30~40代で不動産投資を始めたサラリーマンの体験談はよく聞くが、50代以上で不動産投資を始めた人はどのような理由で投資を開始し、物件を購入したのだろうか。
関西地方に暮らす60代サラリーマンのTonさんは、2013年に50代で不動産投資を開始した。現在、関西地方を中心に戸建て7戸 、ファミリータイプの区分マンション3戸、アパート2棟(10戸) を所有し、年間家賃収入は1000万円を超えるという。
数年後の定年に向け、さらに規模を拡大していきたいと語るTonさんの購入体験談を紹介したい。
ファミリー向け中古分譲マンションを890万円で購入
指値せず売主に50万円のリフォーム依頼
Tonさんが不動産投資を始めたきっかけは、「人生そんなに甘くない」と感じた住宅の買い替え体験にあった。
バブル期に買った自宅用マンションの買い替えに失敗し、塾代や大学の学費など3人の子どもの教育費をアルバイトで補填する日々を送っていた。
「給料が現状維持ならまだマシだったのですが、上がるどころか下がりました。会社にすがる人生にピリオドを打ちたいけれど、何をすればよいのか……と、考えていたときに、ロバート・キヨサキさんの著書に出会いました。
ただ、不動産投資をするにも資金がないわけです。FPのセミナーに参加したところ、個人年金は利息の受け取りは皆無に等しいと理解し、個人年金を解約し不動産投資を始めました」(Tonさん)
内見を繰り返した末、2013年Tonさんが53歳のときに関西地方のあるエリアに投資目的でファミリー用の中古分譲マンションを購入する。
このとき購入した物件は長期保有しており、大家仲間からは「最初に買った物件が一番良かった」と言われるほど、まずまずの買い物ができたという。
投資は未経験であったが、Tonさんは生活者目線に立ったある視点で物件選びをしていた。
「長く住んでもらえるようファミリー物件で探していました。ネット検索する中で気づいたのは、私が探していたエリアではエレベーターもオートロックもなく、入居者が自主管理をする古いマンションや公団が多かったのです。
そうしたゴミ置き場の掃除や水撒き当番などを煩わしいと思う人もいるでしょうから、エレベーターもオートロックもあって、管理人のいる分譲マンション賃貸なら需要があると考え、購入しました」(Tonさん)
物件の売主は業者で、Tonさんは指値をしない代わりに、ある交渉をしていた。
「値引きしてとは言わないので、リフォームをお願いできませんかと聞いてみました。結局、シャンプードレッサーや、給湯器の交換、壁紙の張り替えなど50万円程度応じてくれました。
業者側にしてみれば50万円以下の原価でできたのでしょうし、値引きより応じやすかったのだろうと思います」(Tonさん)
購入したのは、3LDKの60㎡台の中古分譲マンションで物件価格は890万円。駅から15分ほど歩くが、近くには保育園や小学校、スーパーなどもあり、子育てのしやすい環境だという。
家賃は8万円台前半で、別途管理費や修繕積立金の支払いはあるが11.1%の利回りが出ている。
購入の頭金には個人年金を解約した返戻金の一部を充て、金融機関から2%の金利で融資を引いた。Tonさんによれば、現在は物件価格が1000万円まで値上がりしているそうだ。
購入後、すぐに夫婦での入居が決まり、現在まで長期で住んでくれており、Tonさんにとって手のかからない優良物件だという。Tonさんの入居者目線での視点に加え、不動産投資のプレーヤーが少ない時代だったからこそ、このような物件が購入できたといえる。
住まい選びに権限ある女性目線を意識
コンセント類や網戸はすべて新品にDIY
1戸目の購入はまずまずだったTonさんだが、売主や業者と接する中で、「業者目線での話が多いが、他の大家さんはどう経営しているのだろう」と、他の投資家がどう考えるかが気になり始めたのだという。
思いは空回りしてしまい、他の投資家と交流する場に行くはずが、不動産会社の無料セミナーに行き、2015年に関西、2017年に関東で1Kの区分2戸を購入してしまう。
だが、長期保有したところで「実需はない」とワンルーム投資に見切りを付け、両方とも3年で売却。共に約200万の売却益も出たところで軌道修正し、2018年からはマンション相場が上がってきたことから築古戸建ての購入にシフトしている。
複数の大家の会に参加して投資家仲間と交流し、特に戸建て投資のノウハウを勉強できたことが大きいという。
Tonさんがこれまでに買った戸建ては、接道がない、敷地が道路に2m以上接していないなどの理由で再建築不可となっている物件だ。所属する大家の会のメンバーからの紹介で購入にいたった。
築51年の物件を7万円で購入し、ガス給湯器の交換やアンペア不足のため配電盤の工事を業者に依頼。壁紙の塗装などはTonさんが行うことで60万円ほどでリフォームし、3万9000円で貸したのが始まりという。この1号物件の利回りは50%を超えているそうだ。
Tonさんは築古戸建てにおいても利用者目線に立ち、DIYでひと手間を加えている。
第二種電気工事士の資格を保有するTonさんは、購入した戸建てのすべてのコンセントカバーや電気のスイッチの取り換えを行っている。
「住宅選びの決定権は女性にあることが多いですので、汚いものを見せないよう、そこはこだわって一切を取り換えています。
工事は業者の方に依頼していますが、業者の方が見落としがちな箇所や自分でできることはDIYしています。コンセントカバーやスイッチを新品に取り替えや、網戸の張り替えなどは自分で行うことでコスト削減できますので、土日に行っています」(Tonさん)
また、浴槽の湯アカについてもTonさんは、浴槽用の専門塗料をネットで購入し、1日かけハケで2度塗りし、見栄えをよくした。
ほかにも、温水洗浄便座を分解して掃除し、内見時に「除菌済み」の紙を貼っておくなど、自ら汗を流し、清潔に見える工夫をしている。
「こうした作業をする分、入居付けは遅くなりますので機会損失していると思います。ただ、時間はかかっても2万円高い家賃で入ってもらえたら利回り10%だとして売却時に240万円高く売れますので、自分で行えばコスト減になるちょっとした作業にこだわってDIYしています」(Tonさん)
さすがにコンセントカバーや網戸が新品だから入居しましたと、言ってくれた入居者はいないが、仲介業者が「家賃7万5000円がいいところ」と言っていた築45年の7DK+DKの戸建ては、募集から1か月で家賃9万5000円2世帯での入居が決まった。
また、前出の浴槽の汚れを塗料で目立たなくした築50年の戸建ても仲介業者は「家賃7万円はしんどいです」と言っていたが、Tonさんの希望で家賃8万5000円で募集に出したところ1か月で入居が決まったという。
「浴槽が狭かったことがあり、見た目だけでもキレイにしないと思って、湯アカが目立たなくなるよう塗料を塗りました。
入居されたのはファミリーですが、奥さんが内見して全体的に気に入ってくれたと聞いています。さすがに以前のままだと、相場より2万円ほど高い家賃では入居してくれなかったと思います。駐車場がない物件のため、仲介さんが近くに駐車場を探してくれました」(Tonさん)
現在、Tonさんや家族名義や法人名義などで戸建て7戸 、ファミリータイプの区分マンション3戸、アパート2棟(10戸) を所有し、年間家賃収入は1000万超という。
あと数年で定年を迎えるTonさんに今後について尋ねると、
「個人ですと承継に相続税がかかってきますので、法人での購入を増やしていき子供たちに引き継いでもらえたらと思っています。このところ1棟ものは金額が高くて買えず、戸建てもプレーヤーが増えて金額が上がってきてはいますが、物件探しに力を入れ規模を拡大していきたいです」(Tonさん)
執筆:
(すどうみき)