前回のコラムの続きです。
参照:初心者なら破綻していた!絶対に買ってはいけない物件を買ってしまった話
良いアパートが買えたと喜んだのも束の間、僕は頭を抱えました。そのアパートは、新しい入居者が来ると追い出してしまう“問題家族”が入居しており、その家族が住む一部屋以外はずっと空室というワケあり物件だったのです。
百戦錬磨の先輩大家である極東船長とDX母ちゃんに相談すると、「出て行ってもらうしかない」という意見でした。確かに、あの家族がいる状態で新たな入居付けに動いても問題を大きくするだけです。
※念のため付け加えると、「定期建物賃貸借契約」では、賃貸借契約の更新をしないことが法律上認められていますが、今回は「普通借家契約」なのでそれは認められません。
退去してもらうために最初にしたのは、「残りの部屋のリフォーム」を理由に、融資を受けた銀行に返済スタートまでに半年間の猶予をもらえるようお願いしたことです。幸い、それは認めてもらえましたが、半年後には銀行の支払いが始まります。
何としても早く出て行ってもらわないと、リフォームも入居者の募集も始められません。そんな話を人相の良くない知り合いの大家さんに話したところ、その2人が事務所として借りて様子を見てくれるということになりました。
そして、彼らが問題の家族が住む部屋の上と隣の部屋に入居しました。実は内心で、この人相の良くない2人の入居者に、その家族が何か言いがかりでも付けてきたら、立ち退きが進むきっかけを作れるかも?と淡い期待をしていました。
しかし、ここでは何の問題も起きることなく、この人相の悪い2人は二カ月ほどで退去しました。問題の家族は以前、新たな入居者が来るとさんざん嫌がらせをしていたらしいのですが、それがないということは、相手を選んでいるのかもしれません。
■退去してもらうための行動開始
人相の悪い相手には何もしなかった様子を見て、この入居者は条件次第で退去に応じてくれるのではと思いました。入居者に退去してもらうには、法的手続きを遵守しながら進めることが重要です。
具体的には、段階的に3つの方法が考えられました。
2)弁護士に相談
3)訴訟による強制解約
合意解約が無理なら弁護士に相談、弁護士に相談しても無理なら訴訟による強制退去という3ステップです。時間が経てば経つほど空室期間が長引き、弁護士費用などのコストもかかってきます。まずは半年以内の合意解約を目指しました。
合意解約とは、入居者と管理会社、またはオーナーが直接話し合って、立ち退きしてもらう方法です。この時、立退料の金額と明け渡し期間の交渉が必要になります。
立ち退き料は、一般的に次の金額の合計で算出します。
・次に住むところの前払い家賃
・次に住むところの敷金
・次に住むところの礼金
・次に住むところの保証金
・引っ越し費用など
また、上記以外にも「立ち退きに応じてくれたお礼」としていくらかがプラスで必要になります。
立退料ですが、「賃貸アパートの立退料算定事例」(平成29年1月17日の判例)では、築44年の賃料7万4,000円のアパートの立退料として200万円と算定した事例があります。(この物件は家賃が低いのでこれより安いですが、一つの目安にはなります)
また、明け渡し期間は、借地借家法に「最低6カ月を確保しなければならない」と記載されているため、余裕をもって入居者に提案する必要がありました。
今の日本の借地借家法では、立ち退きを求めるためには「正当な理由」が必要です。裁判にまで発展した場合も想定して、大家都合で「建物の老朽化と耐震性の不足」を理由に、立退料の提案もあわせて退去をお願いすることにしました。
そして、その通知書を管理会社に作成してもらい、管理会社から直接入居者に手渡ししました。それが2月でした。すると、「ゴールデンウィークには引っ越す」という返事をもらうことができました。
■5カ月経っても進展ゼロ
ところが、その家族は全く新しい部屋を探すそぶりもなく、気づけばゴールデンウィークが終わってしまいました。このままでは、あっという間に目標の6カ月が過ぎてしまいそうです( ;∀;)
通知書の期限である6カ月まで1カ月。このままではズルズルと時間が経ち、弁護士に相談に行く必要が出てきます。6カ月後からは、借入の支払いも全額スタートします。一部屋しか埋まっていないのですから、当然、赤字です。
なんとか1カ月以内に出て行ってもらうために、入居者と直接交渉することにしました。立退料の交渉にあたっては、入居者側はできるだけ高い金額が欲しいし、大家側としてはできるだけ安く済ませたいことから難航しがちです。
僕は立ち退きにあたって、譲歩できるところは譲歩するつもりでした。とにかく、なるべく早く出て行ってもらうために、交渉のポイントを探ることにしました。
■立ち退きに関する合意書締結
管理会社経由で、その家族がアパートにいる日を確認してもらいました。大家として入居者の方と直接向き合い、「1カ月以内の退去について何がネックになっていますか?」と困っていることについてヒアリングすることにしました。
その結果、引っ越しのネックになっているものがわかりました。
・部屋がかなり壊れていて、敷金だけでは足りなそうなこと
・通知書を持ってきた担当者の高圧的な態度が気に入らないこと
・物が増えて多いので広い部屋が必要なこと
・今より安い部屋が見つからないことなど
それらを解消できれば1カ月以内に退去してもらえると分かったので、以下の内容を伝えました。
・立退料として100万円を用意している
・リーシング会社の担当者を変更する
・引っ越し先の条件に近い部屋を2週間以内に選んでお知らせする
・物が増えすぎたならレンタル倉庫という手がある
その結果、「1カ月以内に出ていく」と約束してくれました。口頭の約束だけでは裁判になったときに言った言わないになるかもしれないので、この時に「立ち退きに関する合意書」を作りました。
合意書には、「1カ月以内に退去できなかった場合は、1カ月あたり15万円の家賃を支払ってもらう」という言葉と、「退去後、1週間以内に立退料100万円を支払う」という文面も入れました。
合意文書は3通つくり、1週間後にリーシング会社で再び合意事項を確認しました。合意書は管理会社が立会人として署名捺印して、各自が1通ずつ保有することになりました。
■とうとう立ち退き完了
合意書の署名捺印後は、新しい担当者に急いで条件に合う物件を探してもらいました。引っ越しエリアや払える家賃が限定されている一方、広さや車が4台停められるなどのリクエストがあったため、やや難航しましたが、無事に2週間程度で引っ越し先が決まりました。
途中、引っ越し業者の都合で退去が1カ月伸びそうになるというピンチもなんとか回避でき、無事に立ち退きが完了しました。一週間後に立退料を振り込み、領収書も受け取りましたた。(立退料は不動産所得の計算上、必要経費に算入できます)
退去後の部屋は、想定以上の荒れようで、修繕費がかなりかかりそうでした。しかし、落ち込んでいる暇はありません。年内には全部屋のリフォームを完了させ、半分は埋めて良い年を迎えられるように頑張ります。
この家族が退去するまでは、「マイナスのキャッシュフローがいつまで続くのだろう?」「損切でもいいから売ってしまおうか?」などと弱気になった日もありましたが、なんとか無事に解決することができました。大変でしたが良い経験になりました。
それに、見方を変えればこの入居者さんたちのおかげで安く買えたわけです。たぶん、最初の一棟だったら乗り越えられなかったでしょう。今回は、他の物件のキャッシュフローや大家仲間のおかげでピンチを脱することができました。
もとはといえば、どんな入居者さんが住んでいるかの調査を怠った自分の責任です。この先は気を引き締めて、この物件を優良物件に育てていきたいと思います。
■12月3日(日)に「元気が出る大家祭」を開催します
最後にお知らせです。12月3日(日)に、バーニング大家さんとの共催で、「元気が出る大家祭」と題したセミナーを行います。会場は大阪です。当日は極東船長、DX@母ちゃん、佐藤元春さんが登壇されます。
チケットの購入はクラウドファンディング形式になっています。
もちろん僕も参加します。ぜひお越しくださいね!
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