安く買って、高く貸す。当たり前だが、不動産投資で収益を上げるにはこれが基本だ。だが、このところ、首都圏を初めとする都心部では物件価格が高止まりしており、思うような利回りが期待できないのが現実だ。

そこで目を向けたいのが物件価格が安く、それなりの賃料が期待でき、かつそれほど手を入れなくても貸せる神奈川県横須賀市である。
かつて軍港として栄えたまちで、今も米軍が駐留、海上自衛隊の駐屯地があるなど、他のまちとは少し異なるニーズがあるのも注目したいところである。以下、順に横須賀の賃貸事情、そこで高収益を上げるために知っておきたいことを見ていこう。
■狙い目は200〜300万円の古い平屋一戸建て

横須賀市は首都圏でも有数の階段、坂の多いまちである。高齢者にはそれが辛いようで、階段の上の住宅には空き家、売り家が少なくない。
狙いたいのはそうした物件である。なぜか。横須賀ではアパートの利回りも都心に比べれば高く、魅力的ではあるが、それ以上に利回りが高く、かつ安く買え、しかも競合が少ないため、客付けがしやすく、管理の手間が要らず、長く住んでくれるからである。

「アパートは未だに新築がどんどん建てられているほどで、すでに供給過多。それでも都心だと10%を切る利回りが、中心部の汐入の駅徒歩10分の新築でも9%ですからそこそこある。
中古ならたまに12%以上という物件もあり、そうした物件には横浜、東京からと問い合わせが殺到します」とは地元で収益物件も多く扱うウスイホーム武山店店長の柴橋巧季氏。
「都心の投資家の方々は初期費用を安くして借りやすくしたり、部屋を魅力的に見せるノウハウがあるなど、地元の大家さんよりも募集がうまい。最近、地主系の大家さんの中にそうした競合に敗れ、物件を手放す例も出てきており、そうした物件なら多少安く手に入れられることもあります。とはいえ、新築で5000〜6000万円。
中古でもそれなりにしますから、今後は競争が激化する可能性も。それを考えると競合が少なく、始めやすい一戸建てには魅力があります」。
柴橋さんが勧めるのは価格でいえば200〜300万円で出ている、専有面積で50〜60uほどの一戸建てや長屋、テラスハウスなど。実際にはそこから価格交渉が入るため、200万円前半、時によっては100万円を切るケースもあるそうで、これなら確かに始めやすい。
ただ、そうなると賃料も安くなるのではないかと思うかもしれない。確かに横須賀では一戸建てといっても賃料12万円以上は難しいと柴橋氏。
「高くても10万円くらいまでで中心となるのは5〜6万円。同じ一戸建てでも1Kくらいのものなら3万円というところ。ですが、平坦な場所にある1Kアパートだと3万円でも難しいこともありますから、確実に賃料が取れるのは一戸建てなのです」。
■米軍、自衛隊に若い人が借り手
気になるのは借り手だ。横須賀市は2013年に人口減少数が日本一となったことがあるほど、人が減っているまち。だが、特殊な借り手のいるまちでもあり、心配することはないと柴橋氏。

横須賀ならではの借り手は米軍と自衛隊だ。米軍についてはベース仕様と言うべき条件が多種あり、それを備えていなければ借りてもらえないが、逆にその要件を満たしていれば安くなった一戸建てが20万円近くの賃料で借りてもらえる可能性がある。これについては別途詳しくご紹介しよう。
もうひとつ、自衛隊の方々も階段を気にしないことが多い。そして賃料を抑えようと考える人が多いのだという。
「横須賀には自衛隊の各部隊が駐屯、分屯していますが、そのうち、海上自衛隊では陸上勤務になると危険手当が付かないため、海上勤務時より手取りが減るという事情があり、できるだけ賃料を下げて借りたいというニーズがあります。身体を鍛えている人たちのためか、階段を気にしない傾向があり、7万5000円のテラスハウス、一戸建てなどを2人でシェアというケースもしばしばです」。
自衛隊の場合、リピートや紹介での利用者が多いそうで、一度借りてもらい、気に行ってもらえれば続けて借りてもらえる可能性が高いのも魅力という。
それ以外の借り手としては若い単身者、カップルなど。これは単純に借りられる一戸建てが少ないという市場の状況から。賃貸専用に建てられた一戸建てがほとんどないことを考えると、横須賀に限らず、一戸建てが安く仕入れられる場所ならこの手の貸し方は確実なはずである。
■人気は横須賀中央、汐入に久里浜

借り手に人気が高いのは市役所や大規模商業施設などが集まる京急線の横須賀中央駅から同汐入駅にかけて。米軍基地からも近く、生活の利便性が高い地域である。横須賀中央駅の隣、県立大学駅は学生ニーズがあり、ワンルームアパートの多い地域。

ちなみにこの地域の海近くには再開発で生まれた平成町というまちがあるのだが、ここで2000年に入居が始まった「よこすか海辺ニュータウン」はいまも地元で人気が高く、価格が落ちないと評判とのこと。高層物件が少ないためだろう。

もうひとつ、人気のまちは京急線、JRの駅が至近距離にある久里浜。駅ビルがあるほか、駅から商店街が伸びており、イオンもあって買い物に便利というのがその理由。賃貸住宅はワンルームから2DK、3DKと幅広くニーズがある。
逆に今ひとつ、人気がないのが京急線の浦賀駅。ここは細長い港を中心にしたまちで、平地が少ないのは他のまち同様だが、まち全体が谷になっているため、暗い感じがあり、それと遠さが今ひとつの要因らしい。
その浦賀駅の手前、馬堀海岸には昭和50年頃に分譲された一戸建て、テラスハウス中心の一画があり、ここは利回りよりも資産性を重んじる人に人気という。平坦で、海沿いの美しい街並みが印象的なまちで、価格は建物が古いなどで手頃なもので2500〜2600万円、1990年前後に建てられたものだと3000万円後半から4000万円だ。
それ以外では駐車場付きが安く借りられると根強いニーズがあるのが内陸部にあたる横須賀線衣笠駅周辺や、陸上自衛隊の駐屯地、海上自衛隊の横須賀教育隊、航空自衛隊の分屯地などがある近くの武山エリア(最寄りに駅はない)。駐車場付きの一戸建てが買いというわけだ。
■自己責任が求められる低価格物件
最後に低価格物件を買う場合の注意点をまとめておこう。おそらく、多くの人はうすうす気づいていると思うが、建物の立地、状況には難がある。
階段が多く、車が入らないのは当然として、雨漏り、傾きがあることもあり、接道がない場合もありうる。再建築不可、事故物件、ゴミ屋敷も想定していたほうが良い。だが、そうした難があるからこそ、安く買えるのだ。
それに横須賀の職人はそうした場所に慣れているせいか、他のまちでは断られそうな案件でも受けてくれることが多い。ゴミは自分で下せばなんとかなる。借りるほうも東京ほどきれいさにはこだわらない人が多く、雨漏り、傾きなどが直っており、住める程度になっていれば借りてもらえる。
特に一戸建てでは大型犬を買いたい、多頭飼いしたいというニーズがあり、そうした人であれば建物が多少古くて、見た目が今ひとつでも気にしないことが多い。DIYをしたいという人などもいる。東京の感覚でつい「きれいにしなくては借りてもらえない」と思いがちだが、横須賀のユーザーはそんなことは望んでいないのである。
ただ、必ずリフォームは必要になるため、地元のリフォーム事業者に伝手があることは重要。できれば下見などで見に行く時に一緒に行ってもらえるようなビジネスパートナーがいれば安心である。
もちろん、それ以前に不動産会社との信頼関係も大事だ。
「低価格物件は誰にでもお勧めできるものではありません。安い物件には何かしらのマイナスがあるもので、それをあらかじめ想定、リスクに備えられる人でなければ後日のトラブルになります。物件自体、どんどん出てくる性格のものではなく、出たら買いたいと言う方も多いので、情報を公開する前に決まることもあります」。
まずは不動産会社とのつながりを作ることが、横須賀での投資の第一歩なのだ。
価格が価格なので、それほど心配はいらないと思うが、ローンは利用できないことがあるので、その点も覚悟しておこう。建物が古く、価値ゼロ同然の物件となっているため、銀行での融資はほぼ難しく、信金もこのエリアでは居住地域の縛りが厳しく、これまた、ほとんど使えない。
もうひとつ、お金絡みで覚えておきたいのは横須賀では借地が多いという点。借地物件を購入した場合、購入後に名義の書き換え料が必要になり、かつ毎月何がしかの借地料を払う必要がある。物件情報を見る際にはそこをチェックすることを忘れないようにしよう。
以上、安く買えて貸しやすい横須賀の投資事情を解説した。楽して儲かるものではないが、自分でリスクを取れる、労力や知恵を出せる人であれば面白い投資ができ、収益が挙げられる地域であることは確かである。あとはそこに踏み出すかどうかである。
健美家編集部(協力:中川寛子)