現在の日本では望むべくもない成長性の高さからキャピタルゲイン、インカムゲインの両方が期待できる東南アジアの不動産に注目する人が増えている。そのうちでも近年、注目度が上がっているのがフィリピン。
国全体の成長力そのものもだが、首都マニラではフィリピン初の地下鉄工事が進んでおり、これが中心部を変えるのではないかという予測がある。マニラに詳しいProperty Access株式会社の風戸裕樹氏に聞いた。
交通インフラの遅れがネックだった
東南アジア諸国のうち、東京に比べて不動産価格が安い国としてはマレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンの4か国が挙げられるが、加えて今後も6%以上の経済成長が見込まれているのはベトナム、インドネシア、フィリピン。
どちらにも共通して挙がっているのはベトナム、フィリピンだが、そのうちでフィリピンに注目しているのは交通インフラの整備が一番遅れているからだと風戸氏。
「不動産価格が安く、成長も見込まれるベトナム・ホーチミンではすでに2012年に地下鉄1号線の建設が始まり、2023年以降で完成が予定されています。2021年にはベトナム初の都市鉄道としてハノイメトロ2A号線も開業しており、交通インフラの整備は着々と進んでいます。
ところがフィリピンでは交通も含めてインフラの整備が遅れており、今後、大きく変わっていきます。当然、それに伴って不動産価格も変動していくはず。その点に期待ができると考えています」。
特にマニラ中心部を変えるだろうと言われているのがフィリピン初の地下鉄。中心部の様子とともに、どこにどのような変化が起きるのかを見ていこう。
中心部にはいくつかの開発エリアが点在
マニラ都市圏内の主要エリアを地図に落としたのが下の図。実際のマニラはもっと広範な地域だが、都市化が進んでいるのはおおよそ下図の範囲。東京23区ほどのエリアに1500万人ほどが住んでいる。
東京と違い、マニラの開発は面ではなく点で進んでおり、図中の色が塗られているエリア以外にはまだバラックなども残る。
一方で開発されているエリアはオフィス、住宅、モールなどを計画的に建設、複数の用途の建物が混在しており、従来のフィリピンのイメージを覆すような現代的な都市となっている。
「マニラ都市圏は空港と中心部が近いという意味では福岡に似ています。図中のグリーンの3つのエリアはオフィス、住宅、商業施設が整ったエリアで①のマカティは丸ノ内、②のオルティガスは新宿、③のBGC(ボニファシオグローバルシティ)は六本木といえば地域のイメージが伝わるのではないでしょうか。
それ以外にも高級住宅街であるロックウェル、新商業・住宅エリアであるサーキット、大学・学生街のマラテなどや議会のある旧市街地もありますが、近年、投資という意味で注目されているのは緑のエリアが中心です」。
既存鉄道路線はビジネスの役には立たず
注目エリアの位置関係を頭に入れた上で、交通事情を見て行きたい。フィリピン初の地下鉄と書いたが、実は鉄道自体はすでにある。それが下の図にある、3色で分けられた路線だ。だが、この路線、現実的にはあまり機能していない。
「鉄道自体は日本が建設したものですが、メンテナンスは韓国が請け負っており、老朽化が進んでいます。3両編成で30キロしか出ない上に、駅の位置が悪い。分かりやすくいうと銀座に行きたいのに、駅は新富町にあって15分以上歩かなくてはいけない状態です。
暑い国ですから、ビジネスマンは歩きたくない。当然、車を利用することになりマニラでは渋滞が常態になっています。
逆に学生街、旧市街では黄色い路線が使えますし、多少遠くても安価に移動はできる。そこで車で移動できない人達は鉄道を利用、駅に入れないほど駅に人が集まってしまい、これが混雑、遅延に繋がる。こうした移動の不便さによる経済的損失は1日80億円とも言われるほどです」
そのため、ドゥテルテ前大統領は治安と公共投資と二本柱として掲げ、地下鉄建設もその時に決まったもののひとつ。それ以外にも中距離の南北通勤鉄道が2本、新しい空港や橋の建設などが進んでおり、現在のフィリピンは公共、民間ともに建設ラッシュにある。
2022年5月に政権交代が行われたものの、マルコス現政権は前大統領のインフラ政策を踏襲しており、インフラ建設は続けられている。
投資するなら地下鉄が通る2エリア
そのうち、中心部を変える存在として注目されているのが地下鉄。都市圏内部を通る路線だからである。
「これまでは空港からホテルまでは高速を利用、車で移動していましたが、地下鉄が開通すれば空港と都心部のホテルが地下鉄で直結。一気に便利になります。すでに空港の隣駅、Food Terminal Inc Taguigでは再開発が始まっており、沿線は動き始めています。
ではどこを通るか。前述の3つの中心地のうち、オルティガス、BGCは通るものの、証券取引所や日系企業本社のあるマカティは通りません。
BGCはこれまで車で40~50分かかっていたところ、地下鉄で10分になり、その2駅先がオルティガスです。となると、これから投資するとしたら、オルティガスか、BGCかということになります」。
そのうち、投資として風戸氏が推しているのはオルティガス。理由は簡単だ。BGCは三越やオリックスなど日本企業も多く、人気も高いが地価も高い。オルティガスはBGCより少し中心部からは離れることになるが、地下鉄ができればその所要時間はわずか3分。それで価格が5割違うとしたらどうだろう。
「オルティガスの中心、オルティガスセンターにはフィリピンのビール会社サンミゲルやフィリピンではマクドナルド以上に大きい地元資本のファストフード企業、マニラ電力の本社などが集まっており、新旧のビルが林立しています。
周辺には1軒2億円以上という高級住宅街ヴェルデ、コリンシアンガーデンズ、フィリピンで2番目に高いゴルフコースなどがあり、現在、駅周辺でいくつかのプロジェクトが動いています。
たとえば、17世紀から地元で事業をしてきたというオルティガスランドという地域の大地主の会社がやっているキャピトルコモンズという街区でのモール開発ではすでに2017年夏から一部が稼働しており、2020年にはモールの拡張工事が終了。百貨店からシネコン、スーパーなどが入っており、日本の会社ではユニクロ、ココイチなども。そこの地下1階に地下鉄の駅ができます」。
直結はしていないものの、駅の目の前にはEmpressなど2棟のタワーマンションも建設されており、現在3棟目の、オルティガスランドによるMavenが来年竣工を目指して建設中。
「価格は40~50㎡のワンベッドルームで、日本円にして2600万円ほど。坪単価で考えると190万円ほどでしょうか。BGCで日本の野村不動産がやっている物件の坪単価が350~360万円ですから大きな差があります。その点に着目する日本人も多く、弊社でもすでに400ユニットほどを扱いました」。
将来の購入者、賃貸層を見越した投資
もうひとつ、風戸氏がオルティガスを推す理由がある。それはこれから台頭してくるであろう地元層の需要が見込めるという点だ。
「職住近接の文化があり、オルティガスは地元企業の多いエリアです。そのため、このエリアでは地元の人達も賃貸住宅を借りており、空室率は10%を切っています。
ところが、外国人比率の高いマカティでは10数%、BGCに至っては2割以上の空室率。コロナで外国人依存度の高いエリアでは一気に空室率が増えたのですが、地元中心のオルティガスではそれほどの影響は見られませんでした。
フィリピンの場合、給料は平均で毎年7%、優秀な人であれば10%以上上げないと辞めてしまいます。経済成長率も高く、5年先までの世銀の経済予測では6%平均で伸びるとされています。
これまでは日本人が投資したマンションを借りるのは外国人、買うのも外国人とされていましたが、今後は地元の人達が買える、借りられるようになっていくはず。と考えると地元の人に選ばれるエリア、買いやすい価格の物件を買っておくことが賃貸時、売却時に有利になってくるのではないかと考えています」。
フィリピンでも子どもの数が数人から2~3人と減少、共働きのパワーカップルも増えているそうで、風戸氏の予測は想像以上に早く実現するかもしれない。
全線開業予定は2029年頃
現在、日本の資金援助で建設が進められている地下鉄だが、当初の開業予定は北部区間が2025年で、全線開通が2027年とされていた。だが、全線開通については2029年頃に延期されており、もしかするともう1回くらいは延期があるかもしれないと風戸氏。
「資材が高騰しており、不足気味。ベトナムで7年伸びたことを考えると、開業がもう少し伸びる可能性はあります。ただ、フィリピンの場合にはJICAが8割ほどの資金を出しており、ベトナムのように工事費アップに議会承認を得る必要はありません。それを考えると、ベトナムほど長期に延びることはないのではないかと考えています」。
また、駅の位置が発表された時点で地価が上昇、上がっているのではないかという懸念があるが、東南アジアでの他の事例を調べてみたところ、計画発表後には地価上昇はあるものの、本格的な上昇は開発後、地域の整備が行われて企業が進出してからになっているケースが大半。今後もまだ上がる余地がある状況と判断されるそうだ。
大きく変貌するマニラ中心部。海外に目を向けたい投資家であれば検討してみたいエリアと言えそうである。