今や、単身世帯が「標準世帯」
日本では長らく標準世帯とは夫婦と子どもで構成される世帯とされてきた。ところが、2020年の国勢調査ではその「標準世帯」は全体の25%にしか過ぎない存在に。これではとても標準世帯とは言えない。
代わって増えてきたのが単身世帯である。1980年時点では20%弱だった単身世帯は徐々に増加、2020年には38%とほぼ倍増に近い伸びとなっている。
その目で不動産を見ると賃貸住宅では単身者向けが多いものの、分譲となると途端に単身者向けが少なくなることに気づく。
集合住宅、つまりマンションではワンルーム、1LDKなどと単身者向けと思われる間取りもあるものの、それが一戸建てとなると極端に少なくなるのが現実だ。
単身世帯をターゲットにするハウスメーカーなどが登場
だが、シングルに向けた一戸建て分譲への流れは確実に出始めている。たとえばセキスイハイムでは「一人暮らし×マイホームBOOK」なるカタログを作り、無料プレゼントをしている。
ハウスメーカーは数年ほど前からシニア層の、子どもが巣立った後の夫婦を対象にコンパクトな住宅のニーズを想定、平屋やコンパクトな住宅をラインナップに入れ始めてきている。
平屋で検索をかけると大手ハウスメーカーの住宅がいくつも出てくる。それが夫婦2人暮らしから単身者に広がるのは人口動態を考えると自然なことだろう。
2024年4月には「〝シングルマイホーム〟という新しい住まい方のすすめ 1人ときどき2人の家」(現代書林)という書籍も発売された。著者は実際に16.5坪、899万円というシングル向けの一戸建てプランを設計、販売している建築士。シングルと言いながら、二人暮らしもできるサイズの住宅である。
また、個人的にも周辺には単身で一戸建てを建てた、買ったという人が少なからずいる。男性のみならず、女性でも、である。
そう考えると、まだ、それほど認知はされていないものの、単身で一戸建てを買いたい、建てたいと考えている人は確実におり、今後、さらに一人暮らしが増えるとニーズも高まっていく可能性があると考えられる。
狭小戸建てを単身者向き分譲住宅に
そんなことを考えながら大阪府八尾市で現在販売されている狭小一戸建てを単身者向けにリノベーションした物件を見学してきた。
建物は敷地面積57.50㎡、建築面積は31.92㎡で従前の間取りは1階に玄関、水回りにダイニングキッチンと1部屋、2階に2部屋というもの。以前は母と息子が居住しており、それを競売でオルガワークス株式会社が入手した。
内覧には11社が参加したものの、入札したのは3社だけ。しかも、他2社は建替え前提での入札だった。そこで同社の細川裕之さんはこうした狭小一戸建ての難しさ、可能性に気づいたという。普通にこの規模の一戸建てを売るのは難しい、だから買おうとする不動産会社が少ないのである。
実際、大阪府八尾市の新築一戸建てを面積で検索してみると一番狭いもので建物面積は70㎡。複数棟建てられている現場なので価格は棟ごとに違うが4000万円から5500万円ほどとなっている。30㎡はその半分と考えると、従来のやり方では非常に売りにくいであろうことが分かる。
だとしたら対象を変え、売り方を変えるしかない。そこで、細川さんがそもそも単身向けの分譲戸建てがないことに疑問を抱いていたこともあり、ここでは単身にターゲットを絞って改装が行われた。
小規模でもファミリー向け物件同等の価格設定
完成した間取りは玄関を開けると土間があり、その先に6畳のダイニングキッチン、引き戸を挟んでダイニングと同じ広さのバスルーム、2階に2部屋というもの。一般的な分譲一戸建てではまずありえないような間取りである。
間取りだけではない、2階は寝室として想定されている部屋が紫、仕事場として想定されている部屋が緑で、これもたぶん、一般的な分譲住宅では珍しい。
それ以外にも押入れスペースの木部だけを残した、使い方は使う人次第という空間も他では見ないところ。非常にこだわった、ここにしかない家なのである。
だからだろう、内覧会ではこれをどう使うかについて来場者が喧々囂々、意見を交わす場面が見られた。また、この部屋を作るにあたって詳細に作り込んだペルソナを「これはまさに自分だ」という人が現れるなど、非常に好評な滑り出しを見せている。
気になるのは価格。土地代に加えて建物に手を入れる予算を2700~2800万円として全体を3500~3600万円としたかったそうだが、工事をしている間に材料費等の高騰があり、最終的には4000万円台前半に落ち着いた。
もちろん、その分、断熱、耐震など古い物件の弱点にはすべて手が入っており、新築並みの性能がある住宅となっている。
さて、この価格を聞いて、あれ?と思った人はいないだろうか。ファミリー向けに建てられた70㎡ほどの建売住宅と遜色ない額なのである。ファミリータイプが作れない規模の土地、改修できないサイズの家を単身向けに改装した結果がほぼ同じくらいの額の住宅になっているのである。
もちろん、これが売れなければ話にならないわけだが、年収、ライフスタイルなどの条件的には当初に設定したペルソナに近い人達が見学に来ており、あとはこれだ!と決めてくれる人がいればという状況。多少時間はかかったとしても売れる読みはあると細川さん。
築古、狭小一戸建て活用に建築基準法改正の暗雲
狭小で築年数の古い戸建て、そのうちでも特に再建築不可とされるような物件はこれまではリノベーションしてシェアハウスや賃貸住宅に活用される例が多かった。安価に入手、活用でき、収益も高めと人気があったが、残念ながら2025年の建築基準法の改正でこうした活用は難しくなる。
現行法では木造2階建てと木造平屋建て等の建物はいわゆる4号建築物となっており、建築確認申請なしに大幅なリフォーム、フルスケルトンリフォームが可能だ。ところが建築基準法改正で木造2階建て、延べ床面積200㎡超の木造平屋建ては新2号建築物となり、すべての地域で建築確認、検査が必要となる。新築時、建替え時はもちろん、大規模な修繕なども対象となる。
また、新2号建築物では建築確認申請時に構造、省エネ関連図書の提出も必要になる。つまり、これまでのように木造2階建て、規模のある木造平屋を収益物件とするために安価に改修するという手は取りにくくなるのである。
ちなみに木造平屋建てで200㎡以下のものは新3号建築物となり、こちらはこれまでどおり審査省略制度の対象となる。だが、実際問題としてコンパクトな木造平屋がどれほど市場にあるか。そう考えると、築古狭小戸建て、特に再建築不可物件を利用したこれまでのやり方は確実にやりにくくなる。
きちんと手を入れて再販すれば改修費も回収可能
だが、こうした戸建てをきちんと改修、単身者用として分譲するという形で考えたらどうだろう。実際、今でも取得した狭小一戸建てを改修、しばらくの間は賃貸物件として運用、数年後に一般消費者向けに分譲するというやり方を続けている人もいる。投資家に売るよりも一般消費者に売る方が高値で売却しやすく、場合によっては投資家に売るよりも1.2倍、1.3倍ほど高く売れることもあるともいう。
賃貸で貸すのではなく、単身者用戸建てとして分譲する、一般消費者に売ると考えると八尾市の物件のようにきちんと断熱、耐震改修などを行い、性能を高くしておくことは逆に売りになる。
改修に費用をかけても、その分、高く売れれば良いのである。建築基準法改正は省エネ対策、防災対策を進めたいと考える国の施策に則ったものと考えられるが、それにきちんと乗っていればそれが逆に売りになるのである。
ただ、その手で空き家を活用するためにはどういうものが誰に売れるかをきちんと想定、売れる商品を作らなくてはいけない。ごく当たり前のただ新しく改装しただけの一戸建てではダメなことは間違いない。
その意味では八尾市の物件のように、どれだけニーズを想定、作り込めるかが大事ということになってくるのではなかろうか。