不動産オーナー業をやっていると、必ずと言っていいほど耳にする機会のあるサブリース契約。空室でも家賃を受け取れるので恩恵が大きいと考える投資家もいる一方で、単純に「サブリース契約は危険」と漠然と捉えている投資家もいるだろう。危険とされる問題の元凶はほぼ法律にあると言っても過言ではない。
サブリースとは何か。借主がサブリース会社となり、実際の入居者に対し転貸を行う契約のことだ。
そのため、実際に退去で空室が発生したり、滞納が発生していたりしてもその間の賃料をサブリース会社から受け取ることができるため、家賃収入が安定しやすいというメリットがある。
また、入居者募集の際に必要な仲介手数料や広告料が発生しないのもメリットだ。一方で、実際にどういう属性の人を入居させるかはサブリース会社の裁量で決まり、家主側でコントロールすることができない。さらに、原状回復費用は一般賃貸と同様に家主が負担しなければならない場合が多いことはデメリットだ。
サブリース契約において覚えておきたいポイントは2つだ。
・サブリース契約は通常、普通借家契約で結ばれているため、オーナーに不利である
・普通借家契約には「強行規定」で定められた法律条項があるため、強行規定を無効にするような内容を借主側が提案した内容で契約しても結局は借主側に有利になりやすい
これらのポイントを悪用、もしくは不動産オーナーにあまり寄り添わないサブリース会社と契約してしまうとトラブルの原因になる。
家賃減額、契約解除・・・オーナー側に圧倒的不利な「借地借家法」
「サブリース自体がトラブルになるというより、サブリース契約がオーナーに有利な定期借家契約ではなく、借主側の権利が守られた普通借家契約で結ばれていることが元凶になっています」。こう話すのは、神田元経営法律事務所(東京都港区)の代表であり東京弁護士会(東京都千代田区)マンション部会長の神田元弁護士だ。
簡単に説明すると、普通借家契約は基本的にほぼ無期限で借主が借り続けることができる契約であるのに対し、定期借家契約は定められた期限が来ればオーナー側から契約の解除を申し出ることができる。
普通借家契約の場合、借主であるサブリース会社が「借地借家法」により入居者としての権利を守られている。「10年間は家賃を固定する」とサブリース会社が断言していたとしても、借地借家法では借主側から家賃減額交渉を行う権利があり、契約を解除するかしないかも借主であるサブリース会社の意向が優先される。
つまり、契約書に書いてあることが必ずしも優先されるわけではないということだ(なぜそうなるのかは、後述する)。
「正当と認められる理由」を提示できない場合はオーナー側が希望しても契約の解除ができないことも借地借家法で定められている。この「正当と認められる理由」は非常にハードルが高く、「建物の老朽化から入居者を守るために建て替えが必要」などは正当だが、「周辺相場が上がったから」「資産価値を上げたいから」などの理由は正当な理由として認められない。
借地借家法の条項に「強行規定」があることがトラブルの元
前述した「契約書に書いてあることが必ずしも優先されるわけではない」とはどういうことなのか。
法律には、「強行規定」と「任意規定」が存在する。
強行規定というのは、当事者の意思による変更が許されていない規定であり、任意規定という のは当事者の意思による変更が認められている規定だ。借地借家法が家主を苦しめるのは、「任意規定」ではなく「強行規定」に該当する条項が存在するためだ。
第28条では、オーナーからの契約解除は正当事由がない限り認めないとしている。第32条では入居者から家賃の減額を請求する権利を認めており、どちらも強行規定に当たる。
そのため、いくら「10年間家賃を下げずに借り上げる」と契約書上に記載しても、法律では借主にあたるサブリース会社から家賃の減額請求をする権利が守られているということになる。
また、オーナー側からの正当な理由のない契約解除は立退料を払うなどしなければ到底不可能なのに対し、サブリース会社からは特にペナルティもなく解除が可能な点もトラブルのもとになっている。
借地借家法はもともと、オーナーに比べて立場が弱く、経済的にも不利な賃借人の保護を目的に 1991年に作られた法律だ。個人のオーナーと企業であるサブリース会社ではサブリース会社が強者とも考えられるが、裁判所の判断ではオーナー側が「強者」であるという見方が覆りにくい。
これまで説明した通り、オーナー側に不利な法律があるが故に、さまざまなトラブルが全国各地で起きている。
実は、人気エリアにあるのか、空室率の高いエリアで起こっているのかで不動産オーナーを苦しめるポイントが変わってくる。今後は、実際にあった事例をもとに紹介していく予定だ。
取材・文:
(つちだえり)