健美家コラムニスト&健美家ラジオパーソナリティー・ワーママはなさんのコラム12話は、家計のバランスシートを事業主のお立場で分析なさった、大変参考になる素晴らしいコラムだと感じました。
参照→大家さんになって10年目、家賃収入と金融資産の振り返り
一昨年の「不動産寄席」イベントでは対談もさせて頂けて、その様子は「健美家ラジオ」でも公開されています。
そこで今回は、はなさんに見習って、バランスシートの研究を皆様とご一緒にしてみたいと思います。
■東京都の財政再建の秘訣は複式帳簿だった!?
石原慎太郎元都知事の没後発表された『「私」という男の生涯』 で、東京都の財政再建は複式帳簿を採用したことが大きいと書いておられます。
一橋大学でご自身が習った、唯一実社会に役立ったことだと謙遜しておられますが、このお陰でコロナ危機も潤沢な資金で乗り切れました。
私自身も昨年、コロナ感染時の自宅隔離中、家族全員分の食料や、血中酸素濃度計、PCR検査キットなどは全て東京都から無償支給頂けました。
単年度で予算を使い切ってしまう、従来の役所会計・単式帳簿ではなく、翌年に資産を繰り越し積み上げる民間企業の複式帳簿に変えたお陰で、今があるのだと実感しました。
不動産を購入検討するときも全く同じで、買う瞬間その時の損得でだけなく、長期的な収益が重要です。
■ROE、ROA、DOEは株式投資の重要指針、これを不動産投資へも適用
今回は、前回までご紹介してきた投資家Aさんの六本木マンションをサンプルにして、分析してみます。
なぜこのような分析を思い立ったかと言いますと、第74話図6に示す通り、2024年明けから日経平均株価が一気に急騰しているからです。
この要因は
②中国バブル崩壊で、中国富裕層の東京都心マンションと日本株へのキャピタルフライト(資金逃避)
③金融庁から東証上場全企業へ企業価値向上の指導があった
等があり、特に③ではROE(自己資本効率)、ROA(総資本効率)、DOE(株主資本配当率)の数値目標が示されています。
これを実現する施策提出が全企業へ指導され、1月15日に施策を提示した企業名が公表されました(当然、それら企業の株価は急騰)。
こんな背景で日経平均株価は、米国株価指数を凌ぐ勢いで年初来急騰しています。
そこで今回は、これから不動産投資をやってみようという入門者向けに、上記③と同じ目線でご自身の大家業を、物件購入前の検討段階で事前分析する事例をご一緒にトレースしてみたいと思います。
■BSとPLを株式投資家の物差しである各指標に接続して評価する
上記③の【金融審議会⇒金融庁⇒JPX】ルートの指導は、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業へ、
「内部留保ばかりでなくもっと効率的な経営をせよ。効率良く稼ぐ経営改革して、ROE、ROA等の資本効率を上げ、結果としてDOEを上げて、株主に還元せよ。」
というものです。
企業経営者としては、バブル後の銀行の貸し渋り・貸し剥がしに凝りて、万が一のリスクヘッジの為に内部留保を増やした結果が「PBR<1」でしょうし、銀行にしてみれば金融庁からバブル期不良債権による倒産防止対策で自己資本比率向上の指導があったので、やむをえずの貸し渋り・貸し剥がしだったのでしょう・・・。
今は昔の話ですが・・・。時代は変わりました・・・。
とはいえ、株式投資家の物差しであるPER、PBR、ROE、ROA、DOEといった指標を、大家業(不動産運営)にも当てはめてみるのは、大変興味深く、有益だと思います。
前述の金融庁の言葉を借りれば、
「経営者は当期のPL(損益計算書)だけを根拠に、短期の還元だけではなく、BS(貸借対照表)見合いで長期的に株主還元せよ」
という指導と同じく、
大家さんも
「物件購入時の利回りやキャッシュフローだけを見るのではなく、BS全体の中身が長期的にどのようになって、そこからの資金を、何に、どう生かすのか?」を見据えて、物件を購入しましょう。
と言い換えられるのだと思います。
特に、初めて物件を買われる入門者の方は、購入後の確定申告(決算)の段階で初めて、BSとPLを作成し納税されますので、購入検討段階では白紙だと思います。
つまり、物件購入後でないと、特にBSは作成しないわけです。
皆さんリスクをとって貴重な資金を投資しますので、前回までのコラムであげた収益シミュレーションは、当然なさると思います。
でも私が作成した図2グラフのような、自己流の理科学計算っぽいシロモノでは、とても会計処理のお作法に添っていないため、評価に耐えず、経理・会計屋さんがご覧になると噴飯ものかもしれません(汗)
■六本木物件のBSとPLのシミュレーターを作成してみる
それでは前回までの六本木物件(図1)のBSを作成してみます。
お家賃は図1,2ではインフレ社会でも、念のため0.5%/年で低下と想定しましたが、今回はBS作成が目的なので、簡易化のため一定としました。
この前提で作成したBSとPLを図3に示します。
PLの支出は、項目だけを具体的に列記してありますが、厳密には前回までに紹介した通り、年度によって微妙に変動しますので、今回は一律、収入(表面家賃)108万円(9万円×12か月)の40%を支出と仮定しました。
(投資用新築区分マンションのセールスが示すシミュレーションを図3のシートで分析すると、PLの右側の支出項目が真っ白で、支出合計金額がゼロだったりしますもで一目瞭然NG!:笑)
Aさんは現金買いされていますので、資本の部に負債の借入金はありません。
ここで物件の価格については、簿価(積算価値)では現実との乖離が大きいので、時価(中古市場流通相場価格)を採用します。
PLでは、108万円の表面家賃に対して、期末には64.8万円の利益(余剰キャッシュフロー)が出ます。
これは全ての運営費(税金を含む)を差し引いた純利益です。
これは翌年のBSの資本の部の株主資本中へ「余剰利益金」として反映されます。
すると、同じ額が資産の部の流動資産の中へ同じ金額は乗ってきます。
このシートでは株主への現金配当は出していません。
つまり、大家業の収益から、家計への補填はせず、全額を事業へ回しているということです。
以上をもとにして、自動グラフ作成機能を使って、図4のBS図を出力してみました。
見慣れた絵ができて、何となくそれらしく見えてきました(苦笑)。
これあくまで、入門者の方が物件購入前の検討用としてざっくりと、その事業性を見るためのシミュレーターとして(経理・会計の専門外の私が)作成してみましたので、正しくない点が多々あるかもしれません。
あくまで、ラフな検討用とお考え下さい(とても事業期末決算書には堪えられません:笑)。
●BSとPLを繋いで、大家業を株式投資家目線で評価するシートを作成してみる
上記を元にして、BSとPLを繋ぎ、物件の価値と価格を判断するため図5を作成してみました。
物件を購入検討する際、自分がその(会社)の大家(経営者)から投資家=出資者(株主)に立場を変えて、図5の数値の株式へ投資できるのか?を自問自答するのは、有益だと思います。
(初心者向けに言い尽くされてはいますが、フルレバの新築区分マンション投資をこのシミュレーターに入力して、BSとPL、図3~5のシートを出力してみると、債務超過で瞬殺・倒産なので、絶対に投資できないでしょう!)
Aさんは物件を自己資金購入していますので、自己資本比率は100%です。
以下の分析のため図6の数値を図5のBSから抜き出して計算しています。
●この物件の稼ぐ力はどの位か?
まず、稼ぐ力を見ると、ROS=6%となりました。
株式投資家の方が見ると、これは普通の日本企業ではやや良い方かな?
米国企業ではROS=20~40%という驚異的な数値もあります。不動産では、ここまでは難しいですね・・・。
ROE=6%となりました。
これは普通の日本企業並みです。
米国企業ですと平均20%です。
この例では現金買い、自己資本率100%で、ノンレバですので仕方ないかもしれません。
ここで仮に、配当性向を50%と仮定してみます。
つまり、年度末の税引きの最終収益キャッシュフローの半分を翌年のBSへ入れて、事業へ再投資します。残り半分は配当として、家計へ入れるとすると、DOE=1.6%となります。
現時点での東証全企業のDOE平均値は約2%となっているので、これが1.6%でしたらまあまあと言えましょう。
ちなみに、1月15日に前述の「経営効率化施策」を金融庁へ提出した企業のリストが発表されて以来、知ったら終いで、株式市場でのこの神通力は次第に失われつつあり、その後はDOEを具体的に数値発表した企業の株価がより急騰しています。
●本来価値に対して何倍なのか?(買値は妥当か?)
株式投資では旧来からの物差しPERとPBRで、物件の買値が妥当か?を見てみましょう。
流通相場で計算してPER=32です。
株式投資目線では、日本株はPER≒16程度、米国株はPER≒20程度が今の相場なので、やや高めでしょうか?
(平成バブル期、米国株は同程度でしたが、日本株はPER≒70~80もあり、そういうものだといわれていました:汗)
本件物件は六本木の築古区分なので、この将来性をどう見るか? の数値判断になります。
前回までのAさんは、相場の約半額で購入されましたので、PER≒16程度に引き直せるので、非常に割安に投資できたことが、この数値からも証明されました。
PBR=1で、株式目線では上述の通り、日本市場では並みです。
不動産投資家目線では、PBRの計算方法に積算価値か市場価値かどちらを使うか?で数値は大きく変わっていますので、あくまで参考程度でしょうか・・・。
今回は、入門者が物件購入前から決算書でBSとPLで事前検討できるシミュレーションをしてみました。
更にこれらをもとに、BSとPLを繋ぐ指標であるPER、PBR、ROE、ROA、DOE等の株式投資家目線を不動産投資へも取り入れて、物件がどの程度効率的に稼けるのかを評価検討してみました。
自分の物件(会社=株)を自分が投資家の立場で買える(M&Aできる)のか?を自問自答するツールです。
本稿作成のきっかけを頂いたワーママはなさんへ、心から御礼申し上げます!
次回は、どなたなでも簡単にエクセルでこれらを作成する具体的方法をご一緒に研究してみましょう。
■芦沢ラボ 資産運用EXPO見て歩き
東京ビックサイトで開催された資産運用EXPOへ1月21日に参加してまいりましたので、簡単にレポートさせて頂きます。
当日は朝一番で馬渕磨里子先生のご講演を、朝6時起きで往復4時間かけて聴講しました。講演直前に馬渕先生が、がん告知公開なさったこともあってか、8時台には会場外に100人を超す行列で、開始1時間前受付で1700人の参加者となり満席でした。
私ども専門外の個人投資家にも分かり易く、最新の市場を解説頂けました(図7)。
最近、山崎元氏(食道がん)、森永卓郎氏(膵臓がん)、岸博幸氏(多発性骨髄腫)と私と同年代か、よりお若い、メディアで著名なアナリスト、エコノミストの先生方ががん告知公開をされていて、その面でも馬渕先生から直接お話しを聞けたことは、人生の大切さ、意義ある生き方を再考させて頂く貴重なセミナーでした。
ご快癒を心からお祈り申し上げます!
展示ブースは資産全般がテーマで、不動産に限定されていませんので、全ての投資対象について研究できて、とても楽しく、有意義な1日でした。
様々な書籍を無料配布(個人情報と引き換えですが・・・)していたので、頂いて拝読しました。
実際に面談してお話を伺った上で書籍を拝読すると、その分野での最新事情が分かります。
一方、筆者のお立場でのご執筆の真の目的、バイアスが色々とからむ事情も理解できます。
合わせて、その世界のバイブルと言われる手持ちの書籍も併せて再読して比較しながら読むと、より研究が深まると感じました。(図8)
特に今回はコロナ収束後の開催のためか、コロナ対策でFRBを中心とした各国中央銀行で大量の紙幣が印刷されたため、証券会社ブースの株式セミナー等ではドルの危機や、商品(ゴールド等)会社ブースのセミナーでは実物投資の強み等を強調していました(図9、図10)。
一方、日本株や都心マンションでは強気の見通しが盛んに語られていました。
いずれも、参考見通しとして拝聴し、自分なりにかみ砕いて投資することが大切だと感じました。