皆さんは不動産投資をする時に、土地値という概念を考えた事がありますか?
「このアパート、もう少し指値すれば土地代程度になるから安いね」や「建物を壊して更地にして売った場合、利益が出る価格でアパートを買いたいね」等という言葉をお聞きになった方が、いらっしゃるかもしれません。
今回は、更地での売却を見込んで上物を解体したけれど、地中にあった杭が原因で大損した業者の話をご報告します。不動産投資をする上での留意事項の一つとして、頭の隅に留めていただけると幸いです。
■この業者は本当にRCを解体した事があるのか?
前回のコラムで、自宅(東京多摩地域)隣地の土地を購入した話を書きました。
簡単に振り返ってみます。まず、コロナの影響もあり、叔父が経営していた医院を休止し、オーナーチェンジでクリニック引継ぎ希望者を募りました。
医院もアパートやマンションと同じくオーナーチェンジで売買される事があるのです。しかし、こちらは半年経っても希望者が現れずに頓挫となりました。
そこで、土地建物を事務所や住宅として利用できる点をアピールして、希少なRC中古物件として売りに出しました。ところが、これでも1年近く経っても動きがなく断念。結局、買い取り業者が叔父からその物件を買い受けたのです。
北側の隣地に住む私は、その買い取り業者はリノベーションをして再販するのだろうと考えていました。ところが、意外にも建物を壊し始めたので、新築が建って日当たりがなくなったら困ると、慌ててその隣地を私が買い受けたのです。それが今年9月の事でした。
隣地の売買契約の骨子は、次のようなものでした。
②測量図を買主に添付する
③地中埋設物も完全に除去する
そして、本格的な解体が始まりました。解体は元請けの下請け業者が仕事をするようで、日本人1人と外国人2人の3人態勢で、まだまだ使える築浅RC(平成15年築)をショベルカーで壊していきます。
「どれくらいの期間で壊せますか?」と私は下請け業者に尋ねました。
「まあ、重機なんで速いですね。バアーッと壊しますから。まず1週間から10日で完了するんじゃないですか」との事。
私はその安直な姿勢に、「この業者は本当にRCを解体した事があるのか?」という疑問が湧いてきました。私は今まで何度も解体を経験してきましたが、RCだけは壊した事がありません。
地中の杭を考えて、「下手に触ると火傷する」と思い、手を付けなかったのです。
■賃貸需要が弱まった木造アパートを売却した事例
木造の解体については、比較的容易です。私は過去、土地値以下でアパートを買って10年近く運用し、土地値が騰がってきた所で売却ということを何回も経験しています。
1つ例を挙げると、こんな売買事例がありました。
埼玉県さいたま市大宮の木造アパートの事例です。2009年に、土地約80坪、2DK×4、平成3年築、公道6メートルに面す、間口広い 建物約200㎡のアパートを3,000万円台半ばで購入しました。
購時は、大宮まで徒歩圏だし長期的に保有していこうと考えていたのですが、途中で方針転換しました。周囲の賃貸物件の空室が増加、空室期間も長期化しており、場合によっては1年間以上埋まらないケースも増えつつあったためです。
埋まらない物件について調べてみると、ポータルサイトでの募集も出ていますし、適切なリフォームも施されています。家賃も相場並みのものが大半でした。要するに、きちんと営業努力している賃貸物件でも埋まりが悪い状態ということです。
「大宮は繁華な街とはいえ、駅から遠くなると需要が下がるよな。駅から10分位までのファミリータイプだったら手堅かったのに」と後から思ったのですが、自身が購入した物件の立地条件を後で変えることはできません。
それならば遠くないうちに、建物を解体して土地で売却しようと思い立ちました。そして2017年の春、完全にリフォームした2住戸が繁忙期内で埋まらず、土地値も上がっていたため、「売り時だな」と判断し、建物を解体する手筈を整えました。
当時の解体単価は坪3万円程度(木造)。これなら総額200万円から250万円程度でいけるだろうし、残った土地は40坪ずつの分割で丁度良い大きさの建売用地になるだろう、という目算でした。
このアパートは全4部屋ありました。この段階でのネックは、残った2住戸の入居者です。立ち退き料や引っ越し代等、経費がかさみます。加えて、このアパートは沼地に近い軟弱な地盤に建っており、近隣は杭を入れている木造が多いらしい、という点も気になりました。
杭を打つ事自体は、軟弱な地盤でも多数地中に入れる事で建物を支え、耐震性が上がるわけなので問題はないのですが、建物の解体を考えると杭は難物になります。地中にある杭を完全に除去できるのかが不透明、という事があるからです。
軟弱地盤の物件の杭を下手に抜くと、解体する建物周囲の土地に影響が及ぶ可能性もあります。そうなれば、杭抜き自体断念する事もあり得ます。
2017年に姫路駅前の市有地再開発断念のニュースが読売新聞で報じられました。その時の原因も、杭でした。1966年建築のRCを壊したまでは良かったのですが、下にある杭200本を抜けなかったのです。
私は客付け力が弱まったアパートを前に、次のように考えるようになりました。
「もし長い杭が打たれていたら、抜けない可能性もある。その場合は建物解体後に杭抜き専門業者の手配もしないといけない。残った入居者の退去も含め、色々面倒だ。プロである建売業者に買ってもらい、リスクを背負ってもらおうか」
というのも、自分が売主で個人に売ると、杭の問題から逃れる事ができません。それに気づいたのは、以前、軟弱地盤の土地で隣地への影響から杭抜きを断念して、地中に杭が残ったまま売りに出た土地を見たからです。
杭のリスクは小さくないと私は考えました。その経緯から、この大宮のアパートは上物を残したまま、建売業者に4,600万円台で売却しました。買値より1,000万円程度のプラスです。また、保有中の獲得賃料も利益として確定しました。
一応プラスではありますが、このエリアが軟弱地盤でさえなかったなら、自身で解体して半分の40坪だけ売り、残りは数年間保有しながらまた相場の様子を見ていく、という事が出来たのにと悔しさが残る結果となりました。
杭について補足すると、木造では強固な地盤の場合、そもそも杭は要りませんし、入っていたとしても短い杭になるので引き抜きは比較的容易になります。私の大宮物件では軟弱地盤で杭の長さが判らず、それがリスクであると私は判断したのです。
■やはり隣地のRC物件の下から出てきた大量の杭
説明が長くなりましたが、この事からも、隣地の解体業者がどうも杭を軽視しているように思えたのです。それからの解体は、結局RCの基礎が案外堅かったために除去に手間取りました。予定より長い約3週間かかって、何とか目途が立ってきました。
私は下請け業者に「土が見えてきましたね。下に杭も見えてきましたが、これ取れますよね?」と尋ねました。業者は「ええ、簡単です。土を掘ってショベルカーで抜きますよ。杭が長い場合は、土を更に掘ります」と安請負してくれました。
建物の解体が完了し、次は杭です。叔父の土地は強固な地盤なのですが、建物を造った大手ゼネコンの仕様で、杭を250本入れています。100年保たせる為、という事なのでしょうが、本当にこんなに杭が必要だったのか?と私は現場で考えていました。
杭抜きの日、私も現場で見ていましたが、やはりショベルカーでは抜けません。そもそも用途が違う重機なのです。3日間格闘して、結局下請け業者は降りてしまいました。
売主の買い取り業者が現場に来たので、私は「これ、どうなりますかね?杭があるままじゃあ、私は買えないし。買う場合でも、相当安くならないと」と、現状で何を考えているのか尋ねてみました。
買い取り業者は、「うーん、まさかこんなに杭があるとは・・・想定外です。建物を解体して杭が(悔いが)残るという事になりましたね」と言います。私は、何うまい事言ってんだと思いつつ、杭抜き専門の業者を呼ぶことを提案しました。
彼は早速、杭抜き専門の業者に見積もりを取り、早期に施工する事を約束してくれました。しかし、杭抜き専門の業者選定はかなり難航したようです。250本もの杭を抜く手間や、抜いて隣地の地盤に問題が起きた場合の責任等で、辞退する業者が多かったのです。
それでも何とか請負業者が見つかり、その業者が手配した重機を操るクルド人たちの奮闘で杭抜きが進んでいきました。しかし、買い取り業者の人は複雑な顔をしていました。
私が「どうしましたか?」と訊くと、「えらく長期化しましたし、予定外の杭抜き費用まで考えると赤字です。二つの意味で悔いが(杭が)残る結果でした」と残念そうに言います。これだけの手間をかけて、赤字。杭を甘く見てはいけないということです。
■杭抜きの可能性を念頭に置いた投資活動を
私は物件購入の際に軟弱地盤を避けていますが、その理由の一つにこの杭抜きの問題があります。
杭は建物を地震から保全してくれる地盤改良の大きな柱です。しかし、建物を解体する場合に再利用できるとは限りません。一度全部引き抜くとなれば、それ相応の時間と費用がかかります。
私の叔父の物件がそうであったように、建物自体が重いRC物件は、軟弱地盤ではなくても、かなりの数の杭を打つことがあります。解体を視野に入れて投資活動をされる方は、杭の問題も念頭に置かれ、計画を立てられる事をおすすめする次第です。