2023年11月にNHKが放映した「遺品部屋」に関する番組を覚えていらっしゃるだろうか。番組では住んでいた人が亡くなったあと、相続されずに部屋と遺品が放置される部屋を「遺品部屋」と名づけ、全国で増え続ける遺品部屋のうちにはリゾート地の部屋が少なくないことを報じていた。
その一方でコロナ禍以降、地域によってはリゾート物件が人気を集め、流通が促進され、価格が上昇している例も少なくない。また、現在はリゾート物件で目立つとしても、今後、都市部でも遺品部屋が増えることは想像に難くない。
そこで、ここでは番組でも取材協力をしていたエンゼルグループの越後湯沢、伊豆エリアの方々に遺品部屋対策に加え、それぞれの地域での物件の動き、最近の変化などについても教えていただいた。
遺品部屋を発生させないための工夫は2つ
遺品部屋が生まれてしまう背景のひとつには独居居住者が亡くなった場合などに相続人が分からないという問題がある。
築年の古い物件の場合、居住者が誰か分からなくなっていることなどもあり、それを防ぐためには現在居住している人の緊急時の連絡先を把握しておくことが重要になってくる。
「相続人が分からず、空家になってしまう部屋も出始めていることから管理組合としては緊急時の連絡先をきちんと整理、名簿化を急いでいます」と湯沢で管理業務を担当する鈴木達久さん。
強制ではないものの、依頼すれば7~8割の人は提出してくれているという。「孤独死のことなどを考えると身元引受人となる家族の連絡先を知っておくことは今後は必須ではないかと思います」。
伊豆でマンション管理を担当する山口龍治さんも湯沢同様、連絡先の把握に力を入れているという。
「まだ相続拒否という例は出ていませんが、自然死される方は出てきています。相続人が分からず、相続財産管理人をたてて法的に解決しようとすると2年、3年と時間がかかるのはもちろん、費用も嵩むので、そうならないように予防として相続人その他連絡先を把握しておくことは必要になってきます。
今後、リゾート地はもちろん、それ以外の集合住宅の場合でも居住者の連絡先がきちんと把握されているかどうかは購入後の懸念を払拭するためにはポイントといえそうだ。
毅然とした滞納者対策が行われているかどうか
2つめのポイントは滞納者対策。一般的なマンションもそうだが、築年数が経ってくると管理費や修繕積立金などを滞納する人が増えてくる。
それもまた、遺品部屋を生むことになる。滞納分は相続した人が払うことになるが、滞納が多額に及んでいる、物件の価値以上になっているなどの場合にはそれを嫌って相続を放棄してしまうことが少なくないためである。
前出の鈴木さんによると滞納のあるマンションは少なくなく、管理組合としては書面、電話、内容証明送付、自宅訪問などなどあの手この手の督促を行い、それでも効果がなければ支払いを求めて訴訟を起こし、最後の手としては強制執行、競売などとなるという。
ただ、そこまでやりきれる管理組合、管理会社は少ない。督促まではするものの、それ以上に動こうとすると手間ヒマにコストがかかるからだ。だが、それをきちんとやらないと問題は解決しないと山口さん。
「弊社では弁護士に依頼する場合でも任せきりにはせず、一緒に取り組み、なるべく相続放棄されないようにします。このノウハウがあるのが弊社の強み。他社ではなかなかやりきれないようです。弊社では競売あるいは任意売買に持ち込み、自社あるいは管理組合が滞納のあった部屋を取得、売買するようにしています」。
湯沢で不動産の仲介にあたる角谷謙さんも長期滞納者の物件を競売で落札、一般の人に販売していくというなどといったルートが確立されており、「エンゼルは競売に強い」という点が広く認知されていることが管理受託に繋がっていると指摘。滞納が解消できるかどうかが管理会社の手腕というわけである。
滞納者との関係も問題解決のポイント
滞納に対しては法的な対策以外にも手がある。ひとつが滞納者に売却を勧めること。
「滞納者に対しては督促の電話連絡をしますが、その際に売却されたらどうですか、あるいは売却したくないというのであれば法的手続きになる前に分納するというやり方もご検討くださいなどと一方的にではなく、やりとりしながらできるだけ双方に良い道を模索するようにしています」と鈴木さん。
売却、滞納の分納以外では管理組合への物納を勧めるというやり方もある。
「法的に対処するとなると裁判所に予納金を納める必要があり、それが100万円、200万円とかかることも。その額に対して滞納も同額だったりする場合など、予納金を積むのもどうかという考え方もあり、その場合には管理組合の部屋を物納してもらう手があります。
物納した部屋は販売する、ゲストハウスとして使うなど、使い方は管理組合次第。また、物納すれば問題は解決すると安易に思われても困るので、管理組合に請求権は残しておくようにしています。これはアクティブに動ける理事会でないととれない手ですが、弁護士に依頼する前に物納で解決できるのが理想です」と山口さん。
こうしたやりとりができる関係が入居者、管理組合、管理会社の間にできていれば滞納で悩むことも少なくなり、遺品部屋の発生が防げるわけである。
民泊利用で物件価値を上げることも有効
相続放棄を防ぎ、遺品部屋にしないためにはそもそも、物件の価値を上げるという考え方もある。価値がないのに滞納があるから相続放棄されるわけであり、価値があれば多少の滞納分を払っても所有し続けようとなるからだ。
その成功事例のひとつがエンゼルリゾート湯沢。民泊を可能にし、180日の制限の中でフルに稼働させ、人の出入りを増やすことで価値が向上させたのである。
湯沢で民泊部門を担当している角谷匡邦さんは同様に民泊可能な物件を増やしていければと考えているが、ここにはまだハードルがある。
「理事会では民泊を可能にすることで価値の上昇を図ろうという話が出ることが増えているのですが、実際にやろうとなった時には設備投資にあてる費用をどうするかが問題になりますし、理事以外の所有者が嫌がることがあり、なかなか進展しません。自治体が許可したがらないということもあります」。
集合住宅メインの湯沢と違い、一戸建て物件も多い伊豆では宿泊転用がやりやすくなり、転売先が増えるなどプラスの効果が出てきている。
「伊豆で別荘を担当していますが、これまでだと転売先は伊豆に別荘を持ちたい人だけでした。ところが宿泊に転用できるならばと投資目的で別荘を買う人が登場。投資家に売却するという選択肢が出てきています。
それについてはインバウンドという大きなマーケットが復活。アジア圏の人を中心に宿泊者が増えているので、伊豆での別荘投資は今後、もっと注目されそうです」と伊豆を担当する大野悠さん。
買ってはいけないマンションは3つの項目でチェック
では、安心してリゾート物件を買うためにはどうすれば良いか。いくつか観点がある。ひとつは管理の状況だ。
「2022年からマンション管理適正化法に基づく管理計画認定制度、マンション管理業協会によるマンション管理適正評価制度がスタートしており、マンションの管理を点数で評価するようになりました。今後、それはひとつの目安になっていくかもしれません」と鈴木さん。
設備の更新状況もチェックポイントと山口さん。
「いいマンションはちゃんと流通に乗って売買されていますが、そうした物件はきちんと維持管理されており、設備も適宜更新されています。
バブル期に建てられた物件はプールやフィットネスなど複数の設備があり、設備投資もそれなり。そのうちには維持できなくなり、プールは止めましょう、お風呂も利用できる日数を減らすなどするところも出てきています」。
将来に向けて修繕積立金が潤沢に積まれてきているかどうかも見るべき点。戸数や施設の内容などによって必要な額、妥当な額は異なるため、一概にいくらあれば安心とは言いにくいが、とりあえず、億単位で用意されていれば一定の評価はできるいう。
調整局面に入った熱海その他の伊豆エリア
最後に最近の各地の様子を教えていただいた。同じリゾート地といっても動向には差が出始めている。
伊豆はこのところの熱海人気などでコロナ禍に値を上げ、それでも新しいオーナーの手に渡った物件も多かったが、このところへ来て少し調整局面に入ったようだと伊豆エリアの売買を担当する戸田信之さん。
「駅近で開発が進み、眺望が失われる物件などが出ており、動きが良い物件とない物件の二極化が進んでいます。下落傾向が見られるのは駅から離れているところで、物件によっては1000万円以下から1500万円まで値上がり、その後1000万円前半で推移しているような例もあります」。
熱海では築60年ほどと他のリゾート地よりも古い物件があり、それらが今後どうなっていくかが気になるところだという。管理組合などでは建替えという話も出るが、そのあたりは今後のマーケット次第。現時点ではまだ空洞化したり、売れなくなってしまった物件が出てきているわけではないものの、今後には注意が必要かもしれない。
賃貸需要が相場を押し上げつつある湯沢
これまでに比べると定住者が増加しているという湯沢。東京から70分、車利用でも便利なうえに安価と選ばれているのである。
「最初は滞納、空洞化と負のイメージを抱いて見学に来る方が少なくありませんが、実際に物件を見るとお風呂はキレイだし、駐車場はタダで管理は行き届いていると成約率は5割越え。
リゾートマンションは管理費が高いと言われますが、湯沢は総戸数が多い物件が中心のため、他のエリアに比べると2万円台で済む物件があるなど比較的安価。しかしながら価格も徐々に上がり始めています。
その要因が投資用。賃料自体は安いものの、物件価格も安いので、実質利回りで10%越え、10年で回収できるような物件も少なくありません。
販売に比べるとまだ取引件数は少ないのですが、今後増えていくと価格もあがるのではないか、期待したいと考えています」と角谷謙さん。
あまり安く貸しても全体の相場が崩れるとコロナ禍の苗場エリアで3万円という最低賃料も設定された。現時点では10万円を超すと借り手がいないと言われるが、地元以外の借り手を見つけることができるようになればそのあたりは変わる可能性もある。
また、リゾート地全般で今後の注目であり、課題であるのが外国人購入者。
「以前から海外ファンドの購入は増えており、今後は個人の購入も増えるのでは?」と大野さん。もちろん、先々のことを考えると誰にでも売ってしまえば良いというわけにはいかない。現実的に日本に口座がなく、管理費が納められないというケースもある。
そのあたりの問題はあるものの、すでに購入希望者はおり、所有する人も出てきており、今後はもっと市場での存在も大きくなっていくはず。それが市場全体にどう影響するか。答えはまだ先になるだろうが、市場が変化し始めていることは確かだ。