■ 築古だから売れない、なんてことはない!
前回に引き続き「 売却 」をテーマにした座談会。物件を買うためのノウハウはあふれるほどあるが、売却についてはそこまでの情報がない。どのタイミングで売却をするのがいいのか。どんな物件が売却しやすいのか。また、売却にかける時間の目安、大家さん側の感覚と不動産業者側の感覚の差など、実際に売却をしてみないとわからない部分を赤裸々に語っていただいた。
とくに今回は、売却経験多数の上級大家さんが、どのように考えて売却をするのか、売却で得る利益の目安など、一歩踏み込んだ意見まで聞くことができた。すでに物件を所有している大家さんはもちろん、これから不動産をはじめる人も必見!
※写真はイメージです
Aさん
僕の考えでは千葉県の築古木造アパートが1,500万円で売れたように、古い木造アパートでも高稼働がキープできれば利回りで売れる印象を持ちます。
Cさん
小ぶりの高利回りアパートは、現金化したい時は早いですね。すぐですよ。
Bさん
確かに僕も築古のアパートを売却しているのですが、2,000万円、3,000万円くらいはたくさん問合せが来ます。それが6,000万円、7,000万円になると問合せが少なくなります。
Aさん
都内でもですか?
Bさん
はい。板橋区の7,000万円は問合せが少なかったですね。一番多かったのは江戸川区の3,500万円のアパート。違法物件だったのですが、問合せが多かったです。この物件に関しては高利回りで仕入れができているので、売却の利回りも7%前半で出せました。
Aさん
たしかに都内で7%の物件は見かけませんね。人気があるのもわかります。
Bさん
つまり、7,000万円を超えてくると危険ですね。板橋区の物件は、結局5人から申し込みがあったのですが、ノンバンクにローンを打診して審査落ちしています。そもそも共担がない場合は頭金を2~3割を入れなければいけない。そうすると7,000万円なら最低でも1,400万円に諸費用が必要で、ハードルが高くなります。それを越えられない人はキツイ。
Aさん
都内ではなくて、千葉や埼玉などの郊外で売却したことはありますか?
Bさん
松戸は2,500万円で買って3,500万円で売れたんですが、それは現金でしたね。3,500万円で利回り9%でしたので、人気がありました。1988年築だから築34年。僕らの感覚だとまだ若い物件です。
積算評価は大したことなくて、3,500万円のうち土地代は1,300万円くらいですね。買った当時は利回り14.5%でした。家賃も底値だったので、その後もずっと下げずにそのまま行けたんです。新築プレミアム(※)もないのが築古の良さです。
※新築プレミアム
新築時の高めの家賃設定。新築でなくなると家賃が下がっていくケースが多い。
Aさん
利回り14.5%を9%で売ったのですね! 下がり切っているから、利回りがキープできるということ。やはり築古だから売れないということはないという話ですね。
■ 売却のタイミングはいつがベストなのか?
Aさん
売却タイミングの目安はいつでしょうか。やはり大規模修繕など、お金がかかりそうな時ですか?
Bさん
はい。大規模修繕で価値を上げる考え方もあるのですが、できるだけ大規模修繕の手前で売っておきたいです。物件の印象って主観が大きいものです。「 まだイケる!」と思う人がいれば、キレイ好きな人は古さが気になってしまうし。キレイ好きじゃない人の目に留まってもらえればまあいいかなみたいな。
Cさん
お金をかけて売却価格がアップするなら、かける価値はあります。
Bさん
300万円かけたら1,000万円跳ね上がる価値があるならいいですが、郊外の木造アパートに外壁塗装をしたところで、さほど変わらないです。
Aさん
費用対効果があるかどうかなんですね。では売却にかける期間はどれくらいですか?
Bさん
最近の売却事例をお話します。千葉県の松戸市の物件を利回り12%くらいで購入しました。土地が40~50坪くらいあり、土地の評価がわりと出ます。そのため融資が付きやすいので、6,780万円の売り値で出したんです。
Aさん
それだと利回り何%ですか?
Bさん
6%です。1年間レスポンスがなく、動きがなかったので6,380万円に下げました。これで利回りは6.3%になります。利回りは低いですが、実勢価格が1坪42万円で150坪なので土地値が6,500万円くらい。特徴としては、戸建て用地として四分割くらいできる地形(じがた)の良い土地です。ですからオーナーチェンジというより新築用地ですね。なので空室が出たとき募集をやめたんです。どこかで建売業者さんが食いついてくれないかなと思って……。
Cさん
なるほど。
Bさん
1年2ヶ月経って建売業者さんが買ってくれることになり、去年の12月にローン特約なし(※)の6,200万円で契約しました。そのとき6室中4室空きだったので、引き渡しを今年の8月まで伸ばして、その間に買主の業者さんが立ち退き交渉を進めています。
※ローン特約なし
期日までに融資付けができない場合は契約が白紙になるという特約をあえてつけないこと。
Aさん
売却を決意してから、どれくらいかかったんですか?
Bさん
8月時点で2年2ヶ月になります。
Aさん
長いですね。これについてCさんはどう思いますか?
Cさん
いいんじゃないですか。家賃が入ってきているからね。
Bさん
高い値段で売るには、それくらいの期間を見ておかないと……というエピソードです。
Cさん
半年で売れたら安すぎです。高値で出して「 3年で売れればいいか 」という感覚です。すぐにでも売りたかったら安くしますけれど。
Aさん
それをお二人に聞きたかったんです。どれくらいの期間を基準にしていいのか。
Bさん
不動産会社さんからすると「 とにかく早く売ろう 」という感覚があります。こちらは1年単位で様子を見ているので、そこまで焦っていません。営業の人ってすぐにでも成果を出したいじゃないですか。少しでも反応がないと「 値段を下げましょうか 」と打診してくるんです。そこは、ゆったり構えています。
Aさん
なるほど。売れないと、ついつい「 下げようかな 」と思ってしまいます。ゆったりという心境にはなかなかなれないです。
Bさん
返済があっても、家賃が一応入ってくるから。少なくとも手出しにはなっていないからまあいいかなと。Aさん的にはどれくらいで売ろうと思っていました?
Aさん
まあ早ければいいという感じですね。1年くらいはかかるという話を聞いていたので、そのつもりでした。
Bさん
売却期間については目的にもよりますよね。いい物件がどんどん出てくる市況であれば、多少は売り価格を下げてでも現金化したらいい。次に買う物件がこれから探すというのであれば、ゆったりでいいのでは? 現在は、売ったところで次になかなか買えないから。
Aさん
確かに、新しい良い物件がパッと出る感じではないですね。
Cさん
だから資金力を高めていくというか、いつでも動けるように余裕のあるうちに売却するってことです。
多額の費用がかかる大規模修繕の前に売却を検討するケースも(写真はイメージです)
■ 売却は新しい物件を購入するための準備
Aさん
売却はやはり次への準備ということですね。
Bさん
複合要素があるから一概には言えないですが、「 売却をすることで、買えるようになっていく 」という側面はありますね。
Cさん
あとは銀行から融資先として正常に見られるとか。手持ちのキャッシュを厚くするというのは売却でなければなかなかできませんから。
Aさん
なるほど。売却で資金を得て、次の物件を買えるようになるというのはよくわかります。人によっては、ずっと同じ手法をやっている人もいますけれど、ある程度、経験を積むと不動産投資の手法が変わりませんか?
Bさん
資産ができてくれば次のステージに行ったほうがいいでしょう。私は区分マンションからはじめて、郊外の一棟築古物件から都内の一棟築古物件へと買い方をだいぶ変えています。自分の場合、区分を売ったあと、都内のアパートはやはり高いから、まずは松戸とか船橋を買いました。
そうやって周辺の近郊エリアから攻めていって、だんだんステップアップして。東京の東側に進出する。そうしたら都会の西側に落ち着くみたいな。東で力をつけて西に行く。究極は戸数を増やさなくていいから、3億円程度の新築RCマンションを都内好立地に3棟建てたいですね。利回り6%程度で仕上げて。そうすると安心かな。
Aさん
しかし、RCマンションを新築で建てるには、資金調達はもちろん時間もかかりますよね。
Bさん
だから古い物件を清算して資金を貯めて、現金で土地を買えるように準備しています。そして、都内の好立地で新築をやりたいなと思っています。やっぱりちょっといい場所へレベルアップしていきたいと思いませんか?
Aさん
そうですね。僕はまだ郊外ですので、都会は憧れです。Cさんも都心の好立地なんですよね? 地方と都心の両立している。
Cさん
たしかに好立地を買っていますが、地方もいいですよ。何がいいかというと利益率です。投下したお金に対する戻りが大きい。私は地方と都心でバランスをとっているんです。あとはスーパー好立地ばかりやっていると飽きるんです。やることがないし。
Bさん
都心は利回りが出ないですからね。でも売る時は威力を発揮しますね。ちょっと余談になりますが、僕が最初に買ったのは2009年頃。広尾の築4年の区分マンションです。24平米で14階建ての最上階なんですが、新築価格が2,600万円のところ、2,000万円という破格の安値で買えたんです。利回りが6.2%です。
3年後に2,300万円くらいで売却しました。最近見たら、あれから10年以上経っているんですが3,000万円くらいになっています。早まったなあと思って。立地さえ良ければ築年数が15年以上経っていても、さらに値段が上がっていて驚きました。
Cさん
「 区分マンション=儲からない 」というイメージを抱いている人も多いですが、意外にもそうでなかったりする。5~6年前に新築区分マンションを買った人はみんな売り抜けてるんですよ。新築もタイミングによっては儲かる。タイミングの悪い時に買ってしまうと失敗だけど。
Aさん
なるほど。バランスが取れている。
Bさん
私が売却したタイミングでは、インバウンド需要がなかなか凄くて4戸のうち3戸の買主が海外の人だったんです。
Aさん
現金だから、銀行評価は関係ないのですね。
Bさん
ロケーションが重視されましたね。これはタイミングがよかった頃の話ですが。
■ 売却で得る利益はいくらが適正なのか!?
Aさん
売ったところで新しい物件が買えないっていうのは、どういうふうに考えますか?
Cさん
買えるものいっぱいあると考えています。地方に行けば安い物件がいっぱいあるじゃないですか。安いなりに利益の出し方が違うだけ。新築を企画する作業と、ボロ戸建てを買って価値を高めて……の違いというか。
Bさん
確かにボロ戸建てであれば、探せばありますね。ただし都内好立地、高利回りで高積算となると急に見つからなくなるので。そこに思考がいっている間は難しいですね。買いたい物件が定まっていないと、売ったところで何を買っていいのかわからないという人も多いでしょう。
Cさん
年に1回か2回は本当に物件が出てきますよ。その時にお金がないと困るから常に持っているんです。本当にいい物件を買おうと思ったときに、現金化を急がないと負けてしまうんですよ。特約なしで買付を入れてしまえばいいけれど、ハラハラするじゃないですか。
Aさん
そのために常日頃から高値で出しておくという考え方なんですね。どれくらいの利益が目安になりますか?
Cさん
目安は「 利益の7年分を得る 」イメージですね。そこを達成していれば売却していいと思っています。地方の物件で、まだ商品化されていない相続案件が来た際、いくらか値付けをつけてくれと言われます。買った瞬間に売れる価格。出口がいくらくらいか、それで利益をいくら取ろうか考えます。
たとえば、古いビルであれば、土地を更地にしたら8,000万円だったとしても、解体費用に2,000万円、立ち退きにも費用かかります。そうした費用を計算したうえで、7年分のキャッシュフローが得られる金額を購入の目安にします。
Aさん
僕自身は、考えたことがなかったのですが、家賃年収で何年分という考え方なのですね。
Cさん
時には5年の時もありますけれど、先ほど言ったように7年分の利益があればいいですね。その金額で買った瞬間に売りに出していますから。たまに忘れたころ連絡があったりするんですよ。
Aさん
なるほど。所有している棟数が少ない人はどう考えたらいいですか?
Bさん
たしかに1、2棟しかなくて売ったら、家賃収入がなくなってしまう。売ってすぐに買えるタイミングならいいですが、そうでないなら、ある程度の棟数はあったうえで売却を考えるのが現実的かなぁ。
私は14棟所有しているうち、8棟だけ売り出しました。残り6棟をなぜ残しているかというと、個人的に好きな物件なのと、キャッシュフローもまあまあ出るから。あと場所が気に入っている物件もキープしています。売り出しているものに関しては、新しいステージに行くため、先ほど言った新築物件に取り組むための資金です。
Aさん
そう考えると売却に取り組む際には、10棟以上は所有していないといけませんか?
Bさん
部屋数なら100室。その半分は、入れ替えても持っておきたいね。キャッシュフローが常に入ってくる状態。
Cさん
僕は地元物件である程度、規模があるので、そこで生活できます。あとは全部突っ込む感じ。
Bさん
どれくらいのキャッシュフローが出ているんですか?
Cさん
毎月200万円くらい。だって借り入れがないから。
Aさん
では棟数よりもキャッシュフローが大事ですか? Cさんは200万円とのことですが、Bさんは150万円くらいですよね。そうやってある程度のキャッシュフローがあるほうが売却には安心なんですね。
Bさん
はい。売却してもキャッシュフローがある程度あるといいですし、やはり何棟かに分かれていた方が売りやすさもあります。単価が上がっていくほど問い合わせが減るんだから、小さいのもいっぱい持っていた方がいい。
Aさん
先輩方の売却に対する考え方が理解できました。すごく参考になりました!
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