華子
お二人の手法は土地値以下の築古物件にオーバーローンで融資を引き、再生後に高利回りで運営するということでした。なぜ、東三河の金融機関は築古物件にも積極的に融資してくれるのでしょう?
ゆうちゃん
愛知県と静岡県の狭間にあるので金融機関の数が多く、競争原理が働きやすいのがひとつです。大手の融資先が少ないので、我々のような不動産事業にも積極的に融資してくれるケースが多いです。これは私たちにとって強い優位性になっています。
このエリアは探せば路線価以下で購入できる物件がありますし、工夫すれば満室経営も可能ですが、名古屋や浜松などの大都市に比べると洗練された投資家の数は限られます。こういった地域性を理解したからこそ、豊橋やその近隣で物件を買い進めてきました。
実は最初は名古屋で物件を買ったのですが、なかなか次が買えませんでした。ようやく買えた築16年のRC物件は1年で16部屋が退去するような大変な物件で、結局はバイアウトしました。
ライバルが多く難易度も高い名古屋に比べると、不動産賃貸業をしやすい地域です。
たけちゃん
あと、地方ならではだと思うのですが、「地元の人に買ってほしい」と考える不動産業者が多く、優良物件の情報はまず私たちのような地元の投資家に回ってきます。それも有利に投資できる要因です。
華子
具体例を挙げてもらって良いですか?
ゆうちゃん
2023年2月に、築49年・44部屋全空のRC物件を購入しました。物件価格8,500万円に対して地元の信金から1億2,600万円の融資を金利1%以下、期間20年で受けることができました。
「耐用年数切れの物件を購入して出口は大丈夫なのか?」と心配されることがありますが、これまで、旧耐震のRC3棟と耐用年数切れの木造1棟、軽量鉄骨を1棟売却できています。土地の担保価値がそこそこある物件を、相場より少し高い利回りにすれば、売れる可能性は十分にあると思っています。そもそも、高利回りですので持ち続けても問題はありません。
華子
築古物件はリフォームや修繕代がかかるなど、リスクが高いイメージがあります。
たけちゃん
だからこそ土地値以下の物件を買うようにしています。逆に言うと、それ以外の物件には手を出しません。
ゆうちゃん
確かにリスクはあります。事前の建物のチェックなども大事ですが、何より、経験を積むことが大事です。これまで漏水などさまざまなトラブルに直面してきましたが、その度にノウハウを得て、次に活かしてきました。
華子
旧耐震の物件も積極的に買っているのですね。
たけちゃん
融資の際に「旧耐震だからダメ」と言われることはありません。ただし、1970年代のRCはコンクリートに砂砂利が使われていて割れたり爆裂したりしやすいとリフォーム業者から聞いているので、コンクリートの質には注意しています。
華子
お二人とも築古再生をメインとされています。同じエリアですと、物件の取り合いになることもあるのでは?
ゆうちゃん
ないですよ(笑)。そのあたりは暗黙のルールがあって、例えば私はたけちゃんの知り合いの不動産屋に連絡先は聞かないですし、たけちゃんにどの不動産会社の紹介で物件を買ったかも尋ねないようにしています。
たけちゃん
そうですね。逆に、いま抱えている物件で手いっぱいの時はお互いに物件情報をパスし合うなど、協力することも頻繁にあります。競いあっても意味がないじゃないですか。若手の投資家に物件を紹介することも珍しくありません。
■金融機関は不動産投資のパートナー。協業体制を構築させるのが融資付けのポイント
華子
融資付けで工夫していることはありますか?
たけちゃん
融資を受ける時、初期の頃は「物件価格までの融資額」を希望していましたが、今は「諸経費を含めた全額融資」を借りるようにしています。会社員時代に破綻先を見てきたので、多額の借り入れは怖いと思って最初の頃は頭金も入れていましたが、今はできるだけ自己資金は温存する方針に転換しています。融資付けでは、次の4点を工夫しています。
1)最初に融資を受けにくい金融機関から、順番に融資をうけていく。
都銀が築古物件へ融資するケースはほぼありません。私の場合は最初に地銀と取引を始められて、かつ金利も低く借りられたことから、地銀の条件がスタンダートとなり、第二地銀、信金、信用組合に案件を持ち込んだ際にも、地銀にならった条件で対応してもらえました。
2)各金融機関の特徴を把握して、購入物件ごとに、適切な金融機関へ持ち込む。
先ほどゆうちゃんも話していましたが、豊橋市には都銀3行、地銀4行、信託銀行1行、第2地銀4行、信用金庫4金庫、信用組合3組合と金融機関が多く、かつその中に愛知県近隣の岐阜県、静岡県、三重県といった愛知県を本拠地としていない金融機関が多数あります。
地元で集めた資金を愛知県の優良企業に融資したいという思惑があるんだと思います。そのため、物件を購入する際には、それぞれの特性にあった金融機関に案件を持ち込んでいます。
3)決算内容を良くし銀行の債務者格付けをあげて、融資をしやすい企業にしていく。
損益計算上ではしっかりと利益を出して納税し、貸借対照表上では、特に流動比率、自己資本比率を高めています。あとは、CFと債務償還年数も意識をしています。ちなみに直近の決算においては、流動比率420%、自己資本比率26%で推移しています。
4)金融機関担当者さんをチームのメンバーとして、積極的に融資準備に協力していく。
金融機関の担当者は忙しい方が多いため、なるべく事前に必要な書類を全部用意して、情報も一覧表を見れば概要がわかるようにコンパクトにまとめて提出しています。また、相手にとって無駄な時間にならないよう、買付証明が通った物件だけ持ち込んでいます。
また、事務所に来てもらうのではなく、こちらから支店に訪問するようにして時間短縮にも努めています。担当者さんの時間コストも減らしているからということも含めて金利は最大限、頑張って下げてもらうようにお願いしています(笑)。
ゆうちゃん
不動産投資を始めた当初、借金は悪だと思っていました。でも今は、不動産賃貸業の大切なパートナーのひとつが金融機関と思っていて、積極的に融資を活用したいと考えています。
また、私はリフォーム業をしているので職人さんたちに安定的に仕事を提供したい気持ちがあります。規模の拡大は私だけでなく、周りの幸せにもつながっていると思います。
融資付けで工夫していることは、たけちゃんと同じく金融機関の格付けが上がる決算書になるように、毎年徐々にでも増収増益になるように利益を出しています。また、流動資産比率を高めるために、CCR(自己資金配当率) を意識して物件を購入するようにしています。
ちなみに、金融機関に持参する資料はとても分かりやすいと評価していただいています。具体的には、以下の資料を持参しています。
- 自己紹介書(再生実績、保有不動産の含み益、事業コンセプトも記入)
- 金融資産一覧表(親や家族の資産、株や投資信託等も記入)
- 個人法人物件一覧① (売上、残債、残債利回り、返済比率、入居率、借入状況等入)
- 個人法人物件一覧➁(構造・間取り、平均家賃、土地・建物㎡等入)
- 物件収支表(物件概要、取得時費用、入居状況、改装後想定賃料、物件収支表)
- 物件購入理由書(購入理由を専門家の意見も入れて具体的に、リフォーム&募集計画)
それ以外ですと、金融機関の方がゴルフ好きなら、一緒にゴルフに行くようにしています。私の後輩は金融機関の方と一緒にゴルフを行った直後に良い物件が現れ、それをその金融機関に持ち込んだところ1棟目にも関わらず2週間で融資承認を獲得しました(笑)。属性が良いわけではないので、ゴルフの効果はあったと思います(笑)
【編集後記】
豊橋を中心とした愛知県の東三河エリアで「路線価以下の築古・空室の多い物件」を買い、再生したうえで客付けをしているお二人。金融機関を味方につけながら、戦略的に不動産投資をしている印象を受けました。次回は満室経営や物件取得のための工夫などについてお聞きします。