2018 年に44歳で専業大家になった奈良県在住のよっしーさん。「気力・体力が維持できている間に2人の子どもの育児と向き合いたい」との考えから、不動産投資と妻の物販の仕事と併せ、世帯年収1000万円を超えた時点でFIREした。
2023年8月時点で大阪、奈良に戸建てのみ26戸を所有し、年間家賃収入2000万円弱を得ている。
そんなよっしーさんが最初に購入したのは海外の物件だった。2010年にフィリピンで2戸のコンドミニアムを購入も工期延長で1戸を損切。順風満帆な出だしではなかったが、商慣習の異なる海外で物件購入した経験はよっしーさんの投資家人生の糧になっている。
初めての海外不動産購入
波乱のフィリピン投資スタート
当時会社員だったよっしーさんは2010年にフィリピンで区分のコンドミニアム2戸を購入し、不動産投資をスタートさせた。
「夫婦で海外旅行が好きだったこともありますが、日本の財政破綻や大規模災害など、国家の危機と自分の人生を切り離す事が重要と思うようになり、移住を含めて海外に資産を移す事を考えました」(よっしーさん)
海外の金融機関に口座を開設して積立投資から始めるも、資産移転するなら「海外に拠点を置きたい」と考えるように。
中国のマカオやマレーシアなども候補に考えたが、親日国でクォータービザ(長期滞在ビザの1つ)が取りやすいとされるフィリピンの不動産事情を調査してみようと、夫婦で海外不動産の視察ツアーに参加したのが始まりだった。
投資目的での不動産購入そのものが初めてだったよっしーさんは、複数回フィリピンを訪れ、プレビルドのコンドミニアムを内見した。
日本では馴染みがないが、東南アジアに多いのが「プレ(Pre)ビルド(Build)」方式の物件販売だ。新築物件の建設中に代金の一部を支払い購入する仕組みで、建築初期の段階に買うほど安く、竣工に向けて販売価格は上昇していく。
物件を安い金額で購入し、引き渡し前の上がり切ったところで転売すれば、高いキャピタルゲインを得られる。一方で、物件がスケジュール通りに完成しない事やプロジェクトが頓挫するなどの問題も起こりうる。
日系の仲介業者の勧める物件も内見したが、「現地ローカル人の実需に合わないような外国人駐在者向けの高額物件が乱立し需給バランスが崩れる事が容易に考えられました」とよっしーさんは話す。
事前に室内から見える景色が良いと聞かされていたのに、現地で図面と照らし合わせると窓の向きが隣のビルに向いており、眺めが良いとは思えなかったケースもあったという。
仲介業者を経由の代金支払いに注意
デベロッパーへの受渡証書なく差し押さえも
また海外ゆえに慎重さが必要だと感じたのが、支払い方法だった。
よっしーさんが現地の仲介業者の話を聞くなかで、「これは危ない」と感じたのが、仲介業者を経由してデベロッパーに代金を支払うスキームだった。
「当時、中小の仲介業者が多く、代金を仲介業者経由で海外送金する事が多かったです。ゆえに、仲介業者からの物件代金の受渡証書はあっても、デベロッパーへの受渡証書が無かったケースが多かった。
デベロッパーから“お金を受け取っていないので期限までに支払いをしないと物件は没収されます”と通知がきて問題が発覚、仲介業者と連絡が取れなくなって、肝心の証書がなく、物件を差し置さえられてしまったケースが多数見受けられました」(よっしーさん)
よっしーさんの場合は、小切手をデベロッパーに直接郵送して、その月になると銀行に請求する形をとった。
フィリピンでは小切手を使用した商習慣が根強く、日常的によく使われている。ペソ紙幣の最大は1000ペソで、不動産取引ともなると大量の紙幣を運ばないといけないので小切手がよく用いられるという。
この頃よっしーさんは、ひょんなことから現地のフィリピン人女性との交流が始まり、海外不動産購入の選択肢を広げることになる。
「現地のATMでお金の引き出しに困っていたところ、日本語が堪能なフィリピン人女性の方に助けていただきました。
ありがたいことと思いつつも、当初は日本語で話してくる現地の人を用心していました。本人もそう言っていました。その後、家族ぐるみでお付き合いをする中で、彼女の本業は大学の日本語教師で、不動産投資もされていることを知りました」(よっしーさん)
この女性を通じ、現地企業が販売する現地ローカル人が購入できる、手頃な物件情報を得られるようになったのだという。よっしーさんは、内見を繰り返した上で以下の物件を購入した。
マニラの一等地・マカティの中心街「グリーンベルト」のコンドミニアム2戸
●1ベッドルームタイプ
860万ペソ(当時の日本円で約1720万円)
●スタジオ・タイプ(キッチン付きのワンルーム)
440万ペソ(当時の日本円で約880万円)
利回り7~8%程度
マカティのグリーンベルトは商業地と住宅地が隣り合ったエリアで、複数のショッピングモールがあり生活に便利なことからローカルの人に人気の場所だという。
また近くには銀行や保険会社などの金融街があることから、若い海外駐在員も暮らしている 。
元来、空いている土地が少なく、建築できるエリアも限られており、新たな物件を建てることが難しい希少エリアでもあるのだとか。
物件購入にあたって手付金はなく、契約の翌月からは分割払い。物件価格の15%を12か月間、物件価格の5%を13か月目に支払い、残金として80%を一括で支払う仕組みだった。
契約のすべてが英語だったが、よっしーさんは辞書を用い、ひとつひとつの言葉をチェックしながら慎重に進めていった。
内装工事終了で竣工のはずが
工事時間の制限、エレベーター故障、停電…
「日本人投資家の失敗例に多いのは、竣工前までに転売できると思い、現金がないのに契約してしまうことです。
私自身も、実売価でなく販売初期の値上がる前の金額で購入できると聞き、1ベッドルームを1年間で転売してスタジオ・タイプの費用にしようと安易に考えました。結果として工期が1年半も延期し、残金80%の一括支払い時期が迫ったので1戸は売買契約を解約することになりました。
しかも、契約した価格は販売初期価格でなく実売価格で契約していることが数年後分かり、セールストークにのせられたと反省しました」とよっしーさんは振り返る。
よっしーさん自身も内見段階で、外観工事は終わっており、残りは内装工事のみと確認していたのだが。
「当初は24時間体制で工事ができたのですが、他の工事現場で死亡事故が起きてしまいマカティ全体で建築工事を昼間のみに制限となりました。
建物のエレベーターの故障、度重なる停電、ほぼ完成していた1階のエントランスの再度の工事をすることになったなど、様々な理由で工期が伸びていると聞かされ、デベロッパーに様々な疑念も持ちました」(よっしーさん)
工期が遅れたことで困ったのは2戸同時の支払いだった。
よっしーさん夫妻は共働きだったが、月額15万円の支払いは苦しかったという。すでに物件価格の約2割(約170万円ペソ)を払い込んでいた。
新たにローンを引くことも考えたが、市中銀行で融資を引いても金利は8%、東京にあるフィリピンの銀行PNB(フィリピンナショナルバンク)で4.8%、デベロッパーのインハウスローンになるとなんと金利15%との話だった。
それでは投資に見合わないと判断し、1ベッドルームの売買契約を解約することにした。
本来は全額没収のところだが、幸運にも払い込んだ金額の7割が戻ってきた(約100万は戻らず)ため、残りのスタジオ・タイプ(ワンルーム)の支払いに充当することができた。
「マリアさん(前出のフィリピン人女性)が根気強く窓口の人と交渉してくださったおかげで、普通はお金が返ってこないところを7割も充当できました。彼女には大変感謝で、欲をかいてしまった自分が悪いと反省しています」(よっしーさん)
よっしーさんが維持したもう1戸、スタジオ・タイプ(ワンルーム)の部屋は13年経った今も長期保有している。
この間には、2020年の新型コロナウィルスの感染拡大で入居者が退去し、その後は借り手がつかずコロナ前に3万3000ペソ(約7万円台)で貸していた部屋を2万5000ペソ(約6万円台)まで家賃を下げ、ようやく入居が決まるという波乱もあった。
現地通貨での利回りとしてみると利益は下がるが、海外移住先にと考えての購入でもあったため、いたしかたないという思いだった、とよっしーさんは振り返る。
「1戸の売買契約を解約する失敗もありましたが、結果的に海外に1000万円の資産を移転できたことは良かったと思います。
今後については子どもの語学留学などの滞在に備えて保有し続け、売却時期は国際情勢に合わせ検討していきます。初めての不動産投資を海外でスタートさせたことは私自身の自信につながっています」(よっしーさん)
後編では国内の戸建て投資にシフトし、「気力・体力が維持できている間に2人の子どもとしっかり向き合いたい」と生活コストを下げて専業大家となったよっしーさんの現在の生活について紹介する。
執筆:
(すどうみき)