前回の続きで、今回は、Aさんが購入した六本木区分物件の今後30年間の収支シミュレーションを検討してみます。
実際に物件購入後、その物件をどのように運営するか?賃貸して長期でインカムを取り続けるか?ある時点で売却してキャピタルゲインも加えて利確するか?あるいは自己利用するかは、投資家の意向ですが、あらゆる場合を想定して収益をシミュレーションして、経年推移を把握しておくことは大切だと思います。
■各種数値を表に記入してスタート
まず、シミュレーションのパラメーターを表1に示します。
・買値
私が売手オーナー社長さんへ打診した売却可能価格は相場2000万円のところ、1200万円程度なら、ということでしたが、前回ご紹介のとおり、Aさんは最終的に1100万円でご契約なさいました!
・家賃
お家賃の経年推移予想については、インフレ下では長期的には上昇しますが、念のため下落と仮定しました。
コロナ後は、大量のマネタリーベースの後遺症で世界的にインフレが進んでおり、アメリカは9%が3%まで落ち着いてきていますが、日本は2~3%で推移して、これを定着させる政策です。
しかし、本物件は築古でもあり、シミュレーションでは、念のため安全を見込んで、インフレに反して毎年0.5%ずつ、お家賃が下落し続けると仮定して計算します(図1)。
・売値
売却価格も同様に、まずは安全サイドに見込みました。
インフレが2~3%/年で進めば、不動産市場自体もこれに連れて値上がりすると考えられますが、シミュレーションでは将来にわたってインフレが続いて何年経過しても、現在の市場価格の半値での売却と仮定します。
■インカムゲインでの資金回収は30年必要
税引き後の手残り家賃の経年変化が図2、緑線です。インカムゲインだけでは、投資回収に約30年を要します。
ただし、ホールド賃貸し続けるのも有効な運営方法であることを、後ほどシミュレーションします。
■インカム+キャピタルでは何時でも利確できる
一方、売却も含めて想定し、インカム+キャピタルで計算すると、図3のとおり、いつでも出口に出られて利確できます。
インフレ下でも最悪条件のパラメーター、すなわち、家賃は0.5%下落し、売却価格は、将来も現時点市場価格の半値、と想定していますので、相当固い数値といえましょう。
■賃貸し続けても10年で500万円、25年で1000万円の手元キャッシュ
それでは、必ず売却しないとメリットが無いかといえば、ホールドして賃貸し続ける運営方法でも有効です。
図4のように、手元に貯まる(残る)キャッシュは10年間で500万円、25年間で1000万円です。
もちろん、これを現金のまま貯金しておくのではなく、修繕で物件価値アップしたり、証券に投資したりと複利運用できますし、場合によっては生活費の臨時支出にも対応できるでしょう。
売値1100万円(おそらく将来の時価は2000万円+インフレ率)の実物資産を維持しつつ、手元にはキャッシュが毎月貯まる安定なシステムを構築できます。
資産元本を保全しつつ、定期的に安定キャッシュフローを得る、債券のようなイメージです。
証券と比較すると、債券は(紙の借金返済証書にすぎず)元本がインフレで相対的に目減りしてゆきますが、実物資産である本物件は六本木の立地を考慮すれば、おそらくインフレ見合いで値上がりするでしょう。
連続安定増配株(企業の信用&業績裏付けはあり)と比較すると、資産成長と定期キャッシュフローの経年増加パフォーマンスでは劣るかもしれませんが、自己所有実物資産ですからある程度の自己制御が効きます(区分物件なので共用部は裁量権が限定されます)。
■将来の物件価格をさらに深堀して検討してみる
物件価格が将来どうなるか?は、上記のシミュレーションでは出口収益を大きく左右します(もちろん以下のように、あえて出口をとらず、Aさんの事情次第で賃貸し続けても、勿論OKでしょう)。
大家業・不動産投資家として考えれば、将来の資産価値を色々と柔軟に検討しておくことはとても有益だと思います。
(1)株価と地価はほぼ同じように動く
図5は長期(7年間超)の日経平均とJ-REIT指数を同じチャート上にトレースしてみました。見た目直観的にも、両者は同じような値動きをしているように見えます。
(J-REITと個人が投資するレジ系狭小区分マンションの値動きは当然異なりますが、六本木エリア全体の地価は、よりJ-REITの動きに近いと想定します)
そこで両者の相関係数を計算してみた結果が図6の青塗のグラフです。相関係数=1は完全に同じ値動き、-1は完全に逆の動きを示します。図6では相関係数>1の場合が多くなっており、地価(J-REIT)は株価(日経平均)とほぼ同じ値動きをする確率が高いことがデータで証明されました。
(2)株価(日経平均)は超長期的には企業利益に相関する
今までのデータで、株価と地価の相関性が確認できましたので、将来の地価の動向を予想するには株価が参考となることが分かりました。そこで将来の株価を想定するため日経平均の値動きを研究してみました。
図7は超長期での日経平均と企業の経常利益をグラフ化したものです。
これを見れば、1990年は企業業績に比較して株価が遥かに高くて明らかに株価バブルですが、21世紀に入ってからの日経平均は企業の業績に添って上昇して、実態に沿っていることが分かります。
更に、図8は企業の1株当たり純資産と日経平均をグラフ化したものですが、図7と類似の傾向が分かります。 衆知の通り、現在の東証上場企業の半数程度はBPR<1で、大きな内部留保を持っています。
近年の日本企業の利益は順調に伸びており、着実にそれを積み上げている結果として、株価が伸びていることが図7,図8から確認できました。
詳細は省略しますが、日本株の買い手は米国を中心とした海外機関投資家であり、日経平均全体の株価指数ではなく大型優良個別企業株を投機筋マネーが大量に買っています(シカゴ・マーカンタイル商品先物取引所の投機筋・センチメントデータを見ると良く分かります。海外の機関投資家達は、冷静に企業業績を見極めて、投機マネーを動かしているということでしょう・・・)。
日本の一部優良大企業は今後も利益を伸ばして行くと予想され、投機マネーはそれを織り込んで行くと考えられます。
現在の米国市場やFRBの政策、日銀の動向なども同じ方向を向いています。
つまり、地価(少なくとも海外投資家から価値があると評価されている土地)と企業の株価は今後も上昇が予想されます。
(3)株価はGDPとは必ずしも相関しない
日本のGDPは、過去30年間成長していません。GDPが成長しないなら、地価も上がらないのでは?と感じますが、図9は株価とGDPの超長期経年変化をグラフ化してみました。
更に、青塗のグラフは地価とGDPの相関係数を計算したものです。
これを見ると、株価は必ずしもGDPとは相関しないことが分かります。
やはり図7,図8のように企業業績に相関するものであり、その原因は海外から膨大なドル投資資金の流入にあると思われます(一人当たりが企業で稼ぐ利益が増えても、総人口が減っていれば、人数分の生産総量は伸びない。一方、海外から入ってくる投機マネーは国内生産高ではなく、しかも付加価値あるモノを生み出すわけではない)。
物件将来価格∝地価∝株価≠GDP
が結論となりました。
■六本木の地価は将来も値上がりし、そこのマンションも値上がりすると仮定
以上の分析からAさんが購入された区分マンションは今後とも地価ともに値上がりすると仮定してみます。
図10は上記の地価予想に沿って、物件価格はインフレ率2%/年で上昇。ただし、築古区分物件であることを考慮して、安全のため、家賃はインフレとは無関係に0.5%/年で下落すると仮定した資金収支シミュレーションです。
約15年間、賃貸した後に売却すると、インカム累積+キャピタル益の合計で投資額の約2倍の2000万円の手残りとなる計算です。
■共用部の今後の維持管理状態が重要
今後のインフレや株価、地価がどうなるかを正確に予想するのは難しいですが、確実に言えるのは、区分物件の将来価値は共用部の維持管理状態が非常に大切ということです(いくらマクロなシミュレーションをしても、実物資産である物件建物全体がボロボロになってしまっては、絵に描いた餅です)。
Aさんは、契約前には共用部全体の重要事項調査報告書を精査され、物件ハードウェアを調査なさった上で、購入決済直後、早速、管理組合集会に参加なさって、ご自身で物件運営ソフトウェア面も確認されました。
感想として、理事長さんは、他の複数のマンション管理組合の理事長も兼務している熱心な方で、非常に頼りがいがあり、安心したそうです。
この事実と現時点で8000万円ある積立修繕金の両方を考慮すると、上記のシミュレーションと合わせて、築古区分とはいえ、六本木の立地と市場の半額の買値を考慮すると、将来も資産価値は維持できる良い物件であると考えられます。
何より、全てにおいて勘所を押さえたAさんの判断力と投資運営手法、行動力が未来を約束していると、私は感じました。
次回は、Aさんの物件購入の最終回としてフルローンで購入したと仮定した場合のシミュレーションをご一緒に検討して、このシリーズを閉めたいと思います。