住者面(損得勘定を超越した住まいへの愛着、強制引っ越しへの抵抗、コミュニティ消滅の懸念)

④オーナー面(賃借人との退去交渉、工事中の家賃収入蒸発、権利変換時に還元率低下することへの懸念)

これらを一挙に解決するのは非常に困難なため、早期からの段階的合意が不可欠です。建替え決議で5分の4以上の同意を得ることが焦点となりがちですが、ポイントは建替え決議そのものよりも手前から『初期合意形成』をしていくことです。

例えば、築30年を経過した辺りで『再生検討開始(発意)』のトリガーを引き、再生方針として建替えか維持・延命か、の方向性を合意します。そこで建替えに進むとなれば『建替え推進決議』と称して、建替えを前提に協議を進める旨だけでも過半数で合意しておくことは効果的です。」

”早期関与”による段階的な合意形成が肝となる(飯田氏ご提供資料より)
”早期関与”による段階的な合意形成が肝となる(飯田氏ご提供資料より)

合意形成のために今からできることは?

飯田氏は、時代によるマンション自体の位置付けが変化したことにも触れながら結語する。

「ひと昔前は、相対的に若年層も多くマンションの築年も浅かったため、問題を先送りできました。現在は都市型生活の拡大も手伝いマンションを”終の棲家”として考える人も増えたとされ、もはや社会全体として待ったなしの状況です。

合意形成のハードルを下げるために区分所有法改正の動きもありますが、まだ確たる結論は出ていません。それ以上に重要なのは、一区分所有者としてマンション管理に関心を持ち、理事会活動にも参画するようなオーナーが増えることです。

理事会メンバーとして推進する立場なら、組合員全体への勉強会・説明会を開催して丁寧に情報共有をしていくのもよいでしょう。」

”悪徳管理会社”について取り上げた以前のニュース「所有する区分マンションが事実上乗っ取られている?~管理組合と管理会社の利益相反を見抜く~」でも、「積極的に管理組合に関与する姿勢が大切」と飯田氏はメッセージした。今回も煎じ詰めると根は同じであり、各区分所有者が関心を持つことの重要性が出発点として共通する。

これからの”マンション高経年化社会”において、マンションオーナーの自覚を促す飯田氏のメッセージから学べる点は多いだろう。

執筆:三刀流大家(さんとうりゅうおおや)

三刀流大家

■ 主な経歴

健康関連業界で都内に勤務する現役サラリーマン。ヨーロッパ駐在を経て帰国したのち、副業テニスインストラクターとしても活動。兼業大家でもある”三刀流”ライター。
趣味・ライフワークは、読書、映画、献血、テニス、日記、ワイン、高カカオチョコ、コーヒー、モーツァルト、CHAGE&ASKA、キン肉マン。

北海道大学卒業。薬剤師免許、バイヤー向け資格CPP-A級(Certified Procurement Professional)保有。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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