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茨城県大洗町が熱い!築古酒店が複合宿泊施設に変身。周辺でも続々動きが

賃貸経営/まちづくり ニュース

2023/12/18 配信

茨城県といえばブランド総合研究所の都道府県魅力度ランキングの最下位常連。2023年にも最下位となり、2009年以降最下位となったのは12度目。それを意識してか、茨城県ではこのところ、デヴィ夫人やヤンキーのお兄様方を起用、派手なキャンペーンを行っている。

だが、一方で茨城のあちこちでまちに新しい施設ができた、来訪者が増えているなどの話を聞く。実際のところはどうなっているのか。大洗町で新たにできた施設を訪問。まちの様子を見ると同時に2020年に地元に戻り、この間の変化をみてきた人に話を聞いた。

1階に飲食と水回り、2階に宿泊という複合施設

商店街から見た「波と月」。人目を惹く外観
商店街から見た「波と月」。人目を惹く外観

2023年12月、茨城県大洗町、永町商店街の中心部にある築39年の元酒屋がリノベーションされ、1日1組限定の宿、ネオ中華ダイニング「kurage」による宿泊複合施設「波と月」として再生された。

事業主は岡山県倉敷市に本社があるモトヤユナイテッド株式会社。自動車教習所や飲食店、広告事業、シェアオフィスなど幅広い事業を展開する企業で茨城県でも複数の自動車教習所を関連会社としている。そうした縁から大洗は県内初となる飲食店の経営となる。

設計、施工をプロデュースしたJapan.asset management株式会社(以下Jam)の内山博文さんによると事業主は当初1階店舗をメインに考えて物件を取得したそうだが、大洗は春~夏には多くの人が来るものの、それ以外の時期を考えるともうひとつ、収益の柱があったほうが良いということになり、2階を民泊で利用することになったという。

「この場所は大洗磯前神社から長く続く参道の商店街で、普段はあまり人がいないように見えますが、調べてみると斜め前にある魚屋には東京から買い物客が訪れたり、一泊2~3万円以上の旅館にはコンスタントに客が入っているなど、意外に来訪者が多いエリア。

海辺にあるグランピング施設も人気ですし、海水浴、釣り、サーフィンやゴルフなどのほか、海鮮丼やあんこう鍋など海の味覚を楽しみに訪れる人もおり、週末の昼時には行列のできる飲食店も。

検討の途中ではコワーキングスペースも考えましたが、最終的には5~6人までが泊まれる、大洗を来訪する少し高めの年齢層に合わせたしっかりした質の宿にしようということになりました」。

従前の間取りと改装後の間取り
従前の間取りと改装後の間取り

初期の計画段階では建物全体を簡易宿泊施設に用途変更することも検討した。だが、日本の多くの古い木造建築同様に当該物件も検査済証がなかった。そこで1階の店舗面積を確認申請の必要がない200㎡未満に抑えるように企画、設計した。

1階飲食店。商店街から入ったところにカウンター席、キッチンなどがあり、奥に行くとテーブルスペースとなっている
1階飲食店。商店街から入ったところにカウンター席、キッチンなどがあり、奥に行くとテーブルスペースとなっている

結果、1階に飲食店と2階宿泊者のための浴室、洗面、トイレとリビング的な空間が配され、2階には寝室、キッチンとダイニング・ラウンジが配されることに。2階の一部には1階店舗のための倉庫もある。

庭のテントサウナ。内覧会時だったので、まだ作業をしている人なども
庭のテントサウナ。内覧会時だったので、まだ作業をしている人なども

また、庭を利用してサウナテントが置かれており、市中でありながらアウトドアの気分も味わえるようになっている。

古さと新しさのバランスがポイント

従前の建物。しっかり作られてはいるが、個性的なものではない
従前の建物。しっかり作られてはいるが、個性的なものではない

従前は白い外壁のどこにでもあるような建物だったが、再生された建物は1階部分が錆びに覆われ、その上部にはトタン。新しくなったというより、逆に街中で見かける古い建物のように見えるものになっている。

建物を横から見たところ。上部はトタンの色そのままの状態。でも、こちらも徐々に錆びて色が変わっていく。宿泊客は建物裏手から入る
建物を横から見たところ。上部はトタンの色そのままの状態。でも、こちらも徐々に錆びて色が変わっていく。宿泊客は建物裏手から入る

「改装にあたっては建物が接道している情緒が残る商店街に馴染むものをという依頼でした。予算的にも制約があり、かつ古いモノに手を入れる時には新しくするものとのバランスが大事です。たとえば外壁は港町であるこの地域でよく見かけるトタン葺きの倉庫を現代的な解釈でリ・デザインしました。トタン自体は安価ですが、それ以上の魅力を引き出したい。そうした配慮の結果がこの外壁です」と内山さん。

外壁の錆びは錆び塗装ではなく、意匠設計、設計監理にあたったG ARCHITECTS STUDIOの田中亮平さんの発案によるオリジナル構法と、Jamでこの物件を担当した建築ディレクターの野本有紀子さん。

「鉄粉と糊などを混ぜたものを塗って錆びさせています。施工者であるZOSUNの阿部田さんの協力で、錆がトタン板に定着できるようにトライ&エラーを繰り返して生み出されたもので塗って2カ月ほどでちゃんと錆びてきました」(野本さん)。

宿泊施設入口の扉、2階のキッチンには銅のテープが貼られており、これらはいずれ赤褐色に徐々に変化していく予定。古いものを蘇らせると聞くとぴかぴかにすることを考える人が多いが、それではとってつけたようになり、ちぐはぐ。古いものを活かしつつ、何をプラスするか。センスが問われる作業である。

2階の和室。障子紙を剥がして一部にはガラスを入れるなどして使っている
2階の和室。障子紙などを剥がし、既存の建具をそのまま使っている。一部にはガラスを入れるなどしているが、それ以外はそのまま
築年はそれほど古くはないが、太い柱梁が使われており、雨漏りもない良い状態だった
築年はそれほど古くはないが、太い柱梁が使われており、雨漏りも傾きなどもない良い状態だった

だが、波と月ではそのバランスが絶妙だ。2階寝室は既存の和室をほぼそのまま利用しているそうだが、障子紙を剥がしただけの建具が美しいことに驚かされる。建物自体が傾き、雨漏りのないしっかりしたもので、柱、梁からも分かるように作りも良かった。だからできたことかもしれないが、あるものを無駄なく上手に使うとはこういうことだろう。

和室側からダイニングスペースを見たところ。グリーンも良い仕事をしている
和室側からダイニングスペースを見たところ。グリーンも良い仕事をしている

2階のダイニングスペースに置かれた家具はあえて古いモノを選び、店舗側からも梁の見事さを見てもらおうと作られた吹き抜け脇に設置されたカウンターは古材。

建物内部には既存そのままに使われている部分も多い。そこにレトロな小物を飾ることで単に古いだけではない雰囲気になっている
建物内部には既存そのままに使われている部分も多い。そこにレトロな小物を飾ることで単に古いだけではない雰囲気になっている

「手間と知恵はかけましたが、材料費はあまりかかっていないともいえます」(野本さん)。

建物の改修にかかった費用は約2800万円。

1階の宿泊者が利用できるリビング的なスペースから飲食店側を見たところ。地元のイラストレーターの絵も使われている
1階の宿泊者が利用できるリビング的なスペースから飲食店側を見たところ。地元のイラストレーターの絵も使われている

「坪単価でみると40万円ほど。私たちの仕事は法律、収益などの与件を整理するところから始まりますが、その範囲内で改修としてもよく頑張ったと思います」と内山さん。

地元事業者、太陽光事業者とも連携

都市部でなら飲食、宿泊ともに事業者が多く、協働する相手を選べるが、地方での仕事となるとそうはいかない。そこでこのプロジェクトでは地元でまちに関わる事業を展開する株式会社Coelacanthをローカルパートナーとして迎え、その繋がりから地元近く、日立市を拠点とする施工会社ZOSUNに依頼することになった。宿泊業の運営もCoelacanthが担う。

都市以外で不動産を改修した人達に聞くと都市では競争もあり、リノベーションも身近だが、地方ではそうした感覚のない事業者もいるとか。

コスト、質にこだわる工事をしたいと考える際には事業者選びは大きなポイント。大洗界隈であれば都市に近い感覚で事業が進められる可能性が高いというわけだ。

もうひとつ、注目したいのは太陽光発電。「シェアでんき」を運営する株式会社シェアリングエネルギーとともに事業主の初期費用負担ゼロで蓄電池と太陽光発電を併せて設置。定額で電気を供給する仕組みを取り入れたという。

東日本大震災で世代交代、コロナで起業ラッシュ

「焚火と本」店内でコーヒーを淹れる佐藤さん。あいにく取材の日はイベントで不在。後日オンラインで話を聞いた
「焚火と本」店内でコーヒーを淹れる佐藤さん。あいにく取材の日はイベントで不在。後日オンラインで話を聞いた

最後にもう一度、大洗のポテンシャルについて。内山さんによると近所でも若い建築家が蔵を改修、宿泊施設になる計画があるなど大洗では今、いろいろと動きがあるという。そこで、株式会社Coelacanthの佐藤穂奈美さんに大洗の変化、現状について聞いた。

商店街の元呉服店を改装、全く異なる雰囲気の店舗になっている
商店街の元呉服店を改装、店頭から想像するのとは全く異なる雰囲気の店舗になっている
店内。地元だけではなく、周辺からも面白い場所があると人が集まってきている
店内。地元だけではなく、周辺からも面白い場所があると人が集まってきている

佐藤さんは大手デベロッパー、空き家再生などを手掛けるまちづくり会社などで働いた後、2020年に家庭の事情で大洗に戻り、波と月の近くの髭釜(ひいがま)商店街の元呉服店で「BOOK & GEAR 焚火と本」というアウトドアグッズなども置かれた本屋、ブックカフェをオープン。地元のまちづくりなどに関わっている。

佐藤さんによると大洗が変わり始めたのは東日本大震災。

「大洗にも津波が襲来。海辺に近いエリアに被害を及ぼしました。もともと海だったところを大型客船が寄港できるように埋立て、ターミナルビルなどを整備していたのですが、そのあたりを中心に被災。それにショックを受けた観光協会その他さまざまな団体のトップの人たちがリタイア。当時30代~40代だった人たちが新たにトップになりました」。

世代交代が行われ、実務ができる若い人達がトップになったのである。

大洗が舞台になっているアニメ・ガールズ&パンツァーの存在も大きい。これは若い女の子が戦車に乗って戦うという荒唐無稽な物語で、2012年から放送が始まり、今もファンにとっては大洗は聖地。町にとっては観光資源のひとつとなっているのだが、この成功が町に若い人の話に乗ってみるのも良かろうというという雰囲気をもたらしたと佐藤さん。

「一度、年配の方からすれば理解しにくいことでもやってみて、それが大成功を収めた。だとしたら、それ以降、変なことをしても誰も気にしない。良い変化になりました」。

その次のタイミングがコロナである。佐藤さんは家庭の事情からUターンを決めたが、それ以外にも多くの人が2020年、コロナのタイミングで戻るなら今と決断したのだ。

「2020年夏はUターン、起業ラッシュでした。それが3年を経てメディアに露出したり、事業が固まってきたりと目に見える形になっています。

たとえば、茨城県は実は日本で一番キャンプ場が多い県なのですが、それを取り上げるいばらきキャンプというサイトができたのが2020年。大洗には海辺、森の中、湖畔に3つのキャンプ場があるのですが、そのサイトも変り、有名になりました。

2021年春には大洗発のクラフトビール工場・Beach culture brewingが開業。コンテナハウスを使った別荘サブスクOURoomは2022年秋にリリースされ、現在、大洗、鉾田、水戸に展開しています。2021年には建物内装までできる花屋さん、hanaEkoが固定店舗を構えるようになりました。

いずれも30~40代が関わっており、同時多発的に動き始めています」。

1万5000人強という町の人口規模もいい方向に作用している佐藤さん。顔が見える関係があちこちにあり、東日本大震災時もバトンを渡しやすかったのではないかという。

「地元政治家の中には若い人達とコミュニケーションを取り続けてくれる人がおり、戻りやすい、相談しやすい人間関係があります。そうした関係が現在の若い人たちの活躍に繋がってきているのだろうと思います」。

水戸から電車で向かうと平坦な水田地帯を抜けて大洗に到達するのだが、大洗自体は起伏のある土地で、古墳群もある縄文時代から人が住んできた土地。明治以降は保養地、避暑地となっていたこともある。現在も大洗水族館や海鮮丼などの魅力からだろう、茨城県内では来訪観光客数が一番多く、観光地としては強い。

さらに今後、古墳群の整備その他さまざまな魅力を付加する動きもあるとか。まだまだ変化しそうな大洗に期待したいところである。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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