前回、火災保険の「参考純率」についてその決定の仕組みと過去10年間の推移について解説した。参考純率は過去の統計に基づいて算出される性質上、現在使用されている基準料率は数年前のデータによってはじき出されたものだ。よって未だ反映されていない、直近で発生した災害による損害はこれから順次反映されていくことになる。
・気候変動は年々激しくなるばかり
2025年の猛暑はかつてないほどとても厳しいものだった。最高気温、平均気温とも日本各地で過去最高を記録し、それらが原因だとされる不安定な大気が引き起こす異常気象が、様々な災害をもたらした。
静岡県牧之原市で発生した竜巻は、風速80mを超える強風の渦が500m~1000mにわたって街を縦断、多くの家屋や車両が大破する被害が発生した。これは国内では過去最大級、アメリカのトルネードに匹敵するほどの規模の竜巻だったという。
このように、これまで観測したことがない気象条件が頻繁に発生している。いわゆる気候変動といわれるものだ。このような現象が今後も続けば、火災保険の参考純率がさらに上昇していくことは間違いないだろう。
・災害の頻発だけではない火災保険料の値上り要因
いま様々な商品、料金などが軒並み値上げの傾向にある。その要因は様々だが、円安、および原材料費、燃料費、人件費などの高騰が挙げられる。
火災保険料の値上げは、実はこれらがすべて関係していると言っていい。気候変動による自然災害の発生が家屋に被害を及し、損害を受けた建物などの調査、修復の費用は、これら高騰が続く様々な費用の影響を大きく受けるからだ。
よって一昔前とは、損害の復旧に掛かる費用も段違いに高くなっている。そして昨今の自然災害の頻発が追い打ちをかけている。それにも拘わらず、かつての火災保険料は、これらの費用の高騰が想定されていないまま長期間の固定料金なのだ。これでは収支が合うわけがない。
2025年時点での参考純率は、10月から順次満期が到来する10年前と比較して約1.5倍にまで引き上げられている。だが保険料はこの差だけには留まらない。
これに現在採用されている建築年別の保険料率、地域別の水災危険料率、長期契約割引率の引下げが加味される。特に建築年別の保険料率による値上がりは顕著だ。
当然だが満期を迎える建物は契約時から建築年が10年古くなっているわけなので、築古割増がたっぷり加算される。よって実行保険料率はおよそ2~2.5倍以上にまで跳ね上がってしまうのだ。
・再調達価額が10年前から30%程度アップ
住宅用火災保険の建物評価額(再調達価額)が10年前と比較すると30%程度引き上げられている。前述と同様各種物価や人件費の上昇、消費税率のアップなどがその要因だ。よって10年前に再調達価額の下限値で契約していた場合は、最低保険金額もアップされている。
仮に10年前に評価額の下限値が5,000万円だった建物は、現在では下限値が6,500万円程度になっているわけだ。保険料率の引き上げと相まって、5年契約の一時払保険料は、10年前の10年分の一時払保険料を超えてしまうケースも出てくるだろう。つまりこれは、
10年前の10年分の保険料<現在の5年分の保険料
ということなのだ。
・火災保険料の値上げをどう捉えればいいのか
10年契約の火災保険が近々満期を迎える賃貸オーナーは、火災保険に対する捉え方を考え直す時期に来ているのかもしれない。それほど、コストが圧倒的に上がってしまったのだ。保険料を下げる方法はいくつかあるが、どれも大きな効果は見込めない。長期一括払いせず、長期年払契約に移行するなど、コスト負担の平準化を図ることも検討すべきだろう。
①補償限度額を縮小する
再調達価額は下限額が決まっているため、それを下回る保険金額を設定するには「約定割合」を縮小する(通常は100%)ことにより保険金額を引き下げる必要がある。ただしこの場合、約定割合を縮小しても保険料が同じ割合で安くなるわけではないので、思ったほどの効果はない。
(ただし、地震保険料は割合どおりに下がる)
例:保険金額3000万円、約定割合100%の場合の保険料を「100」とした場合の保険料水準(近似値)
約定割合80%(保険金額2400万円)の保険料=「98」
約定割合60%(保険金額1800万円)の保険料=「96」
約定割合30%(保険金額1200万円)の保険料=「88」
(参考)保険金額決定の仕組みについての過去の記事
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
賃貸住宅物件用火災保険の賢い組み立て方3【賃貸経営のための保険講座】|不動産投資の健美家
②補償の範囲を縮小する
水災補償を除く、破損・汚損補償を除く、地震保険を付帯しないなど、主契約から切り離せる補償、特約を削除する。
※ただし、「施設賠償責任特約」「建物管理者賠償責任特約」「賃貸建物所有者賠償特約」などの第三者に対する賠償責任を担保する特約は必ず付帯する。
③免責金額を大きくする
免責金額を高額にすることにより、保険料を下げることができる。
【重要】構造級別がランクアップできる建物もある
2021年(令和3年)1月以降契約の住宅用火災保険は、建物構造級別の耐火基準が大幅に緩和された。それ以前までは、建築基準法で定める「耐火建築物」「準耐火建築物」「省令準耐火建築物」などの建物全体が耐火構造でなければ建物構造級別のランクアップ(例:H構造→T構造またはM構造、T構造→M構造など)は認められなかったが、現在では主要構造部が所定の耐火構造であれば、ランクアップが可能になっている。

上表のM構造④⑤、およびT構造⑦~⑩が、2021年から新たにランクアップの対象となった構造の建物だ。この緩和によって、対象になる建物は大幅に増えている。所有する物件がこれらの対象の建物であれば、保険料が大幅に引下がる可能性があるのだ。

構造級別のランクアップによる保険料の差額は非常に大きい。ところがランクアップに該当する建物であっても、更新時に自動的に適用されるわけではない。よって対象となる可能性がある場合には、満期契約更新の前に必ずそれを証明する資料を用意する必要がある。
代理店が積極的に確認資料の提出を求めるとは限らないので、忘れずに自ら確認資料を添えて申告しなければならない。そうでなければ、従来の構造級別のまま契約することになるので、十分注意すべきだ。

上記の資料が入手できない場合、「耐火基準適用契約確認書」を施工業者等※から取り付けることで代用することができる。
※建築当時の施工業者等が廃業などで確認が困難な場合、当該建物の構造について施工業者等と同等の知識を有している他の施工業者等による証明でも確認資料とすることができる。
なお、過去の【賃貸経営のための保険講座】シリーズはコチラをご覧頂きたい
執筆:(さいとうしんじ)







