1965年に竣工した地上5階建ての団地が
老朽化に伴いマンションに建て替え
東京都中央部に位置する国立市。東は府中市、西は立川市、北は国分寺市、南は多摩川を挟み日野市と接する、多摩エリアのまちだ。
市の北部にJR中央線、やや南寄りをJR南武線と甲州街道、南部を国道20号、日野バイパスが東西に抜け、中央線国立駅の南口には一橋大学国立キャンパスが構える。同駅から南武線の谷保駅まで直線に伸びる幅44mの「大学通り」は、まちのメインストリートとして知られている。
国立市には多くのマンション・団地が点在しているが、そのひとつが大学通りを少し脇に入ったところにある「国立富士見台団地」だ。
同団地は住宅・都市整備公団(現在のUR)により1965年に竣工された地上5階建て・総戸数298戸の建物。国立駅と谷保駅の2つの駅が利用できる立地にありながら周りは自然豊かな環境、一橋大学だけではなく桐朋学園などの教育施設も周囲に点在する、品格のあるエリアにたたずんでいる。
そんな同団地だが、築後58年が過ぎ、近年は建物の老朽化や電気・ガス・上下水道といったインフラの劣化、バリアフリー基準への不適合などさまざまな問題を抱えるように。
2014年ころから管理組合内で建て替えの検討が始まり、2018年5月には建て替え推進決議が可決、2019年1月には事業協力者の選定を行い、本格的な検討を進めてきたという。
2022年4月には一括建て替え決議が成立し、同年11月には建替組合を設立、2023年7月には権利変換計画の認可に至った。団地の解体工事はすでに始まっていて、2026年度には緑豊かな団地の特徴は残しつつ、地上8階建て・総戸数589戸(予定)のマンションへと生まれ変わる。
国立市では、老朽化が進み維持修繕が困難なマンションの再生を円滑に促進する「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」を制定。本事業は同法に則った初の建て替え事業となる。また「国立市まちづくり条例」の一部には、審議会との協議を経たうえで、良好な地域環境の創出に寄与すると認められた開発事業は、建築物の高さの最高限度の緩和を受ける制度もある。
今回の事業には南北道路の再整備や地域貢献施設の整備、緑化計画などが含まれ、地域の快適性を高めまちなみ整備に寄与する計画と認められたことから、高さの特例基準の適用が可能になり、一般基準の19mから特例基準の25mに緩和されている。
日本では戦後の高度経済成長期で都市人口が増え、郊外を中心に公営団地が続々と建てられてきた。ところが、そういった物件は老朽化を迎え、国や自治体は再生の要件を緩和するなど、建て替えを促進。富士見台団地のマンションへの建て替えも、その一環だ。新たな建物になることで防災性や景観の向上が期待されるだろう。
一方、こういった物件には年金暮らしの高齢者が長く住んでいて、建て替え後に同じ条件や広さの部屋に住もうとしたら、取得費用だけでそれなりの追加費用が必要となることがあり、建築中は仮住まいの費用も必要だ。コスト面で折り合わず転居を余儀なくされるケースも少なからずあるようだ。
不動産投資の面で考えると築古物件は価格が安く、入居者に困らないエリアなら安定的に賃料収入が入り高利回りが期待できる。ただし、建て替え事業に直面すると、その期間中は家賃が得られず、建て替え後も物件を所有しようとしたら、追加費用が発生する可能性もある。もちろん、物件ごとに費用負担の詳細は異なるだろうが、こういった固有の事情は考慮しないといけないだろう。
ただし、国立市のように人口が増えている住宅需要が旺盛なエリアで不動産を持つと、資産価値の向上が期待できることも事実。不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の「住まいインデックス」によると、直近3年間で国立市の賃貸マンションの賃料は6.67%、中古マンション価格は27.73%も上昇した。
国立市は国立駅南口の土地を交換し再開発を始めるなど、まちの機能を向上させていく方針だ。老朽化した建物は他にもあり、建て替え事業が今後も実施される可能性はあるだろう。実需・投資の両面で高いポテンシャルを秘めたエリアかもしれない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))