賃貸市場では一戸建てはそもそも少なく、存在だけでも十分差別化できているが、さらにもうワンランク上の家賃を狙うなら面白い手がある。猫専用ハウスだ。
市場ではペット可賃貸は増加しており、猫可もそこそこ出てきてはいるが、たいていは集合住宅の事例。それを一戸建てでというケースはきわめて希少。本邦初と言えるかもしれない。

実際、何をどうやったのか、成果も含めて一般社団法人全国古家再生推進協議会株式会社認定の古家再生士、鈴木雄麻さんに聞いた。
1階~2階を猫が自由に行き来できる猫専用ハウス
鈴木さんが猫専用ハウスを手掛けることになったのは猫好きの投資家からの要望。自分が住むわけではないものの、猫が快適に住める家を作って欲しいと言われたのである。対象となった住宅は1階にLDKと水回り、2階に2部屋というコンパクトな2LDKで専有面積は55㎡ほど。
「階段よりも猫が上り下りしやすいもの、かつ脱走の心配のないものをと考えました。コンパクトな一戸建ての場合、玄関と階段の位置が近いことが多く、そこから脱走する可能性があり、危険。
それをさせないために1階の天井、2階の床に穴を開け、そこまでを1階のキャットステップで繋ぐというようなものを作りました。キャットスルーとでもいえば良いでしょうか、猫は玄関に出ることなく、住戸内で1階と2階を自由に上下できるわけです」と鈴木さん。
よく猫可物件では壁に棚状のステップが付けられているが、それが天井近くまであり、そこから先、1階の天井から2階の床まではトンネル状になっているというのだ。そうすれば猫が屋根裏に入りこむことなく、1階、2階を自由に行き来できることになる。


「ちょうど上がっていった2階部分の突き当りに1畳ほどのスペースがあったのでそこにドアと換気扇、猫ドアを付けて猫専用のスペースとしました。トイレスペースはどこかに作らなくてはいけませんし、備品類などを置く場所も必要。トイレの近くには換気扇も必須なのでちょうどいいスペースになりました」
募集時には猫専用と謳って出したところ、1週間、あっという間と言っても良いほどのスピードで入居者が決まった。しかも、相場が5万5000円くらいというのに、その物件は7万5000円で決まった。
「入居されたのは近所の大学病院に勤務する一人暮らしの医師。改装したのがコロナ直前、2020年年初で、現在は次の方が入居中。それもすぐに決まりました。
同物件はオーナーが設備を充実させたいということでエアコンも3台入れてあり、それで当初10%を想定していた利回りが15%ほどに。現在行っている古家見学ツアーでもこの物件の話はよくしており、一定数関心をお持ちいただいていますね」
その後、鈴木さんは5棟ほど猫専用ハウスを手掛けており、間取りや広さなどによって設備は異なるが、いずれも好調。ただし、時には猫を飼っていない人が入居することもあるそうで、そのあたりは必ずしも意図通りにはいかない。
「ただ、キャットウォークに使うステップは飼っていない人でも収納に使えるようにしてあるので、設備はあっても無駄にはなりません」
物件によって猫用の設備はさまざま
では、他の猫専用ハウスはどのようなものか。


「古家の改修で悩むのが床の間です。今の暮らしでは床の間に掛け軸を架ける人がいるわけではないので、どうしても無駄な空間になってしまう。そこで床の間にキャットタワーを設置したことがあります。使いにくい場を愛猫のためにというわけです。
それ以外では室内のキャットウォークからキャットウォークへつり橋を架けたこともあります。実用的ではありませんが、猫を飼っている人からすれば猫の動く姿を楽しめます。これは面白いと選んでいただきました。
また、玄関の正面にリビングへのドアがあり、リビングへはもう1カ所入口がある物件では正面のドアを敢えて潰し、新しく壁にした部分の下から3分の1のところにアクリルの窓を付けたことがあります。
室内ではそこにキャットウォークを配しました。どうなるかといえば、その窓から猫が帰宅時、お迎えで顔を出してくれるという仕掛けです。猫は意外にお迎えに出てくるもの。飼い主としては玄関を開けた途端に猫が顔を出してくれたらどんなにうれしいか。これも人気になりました。



キャットスルーで2階の出てくる場所を押入れにした物件では押入れの下半分を猫スペースにすることにし、猫ドアを付けたり、トイレや備品などを置けるようにしました」
同じ猫専用ハウスといっても物件によって工夫が凝らされているのである。
もうひとつ、猫専用ハウスでお得なのは猫専用と謳う賃貸一戸建てが珍しいことに加え、世の中には猫好きが多いという点。当然、仲介会社にも猫好きの人はおり、彼女、彼らが関心を持ってくれ、積極的に勧めてくれれば早く入居が決まる。これまでの鈴木さんの手掛けた物件にもそうした流れがあり、多くの人が好きな、印象的な物件を作ることには大きな意味があるわけだ。
猫専用化のための費用は30~50万円
気になるのは予算と対称となる物件。まず、猫専用化に関しての予算は通常の改修に加え、30~50万円ほど。それほど高額ではなく、だが、費用対効果は大きいと鈴木さん。
「最初に手掛けた物件では相場より3割以上アップできましたし、それ以外の物件でも最低1万円はアップできています。その他設備や立地によってはもっと上げられている例もあり、やってみる手はあります」
物件としては古い、いわゆるボロ家ほど向いていると鈴木さん。
「古い家では1階の天井を落とすことも多く、どうせ落とすのであれば、そこに猫が通れるようなトンネルを作れば良いだけなので作業が同時にできます。
ちなみに私が扱っているエリアはJR常磐線の松戸から北、駅でいうと北松戸、馬橋、新松戸あたりから我孫子市内くらいまでで、このエリアではそうした改装に向いた家が多くあります。
具体的には北松戸駅、馬橋駅から江戸川にかけての平坦なエリアで、この一帯には昭和の時代に建てられた築50年前後、延床面積50㎡くらいの空き家が多く、安いものでは100万円前後から。高くても350万円くらいなので、それに手を入れ、リフォーム費用と合わせて投資額は550~700万円くらい。猫専用ハウスにして7万円の家賃が設定できればかなり利回りは良くなります」
また、猫を飼うと聞くと柱で爪研ぎなどをして家がボロボロになってしまうのではないかと懸念する人もいるだろうが、最近の猫はそれほど柱などを傷つけたりはしないそうだ。
「猫専用ハウスを手掛けるまで猫を飼ったことが無かったので、猫を知るためにとそれから猫を飼い始め、現在は2匹飼っています。いずれも野良だった猫を迎え入れたものですが、人間に抱かれることを嫌がる、野生が残っている猫でも段ボール製の爪研ぎがあればそれで爪を研ぐので、柱などを傷つけることはありません」
都心の集合住宅の価格が上がっている中、郊外の戸建てに目を向ける人が増えているが、それをさらにもう1歩、差別化したいと考えるのであれば猫専用ハウス、検討の余地はありそうである。







