■不動産に全力投球していたのが裏目に
ツナさん
実は離婚騒動になる前に、アパートを2棟買いました。1つは12室ある築25年の鉄骨の物件で、入居率が5/12。これを頑張ってセルフリフォームして最終的に満室にしました。
この物件を買う時、600万円持っていたんです。それを見せ金にして1,200万円の融資を引いて買いました。そしてその600万円を使って、共同出資でもう一つ築40年の12室(持分1/2)のアパートを買いました。
でもこの共同出資の物件で一悶着あり、相手の持ち分も買い取ることになりました。この件に対処するのが一苦労でした。それまで不動産は個人で買っていましたが、この辺から法人でやることを考えるようになりました。
華子
すごくバタバタしていたんですね。
ツナさん
そうですね。ボロいアパートを買って直さないといけないし、入居がないのに不動産取得税を払わないといけない。そこに共同出資のアパートで揉める・・・。
そんな時、妻と妻の家族から連帯保証人の問題だとか、借金がどうだとか言われるわけです。自分としては妻には応援してもらいたかったんですけど、価値観の差が埋まらないことで、妻との話も合わなくなっていきました。
それでも、離婚を避けるために物件を全部売って元のサラリーマンに戻ることは考えられませんでした。こうして当時、2棟同時に買ったことで多忙になり、必死に行動して持ち直した代償として、離婚するはめになりました。
家族の理解を得ないまま不動産投資に力を入れすぎてしまうと、とんでもないことになる。これは皆さんの教訓にしていただきたいです。
■元祖クレイジーマインド!?浮浪者さんを客付けしてお世話する
ツナさん
そんな案配でその頃は毎日、慌ただしかったんですが、とにかくまだ空室の多いアパートを1室でも埋めなければと、必死で知恵をめぐらせていました。
その時、駅前にいる浮浪者のおじいさんが目に入りました。「この人を入居付けできれば、家賃が3万円ぐらい増えて少しは楽になる!」と思ったので、自力客付けに取りかかることにしました。
華子
街にいた浮浪者の方をですか!?
ツナさん
はい。どうすればその人に住んでもらえるか、生活保護を受けられるかを調べました。それまでの浮浪者さんの住所は駅(つまり住所不定)でした。でも住所がないと銀行口座が作れないし、生活保護を受けることもできないんです。
そこで役所に行くと、「それは貧困ビジネスですよ」と強い口調でめちゃくちゃ責められたんです。でも、「自分は社会貢献の一環としてやっている」と言い張りました。本当は自分が助かりたい思いでやってるんですけども(笑)。
粘り強く話をしていくうちに、市役所の人から、「初月は家賃を出せませんが、試用期間として1ヶ月住めば、2ヶ月目以降から家賃は出せます」という約束を取り付けることができました。
住所があれば通帳も作れるので、浮浪者さんは家賃とは別に生活保護費をもらって、生活を立て直すことができます。そうやって申請が通り、アパートの空室が一つ減りました。
華子
勉強になります。
ツナさん
そして寒さも厳しくなり雪が降りはじめた日に、浮浪者さんを迎えるべく駅に行ったのですが、すごく臭いのです、、、。
あんまり臭いから、銭湯に連れて行って、頭からお尻まできれいに洗ってあげました。洋服はお漏らしのせいでグズグズになっているから、ゴミ袋を二重にして入れて処分しました。
銭湯に行くと石けんの良い香りがするでしょ。そして自分のお古の洋服を浮浪者さんに着せてあげて。もうそこまでやると、自分の分身みたいに見えて可愛いくなっちゃって(笑)。
華子
ツナさんは優しい方ですね。
ツナさん
その浮浪者さんには徘徊癖がありました。浮浪者が歩いていても誰も通報しないんですが、きれいな服を着ていると、「おじいちゃんが迷子になって徘徊してる」って、警察に連絡が行くんです。
そこで、その人の首からネックストラップを下げて、そこに自分の連絡先を書いたものとお小遣いを入れておくことにしました。何かあったら連絡してもらえるように。
そうしたら案の定、警察から「徘徊者の方を保護しました。迎えに来てください」って電話がかかってきました。そんな連絡が一日に4回来たこともあります(笑)。当時はどん底でしたが、必死で対応しました。
華子
それはかなり大変そうです。
ツナさん
寝床でもお漏らしするんです。一度、電気毛布の上でされたことがあったので、布団に毛布を敷いた上にブルーシートを敷いて、その上で寝てもらっていました。
お金も僕が管理して、食事も毎食弁当を手配してあげていました。おむつも交換して、ブルーシートが汚れていたら拭いて、おしっこの世話もして。
同じアパートの入居者のおばさんが、この入居者さんの生活力の弱さに付け込んで、勝手に部屋に入ってお金を取っていくなんてこともありました。もうめちゃくちゃでした。
ただ、浮浪者さんは富山駅に行けば、炊き出しがあることを知っていたり、いろいろ生活できる術を知っていたんですよね。でもアパートに入ると、駅までちょっと距離があるんで、その施しを受けに行けないんです。
だからその生活も春まででした。暖かくなってきたら、「こんなところにはおれん」と出ていきました。その方はもともと定住できないっていう特性を持っていたみたいです。
やがて浮浪者さんが病院で亡くなったという知らせが、僕のところに来ました。アパートを出てしばらくして病気で倒れて、入院されていたそうです。通帳を市役所の方に渡してあったので、病院とのスムーズなやり取りができたと市役所の人にはすごく感謝されました。
華子
最初は非難されていたのに、感謝されて良かったですね。
ツナさん
そうですね。そういえばその直後にこのアパートが2棟とも満室になったんですよ。急にバタバタと入居が決まって。
離婚してどん底だった僕が、冬に浮浪者を助けて、春に出ていかれた。それで満室になったから、浮浪者さんが恩返ししてくれたのかなと自分では思っています。どん底を乗り越えて、僕にもやっと春がきたんです。
自分ではやるべきことをやっただけのつもりだったんですが、この様子を見ていた大家仲間からは、「元祖クレイジーマインド大家」と呼ばれるようになりました(笑)。
華子
ポールさんが活躍されるよりも前ですもんね(笑)。離婚されたそうですが、その後は・・・?
ツナさん
おかげさまで再婚しました。元妻が保証人に入っていた物件は、元妻を保証人から外し、責任を持って養育費も払い続けています。妻と暮らしている子供がもうすぐ二十歳になるんです。その子が生まれる時に買ったワインがまだ未開封で手元にあるので、それを持って今度お祝いしたいと思っています。
今でもやっぱり子供のことは大好きです。僕の至らなさのせいで、悲しい思いをさせてしまいました。これは悔やみきれないことなんで、こういう過ちを犯さないように、みなさんの反面教師にしてもらえればと思います。
■友達が先にFIRE!それを追って自分も退職
華子
貴重なお話をありがとうございます。不動産投資を始めて6年で会社員を卒業されたそうですね。きっかけはあったのでしょうか?
ツナさん
サラリーマンの仕事は好きでした。仕事は大変でしたが充実感がありましたし。でもある時、自分より後に不動産投資を始めた高校時代からの友人が、先にFIREしちゃったんです。その生活が自由そうで、羨ましくなりました。
それを見ていたら、なぜ自分はこんなに毎日働いているんだ!と思うようになり、会社を飛び出したくなってしまって。辞めたら富山ならではの安くて美味しいランチが、平日でも食べられますし(笑)。
華子
当時の不動産規模はどのくらいでしたか?
ツナさん
戸数的には50戸ぐらい、キャッシュフローは月50~60万円でした。みんな会社を辞めるのにキャッシュフロー100万円が目途とか言いますけど、元々給料が少なければ、そこまでいらないんじゃないかな。
目安としてはサラリーマン月収の2倍ぐらいのキャッシュフローがあればいいかなと思います。
僕はたまたま、辞める1年くらい前から会社の給料には手を付けていなかったんです。ある時、「あれ?会社の給料いらなくない?」と気づきました。アパートを買ってローンを返済した手残りで、十分に生活ができていたので。
給料がなくても生活できるとわかったら、会社にいる意味は何だろうと思い始めました。会社にとって自分は必要かもしれないけど、自分にとって会社は必要ないと思ったのが、退職の一番の理由になりました。
今の妻に会社を辞めることを相談した時は、「あなたがそうしたいなら、やってみたら?」と言ってくれました。辞めた後も、「仕事で忙しくて辛そうだったのがなくなって良かった」と言ってくれます。
華子
良かったですね。
■不動産投資の一番の旨味はレバレッジと減価償却
華子
最後に読者の皆さんに一言お願いします。
ツナさん
人にはそれぞれステージがあります。自分は二段ロケットみたいな感じでFIREのゴールに到達しました。最初はキャッシュフローを重視して中古アパートを買っていましたが、ある時から中古アパートを売却して新築や築浅のトラブルが少ない物件に切り替えていきました。
FIREしてからは時間を持て余すと思ったので、ボロ戸建てを買うようになりました。ボロ戸建投資について、ちょっと思うことがあります。最近はブームなのか、割と早い段階で融資をつけるのを諦めて、ボロ戸建てを買って苦労をしている人を見かけます。
人のやり方を否定したくはないんですが、自分的にボロ戸建ては、趣味で楽しむ、締めのデザートみたいなものだと思っています。適性がある人は別ですが、普通の人がそこから始めるのは大変なんじゃないかな。
華子
アパートは融資が難しいという影響があると思います。
ツナさん
そうですね。でも融資の扉って開いたり閉まったりしているので、閉じている間もあきらめないで、お金を貯めながら、扉をノックし続けるしかないんじゃないかと思います。
みんな諦めが早すぎて「もうアパートは無理だ、戸建てなら現金で買える、今すぐやりたいから買おう」って、とんでもないものを買っちゃうじゃないですか。直すのも大変だし、客付けも大変ですよ。
会社員を卒業したい人がそのやり方を選ぶと時間がかかりすぎてしまいます。DIYで週末も消えますよね。ですから、僕からは「不動産投資には色々なやり方があるから、広く検討してみたら」と伝えたいです。
個人的には、不動産投資の一番の旨味は、レバレッジと減価償却だと思っています。借金が怖い人は現金で買える戸建てに向かいがちですが、それだとリターンがなかなか発生しません。融資で物件を買っていかないとレバレッジが効かないんです。
減価償却も大事です。たとえば1,000万円の物件を買ったら、土地は減価償却できないけど、建物分は法定耐用年数に応じて分割していけます。僕はこれを経費のローン化のようなものだと思っています。
減価償却という経費は税金がかからないので、その分キャッシュが残りますし、節税効果もあります。不動産でお金を増やすなら、このレバレッジと減価償却という武器をうまく活用していくことがカギだと思ってます。
華子
そういえばツナさんはコワーキングスペースで定期的にキャッシュフローゲーム会を開いていますよね。それも、そういうことを人に伝えるためですか?
ツナさん
はい。これはロバート・キヨサキの『金持ち父さん 貧乏父さん』の考え方をゲームにしたものなんです。本の内容をすごく理解できますし、ゲームなら仮に失敗しても参加費以上に失うものはないでしょう。
失敗の先に成功がありますからね。ゲームの中なら破綻してもやり直せるので、そのゲームで学んだ知識を、実際の不動産投資に活用してほしいと思っています。
ゲームをやっていると、あっという間に終わりが来ます。僕は人生も思ったより短いものだと思います。無限に時間があれば、いくらでも積み上げていけて、いつかお金持ちになれるのでしょうが、大抵はその前に寿命が来ちゃうんです。
僕も富山の先輩たちに教えてもらいましたが、成功事例を真似することって、案外簡単です。手探りで進むより効率的で再現性もあります。不動産投資には色々な手法や学び方がありますが、キャッシュフローゲームも勉強の一つとして良い方法だと思います。
死ぬ直前に、こうすればもっとうまく生きられたなあと思うよりは、早く学んで、教えてもらって、一刻も早く行動に移していっていった方が本当の成功に近づくんじゃないかな~。明日もう死ぬ!っていう時に10億円があっても、意味がないですよね。
入居者を自分でスカウトしに行くという、すごい発想と行動力に感服しました。温厚そうな雰囲気からは想像つかないバイタリティです。これと決めたことには全集中で向っていくのがツナさんの成功の秘訣かもしれませんね。ツナさん、貴重なお話をどうもありがとうございました。(担当:T)