近年、マンション管理組合の運営方法として、「第三者管理者方式」がクローズアップされつつある。理事会メンバーが区分所有者の中から選出されて管理者として機能する「理事会方式」が通常とも言える中で、築年数の経過に伴う管理の煩雑化や役員の担い手不足などの背景から、第三者に委ねるケースがある。
狭義にはマンション管理士などの専門家に依頼するケースも第三者管理者方式に含まれるが、管理組合から業務委託を受ける立ち位置であるはずの管理会社(やその関連会社等)が「管理者」そのものの立場になっているケースが実は多く存在している。
今回、マンション管理士であり不動産投資家でもある飯田勝啓氏からご自身の経験も交えたお話を伺い、管理方式の違いに関して注意すべき点、リスクの顕在化事例として管理会社との壮絶なバトル、マンションオーナーとしてのマインドセット、などに関して提言をもらった。
総会での提案が一蹴された悔しさからマンション管理士を目指す
飯田氏は11戸の区分マンションを賃貸経営する不動産投資家としての顔も併せ持つ。会社員だった49歳でマンション投資に目覚め、オーナーとして出席した総会で管理組合活動に関与したことが、その後の自身の世界を一変させるきっかけとなった。
「当時、対峙した管理体制はまさに第三者管理者方式でした。理事会自体が存在しないことも疑問に思いましたが、無駄と思われた工事の是非を総会の場で指摘したところ、議長たる管理者から『他の区分所有者からの委任状がある』ことを盾に一蹴されました。
さらには、理事会設立をはたらきかけた際にも、『投資用物件に理事会は不向き』などという理由でけんもほろろに拒絶されたのです。」
これらの”洗礼”に対する悔しさが原動力となり、専門知識を武装して渡り合うべく飯田氏はマンション管理士の勉強に着手した。
第三者管理者方式の問題事例による注意喚起
国土交通省も『外部専門家の活用ガイドライン』を策定しているなど、第三者管理者方式自体が必ずしも悪だというわけではないが、飯田氏は「第三者管理者方式」の注意すべき点について解説する。
「メリットとデメリットを理解したうえで信頼できる管理会社を選び第三者管理者方式を採用していればよいですが、中には区分所有者の無知と無関心をいいことに意図的に管理者の立場に居座り続け、管理組合を機能不全に陥れるかのように振る舞う管理会社も存在します。
確かに第三者管理者方式には、『専門家に任せることによる安心感』『区分所有者の負担が軽くなる』といったメリットがあります。
ですが一方で、『”お手盛り管理”になる可能性がある』『厄介な対応を先送りされる可能性がある』『区分所有者の無関心を助長する』など、管理組合と管理会社の利益相反が顕在化しやすいデメリットがあるため、慎重な判断が必要です。」
飯田氏はさらに、第三者が管理者になったときの問題事例を幾つか具体的に挙げたうえで注意喚起する。
管理規約の記載:
「規約に管理者名が記載されていると、規約を変更するには区分所有者および議決権の4分の3以上の合意による特別決議を要するため、規約が管理者に有利な記載になっている場合は要注意です。
中には『管理者は株式会社〇〇社またはその指名するものが務めるものとする』と固有名詞を入れているケースもあったり、ダブルチェック・ガバナンス目的で監査をするべき『監事』の存在自体が意図的に規約の条項から削除されていることもあります。」
管理組合の収支:
「支出内容の中に、管理業務委託料とは別に『管理者報酬』が存在しているケースがありました。総会での理事選出議案で区分所有者からの立候補がないことを確認したのち、外部から管理者を選任していた組合では、外部への報酬が管理費会計を圧迫し、収支が赤字になっていました。悪意があってのことではなくても、オーナーが少し関わるだけでも改善できます。」
理事会廃止の画策:
「総会の議案として『役員の負担軽減のため、理事会を廃止し、管理会社を管理者に選任する』と挙げられた事例があります。表向きは負担軽減でも、ウラでは”手抜き管理”に繋げようとしている可能性があります。
このケースではわたしも総会に同席し、わたしに相談されたオーナーが理事に立候補することで理事会廃止は回避できました。議案化されたからと言って諦めることはなく、ひとたび理事会が廃止されてしまうと元に戻すほうが至難の業です。」
”悪徳管理者”の暴走を食い止めリプレイスした経験は財産でもありトラウマでもある
飯田氏自身のエピソードの続きとしてその後、 前述の洗礼を受けた物件を要注意としてマークしていたところ、届いた臨時総会の案内に飯田氏は目を疑った。
『管理組合の法人化』『トランクルームなどの区画買い取り』という議案が並ぶ。倒産した旧デベロッパーが所有していたトランクルームやセレモニーホールなどの区画をその管理会社が引き継いでおり、収益を生まない遊休資産の処分のため、不動産売買ができるように管理組合を法人化させてそれらの区画を買い取らせる意図だったという。
管理組合にとって利益にならないこれらの議案は、まさに管理組合と管理会社間の利益相反リスクが顕在化したものだ。飯田氏はこの議案(特別決議)をなんとしても否決させるべく、オーナーの4分の1以上の反対票を得るため動き出した。
「相手の管理者は個人情報保護法を理由に区分所有者の連絡先を教えてくれません。登記簿で住所までは分かるものの、電話番号を調べるにも限界がありました。それでも住所地を訪ね歩いて”悪徳管理者”の横暴ぶりを言葉で説き、議案を否決するための委任状をなんとか集めることができたのです。」
そして闘いはこれで終わらない。この”悪徳管理者”と、癒着して裏で操る管理会社とを分断するため、管理会社との管理委託契約更新を否決すべく、また、管理者名が具体的に記されている規約を改正して”悪徳管理者”を解任するために活動を続けた。
「このとき1年間で実に4回の総会を開きました。最後の総会当日も、無効票1票を巡る攻防や、遅れて到着した出席者の票が決め手になるなど二転三転の劇的な展開の末、遂に不誠実な管理者の長期独裁体制に終止符を打つことができました。
第三者管理者方式を安易に選ぶのは危険で、競争環境を維持して緊張感を常に持たせる意識や、チェック機能を付加することが不可欠です。」
「タイムパフォーマンス」を重視し過ぎて大切なものを見失わない
飯田氏が54歳で会社員をFIREしたのち、現在に至るまでマンション管理士をライフワークとして充実したセカンドライフを送っているのも、積極的に管理組合に関与した姿勢が原点だ。
「”悪徳管理者”の追放はわたしが会社員だった当時の出来事で、管理組合活動に参加した動機も『自分の経済的基盤となる資産』を守るためでした。
現在は『タイパ(タイムパフォーマンス)』の価値観も重視されています。何事にも自分の時間をできるだけ費やさないことが是とされがちですが、専門の会社だからと任せて安心してしまう危険性は、痛い思いをしているだけに手に取るように分かります。
例えば多忙なサラリーマンの方が兼業で取り組む場合であっても、『自分の大切なものは自分で守る』という考え方と姿勢だけは忘れないで欲しいと願っています。」
現在、日本の人口の1割以上がマンションに居住しているとされているが、人口減少に伴うコンパクトシティ化、社会全体の高齢化、建物の高経年化などの背景から、マンションとその管理に関する問題は増加基調にあると言える。飯田氏の先駆者としての事例から学ぶ点は多いだろう。
執筆:
(さんとうりゅうおおや)