関西地方出身のSさんが大家デビューを果たしたのは、2017年3月のこと。大学の卒業式を終えたばかりの22歳だった。
前編では不動産投資はしてみたいがお金のなかったSさんが手術を伴う大ケガを負い、そのときの保険金100万円を元手に戸建てを購入した話を紹介した。
このケガの功名ともいえるミラクルに続いて、購入物件の残置物から聖徳太子が絵柄の旧1万円札が発見される2度目のミラクルを引き寄せる。思いがけず手にした旧札で残置物代を支払ったSさん。
そしてまたまた起きた3度目のミラクル! 不動産投資で増えたお金には一切手をつけず、再投資によるその後の物件拡大。DIYによる物件再生についても紹介していく。
隣地のおばちゃんに売却、90万円任売戸建てが380万円に化けた
2度あることは3度あるというが、3度目のミラクルは購入した戸建ての隣地の女性がもたらした。
「“私が買おうと思ってたのに!”。僕がこの戸建てを買ったと知ると隣地のおばちゃんから度々話しをされたんです。“この物件のせいで日当たりが悪いので相続になったら私が買って潰して駐車場にしたいと思っていた”と。色々考えて、それなら欲しいと言ってくれているこのおばちゃんに買ってもらおうと方針を転換しました」
結局、不動産会社を間に挟んで隣地の女性と380万円契約が成立。Sさんが保険金を元手に90万円で買った戸建ては380万円に化けた。
「ラッキーだったと思います。ただ個人で買った戸建てですから購入から3か月で売却することになり、短期譲渡(※1)の税金がかかってしまいました。僕自身は結構ボロボロの物件だったので、購入から融資を引いてのリフォーム、入居付けまで1から100まで学べると考えていた戸建てでした」
(※1)短期譲渡とはーー売却する不動産の所有期間が長期か短期かによって、課税される所得税や住民税などの税率が変わってくる。売却した不動産の所有期間がその年の1月1日現在で5年を超える場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」に区分される。なお、法人で購入した場合は短期、長期の区別がない。
短期譲渡の場合は売却時の譲渡所得(売却益)に39%の税率がかかるため(加えて復興特別所得税2.1%も納付)、380万円で戸建てを売却したSさんの場合は250万円ほどの現金が手元に残る計算となった。
1戸目を売却した1か月後には地元の不動産会社からの紹介で2戸目の戸建てを購入。1戸目の戸建ての売却益を元手に200万円で買った。
購入したのは住宅街にある長屋2戸のうちの1戸で接道あり。再建築不可ではないことから、新たに戸建てを担保に金融機関から200万円フルローンでの融資を引くことができた。金利は3%ほどだった。
このように現金と金融機関からの融資で1年に1戸ぐらいのペースで戸建てを増やし、2戸を売却。現在は戸建て1戸、長屋1戸、文化住宅1棟(3戸1)を所有する。3戸1の文化住宅はリフォームの融資がつかず2戸が空室だが(1戸入居で利回り24%)、稼働している3戸の家賃収入は月額13万5000円だという。
「いい物件があれば将来の資産形成のためにちょくちょく買っていますが、何歳までに逆算して物件を増やしそうとか、頑張るぞっていう感じはないんです。
家賃収入には手をつけず再投資に回すだけですし、自分の財布の中は増えていねぇなって。不動産投資をしているという感覚も正直ないんですよ。不動産を通じて色んな諸先輩方に出会えるのは面白いですし、不動産そのものへの興味はより深まっていて、趣味っていうか、もう生活の一部になっている感じです」
まとめると、Sさんが3度のミラクルを経て、わらしべ長者的手法で物件を増やした背景には以下の長所がプラスに働いたと考えられる。
1)器用なタイプで興味を持って不動産の勉強を始めると理解が早かった。
きっかけは不動産投資家の母が作ったが、受け身になることなく進んで築古戸建ての物件価格やリフォーム費用などのシミュレーションに取り組み、相場観を養った。
またSさんはあらゆる分野において飲み込みが早いタイプといえそうだ。
大学4年時に約2か月間、物件内見を繰り返したという不動産会社での修行も活きているのだろう。宅建のような不動産に関わる体系的な勉強をしたことはないそうだが、「再建築不可」「接道」「短期譲渡」などの用語をよどみなく話す。
手先も器用で購入物件のDIY作業においても先輩大家の物件の手伝いやYouTube動画の視聴を通じて作業の流れをつかみ、壁面のクロスや床の根太の張り替えをなどのDIYを要領よく1人でこなすことができた。
2)年上や初対面の人との距離の詰め方が上手だった。
20代のSさんにとって、不動産賃貸業を通じて関わる不動産業者や融資を依頼する金融機関の担当者、リフォームを行う業者、大家の会のメンバーなど多くは年上ばかりのはずだ。しかし、年上との会話は苦にはならないという。
「あんまり気を遣わずにって言ったら語弊があるんですけど、年上の方とフランクに話せるタイプではあると思います」
たとえば3戸目に買った戸建ては利回り15%超だが再建築不可の物件だった。リフォーム費用として300万円の融資を引いて修繕し、入居もつけたが将来の出口を考えると運営が厳しかった。結局、この戸建てはかつて修行していた不動産会社の社長経由で不動産ファンドが購入してくれた。
また極端な例では物件の内覧に行って怖いお兄さんに絡まれるも3時間後には仲良くなって先方から連絡先を渡されたり、5戸目に購入した3戸1の文化住宅では前所有者の親族で空室を自由に行き来する住人の女性と話し合い鍵を返却してもらったりといった猛獣遣いエピソードを数多く持つ。
3)利回り15%以上の物件を買うと決め、妥協せず購入した。
22歳で大家となり、現在28歳のSさんは、若さという時間を武器に持つ。そのため妥協はせず、利回り15%以上の物件があれば買うというスタンスだ。
「物件情報から利回りを計算し15%超えであれば、現地確認をした上で買い付けを入れています。利回り12~13%ぐらいの物件はたまにありますが、15%超というのはそれほど出てきませんので厳しめの購入基準だと思います。
スペックから考えて絶対に利回りがいいっていう物件を見つけたら自分にキャッシュがなくてもガツガツ行っています。僕がダメでも何十億ってやられている知り合いの投資家さんが結構いるので先輩方に話を回そうという気持ちでスピード感を持ってやっています」
そのため理想の物件を買えるよう、物件エリアの不動産会社はすべて訪問し、物件情報を得られる関係づくりをしている。
訪問時には名刺と自ら作成したA4サイズの物件チラシを持参。使用する物件写真には、ウエルカムボードやグリーンなどお金をかけないプチステージングを取り入れ、室内が映えるよう工夫をしている。
また、部屋の広さや窓や設備の位置などの把握に欠かせない間取り図については、無料アプリの「間取りTouch+」を使用して自ら作成している。
1戸目の戸建て購入から約6年。不動産投資を通じて縁が広がり、現在はスキー客の多い観光地で土地造成の仕事をしているSさん。
「ちょうど民泊向けの戸建ての決済を進めているところです。民泊運営のノウハウを持つ共同経営者と僕の戸建て再生の経験を掛け合わせて、共に事業を軌道に乗せていきたいです。僕自身は40歳ぐらいで不動産収入を軸に、喫茶店経営をしたいと考えています。無理はせず、利回り15%超の物件があれば着実に買っていく感じです」とSさんは気負うことなく今後について語った。
執筆:
(すどうみき)