東京・荒川区で築11年目でありながら家賃が上がり続けている単身者向け賃貸住宅がある。RCで1Rまたは1Kが13戸入る「G-flux」だ。
宙に浮いているようなガラス張りの浴槽が印象的で、退去があるたびに家賃を上げている。設計を担当した株式会社一級建築士事務所 秋山立花では、このほかにも古いオフィスビルを再生し、利回り約20%のコンバージョン物件も手掛けている。
代表の秋山怜史氏にこれからの時代に選ばれる賃貸住宅を建てる秘訣を取材した。
入居者が「今までに住んだことがない空間」を創り、印象付ける
秋山氏の事務所では住宅やオフィスから、シングルマザーの住居と職を確保した高齢者施設の社員寮など、社会課題を解決するための新しい建築物を多く手掛けている。なかでも収益物件の設計は難しい設計のひとつだという。
「収益物件を建てる際、総工費を抑えなくては利回りが悪くなりますし、安くありきたりな物件では競争力がなくなります。長い年月、人を引きつける魅力とは何か。
総工費を抑える工夫は他にもっとないか。そんなことを念頭に置きながら設計しています。特に人口が増加傾向の都市部では、どんどん新しい賃貸住宅ができ、強く差別化する必要があります」
こうした考えが色濃く反映されているのが「G-flux」である。
駅徒歩7分の立地ではあるが、人気の高いエリアではないことから長期的な差別化を考え、入居者を『大企業に勤める20代の単身ビジネスマン』に見据えた。彼らが今まで住んだことがないような、友人が彼女に自慢したくなるようなデザインの賃貸住宅をコンセプトに設計した。
「ターゲットを絞り、オーナーさんと管理会社とコンセプトをすり合わせていく過程も大切にしています。ターゲット層の若いビジネスマンが賃貸を選ぶ場合、住むのは一定期間に限られるため、少し尖ったデザインの部屋で冒険してみたいと思うだろうと考え、構想を練っていきました」
通常、単身者向けのワンルームはユニットバスに、廊下と一体化したキッチンスペース、6畳くらいの部屋と、壁で区切るとますます狭く感じてしまう。そのためこの物件では「高さ」で区切ることで、広く感じらせる工夫を施した。
築11年目を迎えるが、家賃は竣工当時に比べ、徐々に上がっているというから驚く。
「収益物件の計画は、新築時の家賃で利回りなど想定されますが、新築時が家賃のピークで、徐々に下がっていくような計画では、この先、厳しいと思うのです。家賃を上げる方法は実はいろいろとあります」
高い家賃が見込める店舗やオフィス利用を見据えた提案
家賃を上げる方法の1つはオフィスの需要の高い場所で、店舗やオフィス兼住居として利用できる賃貸住宅を提供することだ。いい例が神奈川・川崎市で秋山氏が手掛けた「town house MCO」である。こちらは自営業の女性をターゲットに見据えた。
「オフィス利用もできるエリア特性を生かして、ネイルサロン、美容サロンが入っています。住居で家賃を上げるのが難しくても店舗やオフィスを併設することで家賃を高く設定できます。内見時にどんな暮らしやお店ができるかイメージが膨らむような空間づくりが重要になります」
利回り約20%。古い物件を再生するコンバージョンも魅力的
もう1つ家賃を上げるために有効な方法は、用途を変えて再生する「コンバージョン」を行うことだ。
たとえば神奈川・横浜市で、築30年を超える5階建てのオフィスビルを住居にコンバージョンした例がある。下の写真の「ATOM VIEW」である。オフィスとしてはニーズが薄れてしまったが、1フロアに1住居と、住居として再生させることで、賃貸ニーズを復活させた。
もともと所有していたオーナーさんからの依頼で工事費は5000万円ほど。高い家賃が見込める立地だったことや1階にテナントが入ることで年間1000万円弱の家賃が入り、表面利回りは20%ほど。まだ使える躯体などを有効利用でき、工事費を抑えられる点もコンバージョンの利点である。
近年、建築コストに人件費が上がっているなかで賃貸住宅を建てる際、RC造ではなく木造を選ぶケースが増えている。
「RC造の方が音や耐久性の面で大家さんに好まれますが木造であってもデザインやコンセプトがしっかりできていれば競争力があるものを建てられます。もしくはコンバージョンすることで競争力を持たせることも、これからの時代には有効です」
賃貸住宅を建てる上で「ムリをしないことも大事」だと秋山氏はいう。
「今は不動産より株などに投資をした方が、リターンが期待できる時代です。そんななか、なぜ不動産投資なのかよく考えることです。
当社では社会課題を解決する建築物を多数手がけてきましたが、不動産投資を通して社会貢献を考えるならば、10戸あるうちの2戸を福祉的な活用をするような運用の仕方もあります。
建築が好きで、社会貢献につながる建築物を建てたい人のお役になれたら幸いです」