2023年11月に豊島区で豊島区居住支援セミナーが開かれた。近年、高齢者など住宅確保要配慮者についての報道が相次いでいるが、このセミナーは不動産、福祉に関する関係者が一堂に会するこれまでにないものだった。
セミナーの第一部では高齢者に安心して住宅を貸し続けるために知っておきたい最新情報と題して講演が行われたのだが、ここではタイトル通り最新情報が豊富で非常に参考になった。以下、その最新情報、不動産オーナーとして知っておきたいことをまとめよう。
高齢者入居4つの不安とは
高齢者の入居については
①家賃滞納が発生したら困る
②入居者の死亡後、契約解除ができるか、残置物を処理できるか
③孤独死があったらリフォーム、次の募集に影響が出るのではないか
④入居者に認知症など加齢に伴う心身の変化が起きた時の対処法
などが気になるポイントだと当日の講師を務めた公益財団法人日本賃貸住宅管理協会あんしん居住研究会の伊部尚子さん。
そのうち、①については家賃保証会社を利用できれば多少は安心できるが、身寄りのない高齢者の場合、まず、ここにハードルがある。亡くなった後の契約解除、残置物の処分には相続人を探す必要があるが、これが難事業。となるとそもそも、債務保証を受けることは得策ではないと思われてしまうのである。
不動産オーナーからすると、その点がクリアになっていれば①②の問題は解決できることになる。高齢者入居ではいざという時の連絡先がポイントと思っておけばよいだろう。
現状でベストな見守りは「クロネコ見守りサービス」
③の孤独死についてはさまざまなサービスが出てきている。だが、使い勝手を考えると問題もあると伊部さん。
「見守り電球、電気の利用料、モーションセンサーその他のセンサーを利用した見守りサービスの場合には以上の通知を受ける人、通知があった際に現地に確認に行く人が必要になります。
乳酸菌飲料配達、郵便局見守りの場には週1回、月1回と頻度が決まっているため、それがずれると早期発見できない可能性があります。
警備会社の見守りについては搬送先での入院費支払い等の担保のため、身内がいないと契約できません。
また、不動会社や大家さんが通知を受ける場合には見落とさないか、不安があります。本業で見守りをしているわけではありませんから、見落とす可能性もあります。また、現地にすぐに確認に行けないケースもあるでしょう。命の問題の責任を負うには荷が重すぎます」。
そこで現状ではベストと思われるのがヤマト運輸のクロネコ見守りサービスと伊部さん。見守り電球を設置、24時間点灯、消灯の動きが無い場合には朝10時にアラートメールが通知され、現地を確認できない時にはヤマト運輸に訪問依頼をすることもできるサービスで月額利用料金は1078円と安価。初期費用は不要だ。
しかも、入居者だけでなく大家さんも契約できる。連絡先を管理会社にしておけば、管理会社に依頼したのと同じ運用が可能になる。電球の点灯、消灯であれば見張られている感じがなく、取り入れやすいのもメリットだろう。
少額短期保険を利用すれば審査無で高齢者も加入可能
新たに高齢者を受け入れる場合だけでなく、すでに入居している人が長年のうちに高齢になっているという問題もある。その場合には契約の途中からでも保証などを付加する手があるという。
「ひとつは福祉系の業務提携先がある保証会社でナップ賃貸保証株式会社。高齢者の支援を行う体制があるため、身寄りのない単身高齢者の契約の途中からでも審査が通りやすいのです。大家さんが契約することもできます」。
もうひとつの手は少額短期保険。少額短期保険は一定の事業規模の範囲内において保険金が少額、保険期間1年(第2分野においては2年)以内の保険で保障性商品の引受のみを行うもの。
入居者の火災保険は保険会社の賃貸入居者用の保険が使われることが多いが、その場合の監督官庁は金融庁で、それに対して少額短期保険は財務省になる。そして、少額短期保険のみが孤独死に関する費用が出る。本来、請求するのは相続人になるが、相続人が見つからない時には大家さんが請求できる。
「少額短期保険であれば審査はなく、それまでの保険と切り替えることができます。全日ラビー少額短期保険、宅建ファミリー共済などがお勧めですが、残置物処分費についてなどいくつか内容には違いがあるので、よく調べて利用されることをお勧めします」。
認知症その他への対処は地域の見守りサービスで
④の加齢による変化への対応については素直に地域、自治体のサービスに頼ろう。伊部さんは今回のセミナーにあたり、地元の豊島区のさまざまなサービスを調べ、気が付いていないものの、いろいろな見守りサービスがあることに気づいたという。
「見守れられていることに気づいていませんでしたが、実はさまざまな見守りがあり、そうしたサービスを適切にアクセスできれば、加齢で心身に問題を抱えた方でも生活し続けられる、あるいは適切な手助けを得られます。不動産オーナーも知っておきたい点が多数あります」。
たとえば、豊島区の場合、高齢者に関する相談先としては区内8カ所にある高齢者総合相談センターがあり、それ以外に地元での相談先となる民生委員がいる。豊島区では227名(欠員31名)いるそうだ。ただし、氏名等は公表されていないので、区に連絡、教えてもらう必要がある。
それ以外では65歳以上で介護保険サービス、生活保護を利用していない独居宅には月に2回、広報誌等の配布、声かけを行って安否確認しており、夏には同様の75歳以上に対して熱中予防啓発のための戸別訪問、3年に1度は高齢者実態調査も行っている。
それ以外では事業者が参画、業務上で関わる高齢者に異変を感じた時には高齢者総合相談センターに通報仕組みがあり、現在22事業者が参画している。
社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカー(CSW)という仕組みもある。これは区民ボランティアが地域のアンテナとなり、おかしいと感じたところがあれば、適切な部署に繋ぐというものである。
と、このように挙げてみると相談先、あるいは異変に気付いてくれる存在はまちの中にいろいろあるわけで、それを知り、状況に応じて協力を求められれば高齢者の異変を不動産オーナーだけが抱え込む必要はなくなる。解決の手段があるなら、高齢者の入居を拒まなくてもいいのである。
こうした情報は区役所など地元の役所に行けば冊子としてまとめられているので、一度手にしてみて、どれが利用できるか、何かあったら相談すべきはどこかを把握しておくと、今後のために安心だ。
今回は豊島区の例だったが、他区にも似たような制度はあるはず。確認しておきたい。
また、このイベントではこれまで離れていた不動産と福祉が一緒に登壇、課題について話し合った。これを機に今後、こうした場が増え、不動産と福祉がより近くなり、協働することが高齢者も含め、住宅確保要配慮者の困難を解決していくことに繋がるはず。これからの進展を期待したい