「空き家や老朽化したアパートを安く手に入れて、家賃をえられたら・・・」と考えている読者は少なくないだろう。「ぜひとも多くの人に、空き家を再生してもらいたい」と語るのは、岐阜県の工務店「タグチホーム株式会社」代表、田口元美氏だ。空き家を賃貸住宅やコワーキングスペース、シェアハウスなどに改装するなど幅広く活用してきた。
古い物件に投資する場合、リフォームにお金をかけだしたら、きりがない。「どこまでリフォームに手をかけるか見極め、お金をかけすぎないことが重要になる」と田口氏はいう。築47年、地方の全空アパートを満室にした話を中心に、工務店ならではの視点で、築古物件に投資をするうえで重要なポイントについて取材した。

岐阜大学近くの競争が激しい立地。
ほかで断られるような入居者も受け入れる
これまで田口さんがリフォームで関わった仕事のなかでも、興味深い事例が、築47年のRCの賃貸アパートを満室にした事例である。間取りは2DK、家賃は3万円ほど。1年半ほどかけて、1戸1戸埋めていった。オーナーさんから依頼を受けたときには、9戸全戸が空室になっていた。場所は、岐阜市黒野南。近くには岐阜大学があり、アパートの供給量が需要よりも多く、競争が激しいエリアである。
「高い家賃が見込める立地や住環境ではないことから、給湯器を取り替え、wi-fiを装備した程度で大掛かりなリフォームは行っていません。満室にしたコツといえば入居者を選ばず、ほかで入居を断られるような入居者も受け入れていること。9戸中3戸が生活保護受給者で、障がい者手帳を持っている方や、学生さん、新社会人もいますし、外国人可、ペット可としています」
ペットは犬だけではなく、鶏を飼っている入居者もおり、カンボジアやフィリピンから来ている入居者もいる。

ステージンジグには、地元、岐阜女子大学の住居学科の学生さんの手を借りた。
「授業の延長線で、どうしたら魅力的な部屋になるのか、一緒に考えていただき、家具や備品も学生さんに揃えていただきました。まずは1戸、ステージングで部屋を魅力的にして、入居者が決まると、ステージングの道具を、他の空室に移動して活用しています」

シェアハウスのニーズは低迷。コワーキングスペースや
定額制で住める「ADDress」など活用を模索
賃貸アパートの再生のほかにも、空き家や実家などのリフォームの相談も多い。部屋数の多い戸建ては、シェアハウスとして活用することが多かったが、コロナをきっかけに、不特定多数の人が集まるシェアハウスは敬遠され、ニーズは低迷。定額制で全国の空き家に住むことができる「ADDress」に試しに登録してみたところ、コロナ禍でも思いのほか利用者がいるそうだ。

「ADDressの利用者は、リモートワーカーやフリーランスが多く、口コミを見て、部屋を選ぶ人が多い印象です。気に入った住居には長く住む傾向もあり、利用者と部屋のニーズとマッチすれば、一般賃貸に出すよりも、収益が見込める場合もあります」
最近では、岐阜羽島市の空き家をリフォームして、「コワーキングスペース」を始めている。サラリーマンが土日の休みの日に利用したり、同窓会を行うために利用したりと、さまざまなニーズがあるようだ。
「コワーキングスペースとしてスペースを借りる人は、自分の住まいだけでは満たされていない方が多く、趣味の場所として、もう1軒、一時的に借りたいという人が多いようです。実際にリフォームを行うには手間もお金もかかるので、リフォームを必要最低限にするためには、最初に入居者のアテを探り、ニーズを見極めることが大切だと感じています」
田口さんは、長年リフォーム事業に従事するだけではなく、地元の空き家活用に関するNPO法人としての活動にも力を入れてきた。そうした活動を通して、市の空き家活用の担当者から頼られる存在となり、「岐阜に移住したい人」をよく紹介されるそうだ。そのような「縁」を大事にすることも、空き家を有効に活用するためには重要なポイントとなりそうだ。

▽取材協力:タグチホーム株式会社
近年は地元の岐阜の木を使った家づくりを推進し、耐震や省エネ改修を得意とし多くの実績がある。ホームインスペクション(住宅診断)事業も行っており、中古住宅を購入する際の不安を解消、住まいを長く大切にメンテナンスして活かすことで、資産となる住まいを提案する。不動産仲介や火災保険、中古住宅かし保険の取り扱いも行う。
健美家編集部(協力:高橋洋子)