参照:断り切れずに購入した築古重鉄マンション、外壁のモチーフで「 他にない物件 」に
■ アスベストと漏水で予想以上の費用がかかった再生案件
この物件は約6年前に全空の状態で購入した後、1棟改修工事を行いました。築古でしたが、当時はまだ私の事業規模も小さく、これを取り壊して新築を建てるという選択肢はありませんでした。
旧耐震の鉄骨アパートでしたが、建物診断を行った結果、耐震診断の数値はOKでした。しかし、残念なことにアスベストがあったため、大規模改修工事のタイミングにあわせて除去工事を行いました。
アスベストは「 大気汚染法 」の一部法律改正の影響で、従来規制対象とされていた「 吹付け石綿 」( レベル1建材 )及び「 石綿含有断熱材等 」( レベル2建材 )に加え、令和3年4月1日より「 石綿含有成形板等 」( レベル3建材 )も法律の規制対象となり、新たに作業基準が設けられました。
このアパートの場合、アスベスト建材はカラーベストの屋根に使用されていましたので、カラーベストを撤去し、新建材で屋根をふき替えました。
築古物件に多いですが、アスベストの付いている建物を解体する際には注意が必要です。アスベスト除去工事を行った際には、きちんと産業廃棄物として扱ったというマニフェストをもらい、保管しておく事も重要です。
室内の改修工事も同時に行いました。10室を室内リノベしたところ、安定のファミリー物件で駐車場付きという事もあってか、常に高稼働の状態で運営することができました。しかし、一つネックだったのが過去のコラムでも書いた雨漏りの問題です。
参照:どこから漏れてるの!? 1年越しの雨漏りクレームから学んだこと
雨漏りの補修に関しては、終わりが見えませんでした。以前に外壁のヘアークラック補修の事を書きましたが、これでは終わらず(泣)、漏れては補修するの繰り返しです。
室内側から壁を触るとクロス壁の下地のボードがぶよぶよしているのが分かるレベルでしたので、こうなると根本改善が必要です。結局、もう一度足場を立てて、外壁カバー工法でガルバを貼りました。

これで追加工事費約140万円、他にも全サッシの交換、室内雨漏り箇所の補修など合わせると大規模改修工事後に1,000万以上かかっています。
また、頻繁に起こる下水の逆流の問題もありました。下水パイプが詰まっているわけではなく、建築時当時からの下水パイプ勾配不足による逆流が原因でした。その結果、トイレから汚水が噴き出すクレームが多発しました。
通常なら契約不適合責任( 瑕疵担保責任 )に該当しますが、「 免責 」で購入している以上、何も言えません。というか、元々言うつもりもありません。こちらは床下に潜ってもらい、下水パイプを一度切断して再び勾配を取り付ける工事を行いました。
利回りは下がりましたが、他の物件からの家賃収入もありますし、元々高利回りで回していた事もあり、工事費はカバー出来るレベルでした。もし、投資初心者の頃に起きていたら、夜も眠れないくらい悩んでいたかもしれません。
ワケありの一棟物件を再生する手法は、上手く仕上げる事が出来れば高い利回りが狙えて旨味があります。しかし、資金に余裕がない投資初心者や経験値が少ないレベルの方には決してお勧め出来ません。
■ 退去者から届いた「 敷金精算に納得できない 」という手紙
この物件では別の問題も発生しました。退去者の原状回復請求に関することです。元々この物件はペット可物件でしたので、ペット飼育の場合は入居時に敷金を多めに預かっています。
ところが猫ちゃんとご入居された方の退去後の室内が酷い状態でした。それなのに、退去時に敷金精算をするのは納得できないと言われました。ご丁寧に、解約通知書にはこんなお手紙まで付けてくださいました。

ちょっとギョッとする内容です。この内容、YouTubeで『【 ほぼ無料に出来る 】賃貸物件の退去費用をとことん安くする方法 』というタイトルで発信されています( 気になる方はググってみるとすぐに見付かると思います )
大家の皆さん、このようなお手紙が来ても怖がる必要はありません。ただし、そのためには事前の心構えと準備が必要です。
具体的には、法律上、「 特約 」が認められる3つの要件について契約時に留意する事、法律上の【 最高裁の考え 】【 消費者契約法の考え 】を熟知しておく事、そして【 国交省・ガイドラインの考え 】に沿った原状回復費用の請求を行う事が重要です。補足します。
【 最高裁の考え 】
@「 経年変化や通常損耗分の修繕義務を賃借人に負担させる特約 」について、賃借人が負担することになる通常損耗及び、経年変化の範囲を明確に理解していること。
Aそのことを合意したことが認められるなど、通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であるとの判断を示しています。
【 消費者契約法の考え 】
第9条1項1号で「 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定 」等について、「 平均的損害の額を超えるもの 」はその超える部分は無効であること、第10条で「 民法、商法 」等による場合に比べ「 消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは無効とする 」と規定されています。
【 国交省・ガイドラインの考え 】
借地借家法、最高裁の判例、消費者契約法等の趣旨等をふまえ、借主負担のクリーニング特約等「 原状回復に関する賃借人に不利な内容の特約 」については、次の3つの要件を満たすことを要求しています。これらを満たしていれば、有効です。
@特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。
A賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。
B賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
賃貸借契約に賃貸人としてサインする前に、必ず特約が有効かどうかを確認して下さい。契約書は自分の物件を守る為に非常に大切なものです。人任せ、管理会社任せにしないようにしましょう。
■ ビックリするほど汚されていた室内
これらを事前に確認した上で該当するお部屋の退去立会へ行きました。すると、部屋の中はビックリするほど酷い有様でした。
元々この退去者は猫を2匹飼っていました。私も自宅で猫を飼っていますが、普通にしつけていればここまで部屋を荒らしません。退去者は飼っていた猫を部屋に閉じ込める等の行為を行っていたのではないかと疑います。

建具類の枠という枠に、猫の引っ掻き傷がついていました。

どうやったらここまで酷くなるのでしょうか?

クロスにもたくさんのシミと傷がついていました。
そして画像では分かりませんが、動物臭も酷かったです。オゾン発生器を2回動かしても匂いが減らず、原状回復をする前に一度ハウスクリーニングを入れて、徹底的に漂白剤で壁や床を拭いてもらいましたがそれでも取れません。
原因はオス猫によるマーキングで、色んな個所に飛んでいました。そのため、クロスの総張替えが必要になりました。
ペット愛好家であれば、将来的に不要な繁殖を防ぐ為にも去勢手術を行うのが一般的かと思います( 我が家の猫も去勢手術済みです )。入居時に交わした『 ペット飼育時における管理規約 』の中にも去勢手術の項目が入っていましたが、守られていませんでした。
しかし、退去者はお手紙の通り、原状回復費用にかかる必要な費用の支払いを認めない方針です。
■ 顧問弁護士さんへ内容証明を送ってもらい、解決へ
ウチでは入居時に必ず管理担当者が立会って、部屋の使い方等の説明を行っています。その際に全ての部屋の傷を一緒に確認して写真入りの入居時チェックリストを作成し、署名捺印した書類を作ります。
入居時チェックリストが存在する以上、「 自分がつけたのではない。入居時から付いていた傷だ 」と主張するのは無理があります。それに、ワタシはあくまでもガイドラインに沿った原状回復費用しか請求していません。貸主側も、決して揉めたいわけではないのです。
結局、2ヵ月経っても入金がなかった為、顧問弁護士さんへ内容証明の作成を依頼しました。弁護士事務所からの内容証明郵便を受け取った元入居者は、その翌日、指定の額を振り込んで来られました。これで一件落着です!
もしかしたら過去に、別の管理会社に不当な原状回復にかかる費用を請求されたのかもしれませんが、今回、借主の方から「 管理会社=悪 」と見られてしまったことは悲しかったです。
もちろん、入居時よりもキレイにして退去される方も多数います。そんな「 借りて良し、貸して良し 」の関係を築ける方、「 ここに入居して良かったです 」と言って下さる方がいるから不動産賃貸業が成り立っているということを忘れてはいけないなと痛感した出来事でした。
本日も最後までお読み頂きありがとうございました。ではまた次回、皆様お会いしましょうね〜(^^)/