■不動産マーケットを取り巻く環境
3月末の年度末に差し掛かり不動産を取り巻く環境にも動きが出てきています。特に気になるのは大きく2点。「建築資材高騰・人件費上昇による建設会社・工務店の倒産増」。そして、「金利上昇」です。
建設会社・工務店の倒産増については、昨年5月に書いたコラム「ユービーエムは氷山の一角。建築会社の倒産増加。今年は更に注意が必要な理由」の流れがそのまま予想通り続いていますので参照願います。
金利の上昇については、長期金利のイールドカーブコントロールは既に昨年の日本銀行金融政策決定会合で形骸化しつつあり、短期金利のマイナス金利政策も今年には解除される見込みです。
このような状況下、不動産投資環境は、どのように変化していくのでしょうか。
東京都心物件は、世界中の機関投資家やファンド・富裕層、そして相続税対策など中小個人投資家とは別のロジックや目的でマーケットが形成されていますので、それ以外で考えていきます。
■中小企業融資への警戒、金融行政の動き
下記は、2024年1月に発表された日銀の主要銀行貸出動向アンケート調査のデータで、西暦2000年からの貸出運営スタンスの推移を表したグラフです。
銀行の融資態度を示す指数が2009年以来、約14年ぶりの低水準となっています。
2020年は、新型コロナの影響を受けた中小企業を対象に、実質無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」で盛り上がりましたが、直近は銀行の融資態度を示す指数が2009年以来、約15年ぶりの低水準となっています。
昨年からゼロゼロ融資の返済が本格化していますが、インフレによる仕入れ価格の高騰・人手不足による人件費の上昇で採算・資金繰りが悪化している企業が多く、中小企業の倒産が増加傾向にあり、銀行が融資にさらに慎重になっています。
ここもとの倒産増加を受けて金融庁も動き出しています。粉飾決算などの理由で倒産する企業が増えているため、融資審査に緩みがないか、融資に関するガバナンス、信用リスク管理体制について、立ち入り検査も活用しながら検証するようです。
金融庁が融資規律の緩みを警戒する背景には、金利が上昇傾向にあることも理由にあげられます。金利が上昇すれば、元本返済のみならず、利払いもできない融資先が増え、低金利下では目立たなかった不良債権問題が浮かび上がる恐れがあります。
■審査金利によるストレスチェック
銀行の不動産融資の金利は変動と固定があります。変動金利は短期プライムレートやTIBORが基準金利なることが多いですが、この大本になるのが日銀の政策金利です。現在、日銀当座預金の一部に―0.1%のマイナス金利を適用しています。
今年、政策金利を現状の-0.1%から0%程度まで引き上げると見込まれていますが、現時点での物価動向や日銀幹部からの発言からは、当面その水準を維持すると予測されます。
固定金利水準の大本になる長期国債の金利も米国のように急激に上がる気配はありません。実際の金利水準としては、融資の審査にさほど影響がないようにも思えます。
しかし、銀行は融資の審査をする時に、変動金利の場合、審査時点の実際の金利ではなく、いわゆる「審査金利」によって問題無く返済し続けることができるか検討することがあります。
「審査金利」とは通称で、銀行によって呼び方も違い、設定されている金利水準も銀行によってまちまちです。マイナス金利政策が続いている中、現在は審査金利を3~4%に設定していることが多いようです。
不動産融資は融資期間が30年を超えることが珍しくありません。その点からは、決して高過ぎるということないでしょう。ただ、今年から来年にかけて懸念されるのは、実際の金利の上昇以上に審査金利が上昇することです。
日本の不動産融資の7割は変動金利が適用されているとも言われています。今年はともかく来年以降、中期的に変動金利の水準が上昇する可能性はあります。
それに備えて銀行自身の判断、または金融庁の指導により審査金利が大幅に上昇する可能性は捨てきれません。
審査金利が高い銀行はそれに比例して、貸出可能額は小さくなります。
個人投資家による不動産投資に対する融資は、中小企業向け融資にカテゴライズされることが多いです。
銀行の中小企業向け融資運営スタンスの慎重化、そして審査金利の上昇による不動産融資審査の厳格化により不動産マーケットに投入される資金が減り、一部では不動産価格が下落するかもしれません。
■値下がりしそうな不動産
では上記事由の影響により値下がりしそうな不動産は、どのようなカテゴリーのものでしょうか。まず冒頭に書いた通り、東京都心物件は中小企業向け融資動向とは別のロジックで動いていますので、影響は少ないでしょう。
あと、地方郊外の築古戸建てや築古アパートなども自己資金比率が高かったり、融資も公的機関や審査金利を使用していなかったりする中小金融機関を使うことが多いので影響は少ないでしょう。
影響が大きいのは、その間に位置する物件です。特に新築や築浅の融資期間が長く取れそうな物件は、金利の負の複利効果により影響が大きいかもしれません。