ご存じのように不動産投資にはさまざまなやり方があり、その人が目指すもの、経験その他によって何がベストかは異なる。
そこで全国古家再生推進協議会の投資術をご紹介する連載を始めるにあたり、まずはどんな人がこの投資に向いているか、向いていないのかを整理しておきたい。
対象は築古の一戸建て。都心物件は該当なし
全国古家再生推進協議会(以下全古協)が進める不動産投資は築年数の古い一戸建てを、古家再生士と呼ばれる工務店などのアドバイスを経て購入、改修して賃貸住宅として活用するという仕組みになっている。
この時点で区分所有、集合住宅の一棟ものだけを考えている人は対象ではなくなる。
また、立地的には都心、ブランド力のある住宅地などが対象となることは少なく、価値の落ちにくい都心だけを狙いたいという人にもあまり縁がない投資と言えるかもしれない。もちろん、広く物件種別は考えたいと言う人であれば検討の余地はある。
数百万円から投資可能だが、自己資金ゼロでは難しい
築年数の古い木造住宅が対象となるため、融資は付きにくく、基本は自己資金で投資することになる。
といっても全古協で扱っている物件は物件価格+改修費で首都圏近郊など不動産価格が高い地域でも1000万円前後、地域によっては600万円以内くらいで収まることもあり、自己資金といってもそれほどハードルは高くはない。
全古協では最初の1軒目はリスクがないように自己資金での購入を勧めており、そこから資金を貯めて次へという堅実な投資法が現実的だと考えている。
融資がなければ、もし、空室が続いてもローンの返済がないから持ち出しが増えることもなく、日々出費だけが嵩むことにやきもきせずにも済むはずだ。
堅実に増やしたい人向きだが、売却益狙いには疑問も
そのため、投機的に一獲千金を狙うような考え方の人には生ぬるい、時間がかかると捉えられるかもしれない。確かに融資を受けてレバレッジを効かせ、短期で戸数を増やすやり方からすると石橋を叩いて渡るようなやり方だ。だが、大事な自己資金を堅実に増やす方法を模索している人にとっては安心できるはずである。
また、最初から売却益狙いもどうだろうと全古協理事長の大熊氏。空き家を改修、きちんと入居者がつけば物件の価値も上がるため、結果として売却益を得ることはあり得るとしても、最初からキャピタルゲイン狙いは疑問だという。
「最初から売却益を狙うことはギャンブルに近く、全古協の本旨であるリスクを避けて資産形成という本旨に反するのではないかと考えています」。
ちなみに出口戦略としては全古協内でのオーナーチェンジ(売却)もあり得る。
過去15件の実績があり、1件を除いて売却されている。全古協では投資に関心のある約7000人にメルマガを出しているが、そこで営業ができ、かつどのような工事が行われたかが明確で、入居者の情報も多いため、安心して取引できるそうだ。
とはいえ、利回りは決して低くはない。現在、首都圏のアパート、マンション一棟ものの利回りが平均で7~8%となっていることを考えると、地域によっては12~15%という数字は十分にうれしいはずだ。
自分でDIYしたい人には不向き
古い一戸建てを利用した投資では自分でDIYすることで経費を抑えて利回りを高くする方法がある。そのやり方を考えている人にも全古協は向いていない。全古協では改修は基本古家再生士がやることになっているのだ。それには理由がある。
安全性の問題だ。建築の知識があり、加えてDIYの技術、経験があるならいいだろうが、コストを下げたいためだけにDIYをしようと考える人の中には耐震性など住む人の安全に関わる点に配慮が至らないケースも見受けられる。
全古協では空き家を利用しながらも質の高い住宅を提供しようと考えており、そうした物件はポリシーに反する。
住宅は生活の場であり、安全はすべての基本。オーナーには安全な住まいを提供する必要があるのだ。また、安全性を無視したリフォームで入居者に不測の事態が生じた場合、責任を問われるのは所有者でもある。
もうひとつ、全古協の仕組みそのものが工務店をベースにしていることも覚えておきたいところ。空き家が流通しない理由のひとつに価格が安いために仲介手数料も安く、そのために不動産会社が扱いたがらないことが挙げられる。
ところが全古協の仕組みでは工務店を中心にした古家再生士が不動産の知識を学び、相場、利回りを提示した上で物件を案内してくれる。これまで手数料の安さから空き家の情報を積極的に扱わなかった不動産会社は自分たちが手数料を売り手、買い手双方からもらえることもあるため、情報を出すようになっている。
つまり、古家再生士は仲介手数料ではなく、改修費で仕事をしている。そこで情報だけはください、改修は自分でやりますというのでは全古協の仕組みそのものが破綻する。
全古協の仕組みは空き家を処分できる所有者、空き家再生が仕事になる工務店、購入した空き家で収益を上げられる投資家、これまで少なかった一戸建てを借りられる入居者の四方、場合によっては収益にならなかった空き家情報が収益になるようになった不動産会社、空き家が減る地域など、関わる人全員にメリットのあるように考えられている。
だからうまく行っているとも言えるわけで、そこで自分だけが得したいと考えるのであれば、自分で仕組みを作ることを考えたほうが良いのではなかろうか。
誰がやっても失敗はしないが、ベテランには物足りないことも
もうひとつ、空き家も含め、不動産投資の経験値の高い人にとっても全古協は向いていないことが多い。というのは全古協のやり方は誰がやっても失敗しないよう、再現性が高く、全体最適になるように考えられている。ところが、経験値が高く、自分なりのやり方がある人にとっては、そこが物足りなく感じることがあるのだと大熊氏。
また、空き家を買えるのは古家再生投資プランナーになるためには講習を受け、かつレポートを提出する必要があるが、すでに知識がある、教えてもらう必要はないと考える人には無駄な時間、出費に思えるかもしれない。
その点から考えると、これから始めて不動産投資をする、ある程度の自己資金はあり、それを使って安全、堅実な投資をしたい、長期保有でコツコツと資産を形成していきたいと考える人に向いた投資といえそうである。
本業があっても複数棟購入、経営が可能
その意味で好例と思えるのが最近、金沢、八王子、船橋で3軒の空き家を購入したKさん。首都圏で自営業を営むKさんはコロナには影響を受けなかったものの、今後、何かあった時のためには本業以外に収益があったほうが良いのではないかと不動産投資を検討し始め、何冊かの本を読んだ。
そこで共感したのが全古協の大熊氏が書いた「あなたの会社の新収入源 空き家・古家不動産投資で利益をつくる」。中小企業経営者という立場、無理のない金額で始められる手法に「これだ!」と思い、仕事の合間に古家再生投資プランナーの資格を取得した。
2022年3月からツアーに参加するようになり、最初は何を質問していいか分からない状態だったものの、徐々に見る目が磨かれ、7月までに3物件を取得。現在は改装を待っている状況だ。
初心者から一気に3軒購入に至ったのは本業との兼ね合い。秋から年末が忙しい仕事のため、この時期に購入しないと次に時間が空くのは来年になる。そこでその前に購入、改修は古家再生士にお任せするというやり方にした。
初めてでも信頼できる人達がお任せできるなら立て続けの投資も可能というわけである。本業の他にもうひとつの収益の柱をと考えている人ならまさにうってつけだろう。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))