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都心小規模ビル内の都市鉱山、付置義務住宅。オーナー住戸大化けの可能性を聞く

賃貸経営/技あり・話題の賃貸物件 ニュース

2024/04/22 配信

かつて東京都心部で人口減少が顕著だった時期に建築物を建てた場合には住宅などの付置が一部の自治体で義務づけられた。

当時は都心に建てられるのはオフィス中心で、都心自治体は定住人口確保に苦慮していたのである。その当時、ある意味仕方なく建てられた住宅が今、お宝になりつつある。

付置義務は駐車場だけにあらず

付置義務というと駐車場と思う人もいるだろう。

たとえば東京都の駐車場整備地区等では特定用途の部分の床面積及び非特定用途の部分の床面積の3/4の合計が1,500㎡を超える建物を作る場合、あるいはその周辺地区、自動車ふくそう地区の場合には特定用途の部分の床面積が20000㎡を超える建物の場合には250㎡ごとに一台などといった算定方法(地区、23区内か都下かなどで異なる)で台数を算出、それだけの駐車場を用意しなくてはいけないことになっている。

それと同じように主に都心部で建築物を建てる場合にはある一定の面積の住宅や生活利便施設などを付置することが厳しく言われてた時代、地区がある。

現時点でもたとえば東京都港区では延べ面積(地上部分の建築面積)が3000㎡を超える開発事業の場合には住宅の付置、公共施設の整備などが求められる。

その背景には今ではあまり信じられないだろうが、東京都心部の定住人口が減少していた時期がある。下の図は中央区の人口の推移だが、中央区では1953年の17万2183人をピークにその後人口減少が進み、1997年には7万人台まで減少している。

中央区の人口推移。今は都心一局集中と言われているが、減っていた時期もあるのだ
中央区の人口推移。今は都心一局集中と言われているが、減っていた時期もあるのだ

以降は人口は増加に転じ、2024年4月1日現在では18万1845人。2023年1月に70年ぶりに最大人口を更新して以来、過去最高を更新し続けている。

都心部の人口減少時代に作られた付置義務というルール

さて、本題に戻ると東京都心部の一部自治体ではこの人口減少期、1985年以降、定住人口増加策のひとつとしてある一定規模のオフィスなどを建築した際に住宅などを付置するという行政指導を行ってきた。

具体的にいうと中央区、港区、文京区、台東区、新宿区で導入され、うち、中央区では2007年、新宿区では2008年に廃止されている。また、文京区の現在の宅地開発並びに中高層建築物等の建設に関する指導要綱の協議内容には住宅の付置は盛り込まれていない。

一方、墨田区では一部地区の地区計画の中に盛り込むという形で今も運用されている。

これはかつて都心部に建設するといえばオフィスだった時代から、都心でもマンションを建てる時代へという変化による。わざわざ付置義務を付さずとも、低層階に商業、オフィス、上階に住宅という建物が増え、都心居住が当たり前になってきたからである。

当時の付置義務住宅はいわば都市鉱山

というのが付置義務住宅の変遷なのだが、ここで注目したいのはかつて仕方がないからと作られてきた付置義務住宅。

西麻布のオフィスで話を伺った。このオフィス自体も古いビルを再生したもので、何度かメディアでも取り上げられている
西麻布のオフィスで話を伺った。このオフィス自体も古いビルを再生したもので、何度かメディアでも取り上げられている

「この当時は都心の居住人口が少なく、そもそも都心に住むという発想がない時代。当然立地を生かしたハイグレード賃貸住宅を作るという考えもありません。

また、この時代は高度経済成長期期の名残でとにかくたくさん作ることが優先されており、かつ義務として作らなければならない住宅ということで、あまり住みやすさにまで意識が行かなかったのではないかと。

そのため、今と比べると明らかに低品質な物件が少なからず供給されていました」と語るのは都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)の中小ビルに特化した「賃貸運営(プロパティマネジメント)」と「空室対策(リーシングマネジメント)」、築古ビル再生、サブリースなどの専門会社・テナワンの石田竜一さん。

そのため、この付置義務住宅の中には仕方がないから作ったと言わんばかりの住戸も少なからず含まれている。

付置義務住宅がよく作られていた時代の賃貸住宅の紹介記事を見ると形ばかりの1口の電熱コンロを設置しただけのキッチンや狭い3点ユニットの部屋もあり、今の時代に選ばれる部屋とは思えない。

住宅として作ってはあるものの、実際にはオフィスとして貸されている住戸も多いという噂さえあった。

2010年の税制改正で都心ペンシルビルが変わった

もうひとつ、ビルなどの中小建築物内の住戸については平成22年度(2010年)の税制改正の影響が大きいと石田さん。

相続時には小規模宅地等の特例が使えると相続税を大幅に減額できることがある。

これは亡くなった人が住んでいた土地や事業を営んでいた土地を相続した時に適用されるもので、土地部分330㎡までの評価額が減額されるというもの。居住していた場合であれば特定居住用宅地等として80%減額されるので効果は大きい。

改正前までは5階建てビルの5階に所有者が居住、以下の階を貸していた場合でも敷地全体が特定居住用宅地等に該当するとされていた。ところが、2010年4月1日以降はそれができなくなった。貸している分の面積については同じ減額措置でも貸付事業用宅地等に該当するものとして50%の減額になったのである。

それまでは全体が80%減額されていたものが、改正後は所有者居住、賃貸部分を面積で按分することになったわけで、上述の例でいえば5分の1だけが80%減額で、残りの5分の4は50%の減額ということになる。評価額1憶円として計算してみると改正前の評価額は2000万円、改正後は4400万円となる。大きな差だ。

「改正前までは所有ビル内にオーナーが居住することが特に都心部のペンシルビルの相続税対策として非常に有効だったのですが、それができなくなった。それならわざわざビル内に住まなくてもという考える人が増えたのです」。

そうした経緯から都心部のビル、特に小規模ビル内には今なら都心立地として高い賃料を設定できる空間が眠っていると石田さん。

「私はよく都市鉱山と言っています。なかなか市場に出てこないこともあって知られていませんが、今の時代にフィットするリノベーションをすれば立地は抜群に良いことが多いので、かけた費用を回収できるだけの効果はあるはずです」。

相続で放置されがちなオーナー住戸、付置義務住宅

石田さん自身もいくつか、そうした物件を手掛けてきた。たとえば都心の人気エリアにあるビルではずっと階下の貸室の管理を手掛けてきたが、最上階に現所有者の先代が居住していた住戸があった。

「長年の間に不用品や廃棄物の置き場になってしまっており、オーナーが見せたがらず、こんな部屋を貸せるわけがないとなかなか見せてもらえなかったのですが、しつこく見せて欲しいと言い続け、見せていただいたのですが、立地が良いのはもちろん、最上階で人気も出そう。

そこで残置物の処分もこちらでやり、オーナーは何もしなくてはいいからということで借りることにし、現在は貸している賃料との差額で、当初のリノベ費用を3年程度で回収できるほどの賃料で貸せています」。

ゴミの処分代からリノベーションまでをやっても十分にペイするような物件だったというわけである。

当時と比べれば都心居住はいまや当たり前。当たり前どころか都心に住みたい人が増えており、ニーズに合わせたリノベーションさえできれば高値で貸せる。

特にペントハウスであれば人気が出るのは必至。数が少ない上に、他住戸からの独立感がなによりである。石田さんは同様に屋上も都市鉱山のひとつという。

「弊社があるビルの屋上は入居者に開放されていますが、コロナ時にどれだけ利用されたか。他で手掛ける物件でも屋上が利用できるというだけで、実際には喫煙スペースに使われている程度でもぐんと注目度が上がります」。

ゴミ屋敷の可能性はあるが、価値は高い

ただし、問題もある。ひとつは市場に出てきにくいこと。また、ゴミ屋敷になっている可能性もかなり高い。親世代が居住、子世代は住まないままに相続、階下だけを運用しているケースが少なくないのだ。

実務的には複合用途の建物は管理が面倒という点もある。店舗、オフィス、住宅ではたとえばゴミの出方がそれぞれで違うと考えれば分かりやすいだろう。だが、その点については現在複合施設が増えていることを考えるとそこから学べるものはあるはず。また、スマートキーの導入などで区画を仕切るやり方も進化している。使えないはずはないだろう。

幸い、これからは年間死亡数が大幅に増える大相続時代。相続に伴って市場に出てくる物件も増えるはずなので、こうした物件があることを意識しておきたいところだ。

ちなみに本題とは異なるが、石田さんと話をしていて面白かったのがバブル後に地上げされた都心に隣接した中央区の中でも下町風情も残るエリアの現状。

元々細街路、裏路地が多く、所有権が複雑だった地域もあったため、地上げがうまくいかず、開発が進む現在も歯抜けの駐車場になった土地が今も残る。外から見ているとかなり開発が進んでいるようだが、バブル時に札束を積んでの交渉もうまくいかなかった地域は今後どうなるか。

一方でこうしたエリア内には古い投資用マンションが点在しているが、そうした物件の区分地上げが進行。古いワンルームマンションが億ションに化けるケースが出ているという。区分地上げでは建物内の住戸取得から建替えまでには時間がかかるが、うまくいけばこちらも化ける。

長い目で収益を考える人ならいろいろ、狙い目はありそうだ。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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