前回の「全国の築年別賃料格差を調査。 新築の家賃が「30年で4割減」に?)」の記事のように、築浅と築古では4割もの賃料差がある。
このポイントから収益物件の「買い」か「売り」かのポイントと、買取再販会社の戦略的な利回り改善の手法を探求してみたい。
■単身物件の全国平均賃料は、新築で6.4万円。
築20-30年で4.5万円。築30年超で3.6万円。
前号でも論じたように、新築賃貸物件は建築費向上に伴い募集賃料が上がっている。その一方で、築古物件は世帯数減少による空室増加で募集賃料が下がっている。
プリンシプル住まい総研が、全国の県庁所在地最寄りの単身物件の賃料を調べると、新築で6.4万円。築1-5年で6.3万円。5-10年で6.0万円。築10-20年で5.3万円。築20-30年で4.5万円。築30年超で3.6万円、であった。
今回は、これを参考に現状の投資物件がどのように売られているかをシミュレーションしながら考えていきたい。
あくまで、この記事は「全国平均」の数字で論じているが、当然、エリアによって異なり、地域地域の相場を丁寧に調べて、検討する材料として頂きたい。
■レントロールを調べると、
入居時期により、家賃が違う
このように、「築年により家賃が、4割ぐらい差が出る」ということは、実は、「入居時期によっても家賃が、4割ぐらい差がでてしまう」という事になる。
例えば、上記のように、部屋ごとに家賃が異なる。302号室の入居者は新築時から長く住んでいる入居者で、家賃は5.0万円のまま更新を続けてくれている。304号室の入居者も入居したのは10年以上前。
他の入居者は築30年になるこの物件には最近住んだ人ばかりという状況だと、このぐらい格差が出るのだ。学生や社会人など単身物件では人の入れ替わりが激しく、長期入居者は、実際には、「高い賃料を払い続けてくれる優良入居者」といえる。
また、1階が決まりにくくなるのは事実であり、特に女性からは敬遠されがちである。現況は、4室中2室が空室という状況である。
この物件が、5,200万円で売りに出ると、現況38.4万円/月の賃料収入。年間では460.8万円/年の収入で、表面利回り8.9%。悪くない投資案件と言える。
空室が2室あるので、満室時の賃料を平均賃料の3.6万円の賃料とすれば、満室時表面賃料は10.5%。「掘り出し物」の賃貸物件といえるかるしれない。
しかし、売り手とすれば、修繕工事はそろそろ大規模にかかりそうであり、かつ、302号室・304号室の退去も今後心配だ。原状回復だけでもかなりかかることも想定される。
築30年を超えると、バストイレ一緒・温水洗浄便座なし・室内洗濯機置き場というケースも想定される。すでに1階は平均賃料を切った募集賃料でも2部屋空室と苦戦している。
1階の賃料をこれ以上下げると、入居者の質も下がり、共用部の使い方ルールが守られなくなり、優良な入居者の退去が進む可能性もある。相場は高値だから「そろそろ売り抜けようか」と考えたともいえる。
なかには、フリーレントなどをつけて無理やり入居者を入れているケースもある。購入後にどんどん退去が増え、収支が合わない、といったケースもあるため、レントロールは、通年で丁寧に確認したい。
■レントロールを見ながら
最悪のシナリオも考えて購入する
こんな話をすると「やはり投資は危ないのか。ならやめよう」と考える人もいる。そうではなく、「投資はリスクをしっかり想定して行う」ほうがよい。今、定期預金をしてもほとんど利回りはない。現金を銀行に預けてもそう簡単には利回りは出ない。
例えば、今、ほかの入居者より高い賃料である302号室と304号室の入居者はやがて、住みかえると考えて、ここは、平均賃料まで下がると考えよう。
1階はもうひと部屋空室が出るかもしれない。そこで、もう一度、賃料収入を計算すると、表面利回りは7.5%。これから大規模修繕が必要かどうかはしっかり見極めたいが、まだまだ現況でも稼げる余地はあり、「買い」と判断してもいいだろう。
■賢い「買取再販」会社の
リノベ手法
実は、こうした「ケース1」のような物件を、「立地」をしっかりと見極めたうえで、「買い取り」してから「設備強化やリノベ」をして、投資利回りをよくして販売、もしくは所有している会社がいる。
これは、「新築が家賃相場をあげている」ので、「設備強化やリノベによって家賃を上げ」て成功しているのである。
まず、5,200万円なりなんなりで買取を行う。ここは出物の少ない昨今では、スピードとの勝負となる。
価格だけでなく、即金での決済が売り方には好評であり、「すぐに買ってくれるならちょっと安くても」となるかもしれない。なにしろ今は相場が高く、買い手も手が出にくい。
購入後は、課題となっている1階の空室対策だ。バストイレ別・温水洗浄便座・室内洗濯機などの設備で劣位であると、そう簡単に借り手はつかないが、これら設備の強化やデザインリノベーションついて、何度もトライ&エラーをしており、経験値が高い。
仮に戸あたり200万円平均で設備強化・リノベーションを行うとすれば、築10-20年物件の平均賃料の物件と比べると、立地などで優位であれば戦える。
しかも、400万円の投資であっても、築10-20年の平均賃料である、5.3万円で決まれば、全体の収支は、①のケースよりもはるかに改善する。2部屋決まっての満室時賃料の利回りは、①のケースに匹敵する。さらに今後の退去時にも同じ対策を繰り返すとしても、高利回りを維持できる。
■正しい相場を確認しつつ
あるべき空室対策を選択肢に
株式投資や投資信託と異なり、収益物件への投資は、単に「売る」「買う」といった「投機」の要素だけでなく、「オーナー自らの工夫で、入居者の獲得をすることが出来る」ところが醍醐味である。
もちろん、設備やリノベが有効なエリアがあれば、ほかの手法がより有効なエリアもある。最近増加する外国人入居者の居住促進や、高齢者入居という手もあるし、シェアハウスや民泊など新しい手法もある。アクセントクロスでの差別化やステージングもひとつの手であり、DIYや地域コミュニティの活用など空室対策の手法は多様化している。
少なくとも、収益物件オーナーは、「自らの工夫で住環境を変えることが出来る」手法をもっており、その武器をどう活用するかを考え抜く事が可能である。リスクとチャンスを冷静にとらえて、物件の購入や売買に役立てていただきたい。
執筆:
(うえののりゆき)