みなさま、あけましておめでとうございます。弁護士 山村暢彦です。新年一発目ということで、気になるけど、あまり聞いたことのない「海外不動産」についてお話ししたいと思います。
「海外不動産投資」と宅建免許の関係は?!
さて、不動産投資に興味がある方は、「海外不動産投資」の話題にも興味があるのではないでしょうか?残念ながら、海外不動産投資について、私は経験がないので、「儲かる?!儲からない!?」等のお話はできないのですが、どのような法規制がなされているかという観点でお話したいと思います。
さて、スパッと結論から始めたいと思いますが、「海外不動産取引」には、日本の宅建業法の適用はありません。東京地判平成29・9・11にて明示的に判旨されております。
そもそも、事案としては、不動産会社を営むA社の代表Bから、ハワイの物件を買わないかと誘われて、その必要費用として800万円支払ったら、逃げられたという事案です。
本来であれば、A社及びBへと不当利得返還請求訴訟等を提起するのですが、このような詐欺を行う相手に訴訟を提起しても、支払能力がなく、回収可能性が低いことが多いです。
そのため、本件でも原告は、A社やBを訴えるのではなく、宅建協会の弁済保証金制度を利用して回収を試みました。ざっくりというと、この弁済保証金制度というのは、宅建業者とトラブルになって不正な取引がなされた場合、宅建協会からその損失を補填してもらえるような制度です。半面、宅建業者が宅建免許を取得する際には、この保証金を支払うことになっています。
そして、この宅建協会への保証金支払いを求めたところ、「海外不動産取引では適用不可」とのことで、原告が、「宅建協会を訴えた」というのが、本件裁判例です。
さて、結論は先に言ってしまいましたが、以下に裁判例の判決文をみてみましょう。少し読みづらいですが、装飾している部分を追っていただければ内容は読み取れるかと思います。
(以下、判決文を一部引用)
法は,国内における住宅政策の一環として制定されたもので,法2条1項の「宅地」とは,まず「建物の敷地に供せられる土地」をいうと定めているところ,国内法の効力は,外国の領土に対しても適用することを明示的に定めている場合を除き,原則としてその領土外の地域に及ばないから,「宅地」とは日本国内に所在するものをいい,海外物件を含まないものと解される
原告は,法は購入者等の利益の保護を究極的な目的と定めていること,法における弁済業務保証金制度の趣旨は,宅地建物取引業者が関与する場合には,適切かつ公正な取引がされると信頼して取引に入った相手方が被った損害を補てんすることからして,取引の相手方を保護する必要性は,海外物件に係る取引と国内の宅地建物の取引とで何ら異ならないと主張する
しかしながら、法が免許制度を採用し,宅地建物取引業の規制を図っている規程内容からすれば,当然我が国の領土の宅地建物を対象としているものと解するほかなく,購入者等の利益の保護については,これらの取引の規制を通じ,かつ,その範囲において,行うこととしたものというべきである。海外物件にもその適用があるとすることは,法の内容と整合しないといわざるを得ず,原告の主張を採用することはできない。
実際の判決文では、宅建業の試験内容などにも触れ、海外不動産も対象にするのであれば、試験問題に海外不動産の知識も問われるはずだが、そのような内容も含まれていないなど、より細かく認定しております。
海外不動産取引の免許関係整理
さて、今回ご紹介したお話は、海外不動産を日本国内で取引のあっせん、仲介等を行う上で、日本の宅建免許は不要という結論でした。他方、全くなにも免許等が不要かといいますと、扱う海外不動産の国ごとに規制が異なります。東南アジアの一部の国ではライセンス不要のようですが、米国では規制もあるようです。
また、そもそも、たとえば、タイでは、建物は外国人でも所有できるが、土地については原則所有が認められておらず、特殊な場合だけ取得できる、などという制度になっていたりもします。恐縮ですが、このあたりは、完全に私の保有する知識の範囲外なので、気になる方は、国交省のHPなどを参考に各海外不動産についての規制を調べていただければと思います。
今回の裁判例は、海外不動産取引を利用して詐欺が行われたのが、そもそもの発端ですが、周りでも海外不動産を購入されている不動産会社の方もいらっしゃいますが、参入する方は、法規制も緩やかな代わりにトラブルも多いということは自覚して、注意して進めるべきかと思います。