国が賃貸住宅の入居を拒まれることがある高齢者など「住宅確保要配慮者」への支援を拡充する方針だと、すでに健美家ニュースでもお伝えしていたが、さらに詳細な方針が示された。
国土交通省、厚生労働省、法務省の3省の合同検討会で、支援の方向性を議論しているが、このたび単身の高齢者などの入居をサポートするために、社会福祉法人などによる見守りや安否確認サービスがついた「見守り付き賃貸住宅」の普及に乗り出す。
新聞報道によると年内にも具体案をまとめる予定で、高齢者や障がい者、生活困窮者らを支援する「住宅セーフティーネット法」の改正案を、来年の通常国会に提出することも検討している。
不動産投資家として大家として、今後、国が推進していく「見守り付きの賃貸住宅」について理解しておきたい。見守りサービスには、どのような注意点があるのか、大家として覚えておきたいポイントを取材した。
特に高齢者には「見守りサービス」は必須。
残置物の処理について課題も
この件について、65歳以上の高齢者向け賃貸住宅を扱う「R65不動産」を運営する株式会社R65代表取締役 山本 遼氏に話を聞いた。
「高齢者の住宅確保にあたり、住居に見守りサービスをつけることは必須だと考えています。そのため、見守り付き賃貸住宅の普及に大いに期待しています。
一方で、サブリース方式で賃貸住宅を提供する場合は、注意が必要です。死亡した際の残置物の処理などは、オーナーではなく、法的な観点からも公平な第三者が介入することが望まれるため、管理を委託している会社がそれらを受任できない可能性があります」
賃借人の死亡後、居室内に残された「残置物」の所有権は、その相続人に承継されるため、相続人の有無や所在が分からない場合は賃貸借契約の解除や残置物の処理が困難になることがあり、単身高齢者に賃貸人が建物を貸すことを躊躇する問題が生じている。
そのため単身高齢者の死亡後に契約関係及び残置物を円滑に処理できるように「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が2021年6月に策定された。
しかし昨年9月のR65の調査によると、依然として不動産会社が入居前に抱く不安として、「死後の残置物の処理」が2番目に多い52.0%となっている。
「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の普及が進んでいない原因の一つとして、残置物の処理等を実行する「受任者」に利益相反する不動産会社等を指定しづらいことが挙げられると山本氏は指摘する。
そこでR65では9月18日より賃借人の死後に「残置物の処理」や「賃貸借契約の解約」などが円滑にできる「高齢者入居向けの賃貸借契約書」を不動産会社向けに無償配布し始めたが、大きな反響をえているそうだ。
「配布から1ヶ月程度で数十件のお問い合わせをいただいており、大手の不動産会社様からのお問い合わせもあります。死後の残置物の処理に関する問題は、高齢者が賃貸住宅を借りにくい大きな問題の一つなので、新しい仕組みとして社会に普及できればと考えています」
無償配布する賃貸借契約書を介した契約や、『R65パートナー不動産』が契約業務を行った高齢者を対象に、居住支援法人であるR65が受任者となり、万が一賃借人が亡くなった際の『残地物の処理』と『残置物の換価や指定先への送付』、『賃貸借契約の解除』を行う。
「これによって、これまで高齢者に賃貸住宅を貸すことに抵抗があった人の不安を少しでも払しょくできれば幸いです」と山本氏。
◎「高齢者入居向けの賃貸借契約書」の詳細
通常の契約書 | 無償配布の契約書 | R65パートナー不動産向けの契約書 | |
配布対象 | - | 不動産会社や行政関係者など | R65パートナー不動産のみ |
受任者(下記の実行者) | -(なし) | 推定相続人などを想定 | R65不動産 |
残置物の処理 | △ | ○ | ○ |
残置物の換価や指定先への送付 | △ | ○ | ○ |
賃貸借契約の解除 | × | ○ | ○ |
見守りサービスを担う「居住支援法人」の
得意分野を見極めて選定を
「見守りサービス付き賃貸住宅」にあたりもう1点、覚えておきたいポイントがある。それは、見守りサービスを担う「居住支援法人」についてである。
現在の法律では、高齢者の見守りの担い手として、地域の社会福祉法人やNPO法人を自治体が「居住支援法人」として指定する仕組みがあり、指定された居住支援法人の職員が定期的に巡回して安否を確認し、必要な支援につなげたり、家賃債務保証の契約について、入居者の家族らにかわり、法人が緊急連絡先となって家賃滞納に対応したりする場合がある。
株式会社R65では、「居住支援法人」として、見守り付き賃貸住宅の提供を模索していきたいと考えているが、居住支援法人にはそれぞれに「得意な領域」があるという。
「住宅確保用配慮者の入居促進を行いたい物件オーナーは、それぞれの居住支援法人の特徴を見極めた上で、協力関係を築いていく必要があります」と山本氏。
今後、さらに詳しく住宅確保要配慮者に向けた支援の内容が決められていくこととなる。この詳細についても引き続き注視していきたい。
※取材協力:65歳以上の高齢者向け賃貸住宅を扱う「R65不動産」を運営する株式会社R65 代表取締役 山本 遼氏