「ビレッジハウス」(以下VHと呼ぶ)の名前はTVコマーシャル等で聞いたことがあると思うが、具体的には知らない人が多いであろう。
今回VHの物件を見学させてもらう機会があり、その内容と取組には多くの不動産投資家が学ぶべき点があった。また今後市場に影響を与える大型不動産オーナーとして存在感のあるVHについて記していく。
■ビレッジハウスとは
「ビレッジハウス」とは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が保有する「雇用促進住宅」を民間売却した際に、ソフトバンクグループ傘下の米投資会社フォートレス・インベストメント・グループが一括取得し「ビレッジハウス」へリブランド、リノベーションしており、現在全国47都道府県で1,067物件、10万5,758戸を賃貸している。
当時不動産投資家が雇用促進住宅の入札があると知って、様々物件調査をしていた不動産投資家もいたと思うが、その殆どを取得したのだ。
雇用促進住宅とは、雇用保険事業の雇用福祉事業により整備された勤労者向けの住宅である。
旧産炭地に多いのは、設置当時は炭鉱の合理化により大勢の離職者が発生し、炭鉱の閉山により移転しなければならない雇用者に当面の居住を提供する役割を果たしていたからだ。
その後、炭鉱だけではなく造船業界を始めとする構造不況業種からの移転就職者のための役割も持っていたのだ。
「移転就職者用宿舎」とも呼ばれ平成18年で、全国に1,532宿舎、3,838棟、141,722戸が存在していた。
VHは主に低所得者向けに月額家賃20,000円台〜60,000円台という低水準に設定し、入居手続き及び初期費用を最小限に抑え、幅広い入居者層に「安心オトクな団地ライフ」を提供しているのだ。
VHの資料によると、取得時から現在までに約58,000世帯の新規?居者の申込を受け付け、?居率は約30%から約60%まで上昇している。
このVH、全国の物件所在地は都道府県では愛知が最多の75物件9624戸でその次が北海道の59物件6962戸になる(戸数ベース)。
因みに札幌の雇用促進住宅は2015年時点で62棟2472戸あった。
2018年の札幌市の貸家戸数が約35万戸で、シェアは0.7%になる。ただし低家賃の部屋に限定すると割合はかなり増えるはずである。ちなみに公営借家は26,970戸、URと住宅供給公社で、10,280戸だ。
自分の物件エリアにVHがある場合には、その存在を無視することはできないであろう。
特に低廉な家賃の物件、生活保護者や高齢者を対象とした物件にとっては、巨艦が出現したと言っても過言ではないだろう。
実際に運営している札幌のVH3団地を見学した。
見学したのは「ビレッジハウス東月寒」(昭和53年築)と「ビレッジハウス福住」(昭和45年築)、そして「ビレッジハウス桜台タワー」(昭和60年築)だ。
どれも築年数はかなり経過している。
しかしどの物件も割り切ったリノベーションを行いながら稼働率を上げ、北海道全体で約20%から約40%に、全国でも約30%から約60%に稼働率を上げていっているのである。
■VHの投資手法はバリューアップ投資
その手法や考え方には、不動産投資家が参考になるポイントが多くあった。
VHのリフォームは、手の掛け方で基準とグレードがしっかりと定められている。
どのグレードかによって部屋の仕様の基本仕様と賃料水準が決められている。
このような基本的な方針を決めておき、物件ごとでその仕様を詳細に詰めていくやり方をしている。
リフォームの仕方によって家賃額を設定して行く細密な計画が最初からあるのだ。
このような詳細な計画は入居者募集にも役に立つし、何よりもVHに投資している投資家への説明資料となるのだ。これは、融資を受けてバリューアップ投資を行う不動産投資家にも非常に重要なノウハウである。
また入居者が選ぶオプションによって追加賃料を取っている。
エアコン、ガスコンロ、温水洗浄便座、洗面台等を設置することでそれぞれ1,000円の月額追加賃料を取るようにしている。
■ビレッジハウス東月寒見学

RC5階建(EV無し)4棟160戸
昭和53年築の物件ながらも地下鉄駅至近の物件で、VH移行時の入居率は約70%ほど。元々入居率が高い建物であったそうだが、現在の入居率はほぼ満室に近い状態となっている。
抜群の立地から、ハイグレードなリノベーションは行わず、ベーシックなリノベーションを基本に行っている。
このリノベーション説明を見て欲しい。
この仕様は説明したP2のリフォーム仕様であり、基準賃料プラスアップを狙ったプランである。
昔の3DKの間取りを思い切って2LDKに間取り変更。和室をクッションフロアで洋室化し、リビングも広げている。
特筆すべきはバランス釜と給湯器だ。古いバランス釜を「カベピタR」というバランス釜交換用の専用給湯器に交換。それによって浴室を大きくする事ができたのだ。しかしこの給湯器は浴室専用なので、台所の給湯は瞬間湯沸器をつけ、洗面台には給湯配管を持っていかないという割りきったリフォームをしている。

バランス釜の物件を所有している人は参考になる情報であろう。
実際の見学にはビレッジハウス・マネジメント社の担当が案内してくれた。
いつも仲介会社を案内している事もあり、非常に慣れた説明をして頂けた。

リフォーム前の写真は古い団地そのものだ。
これをP2リフォームを施すとこうなる
浴室にはカベピタが設置され、キッチンには瞬間湯沸器、和室も残している。
全てを新品にしたわけでは無いが、ポイントを付いたリフォームできれいに修繕している。
そしてこれが募集資料だ。
このグレード感であれば同じエリアでは65,000円-70,000円の賃料を狙うところであるが、この物件は51,000円である。
洗面台は冷水しか出ないし、台所は瞬間湯沸器であるが、入居者も割切り人気物件となっている。
仲介会社に対してのリーシング活動も非常に参考になった。
同一エリアでこれだけの標準化されたリノベーション行い、多くの商品(リフォームされた空室)を出すVHは、不動産仲介会社も売上を上げるチャンスとして注目している。
リフォーム完成後には、不動産仲介会社を招いての現場説明会を行い、PRポイントの説明や入居者に割り切って貰うポイント等を説明し、仲介会社の営業を教育しているのだ。
そして仲介会社の参加率が非常に高いそうだ。
それは前述のとおり不動産仲介会社が売上を上げるチャンスとして注目しているからだ。
大手の会社で、リーシング活動をここまできっちり行う会社はあまり無いだろう。
自社保有物件だからこそ、真剣にリーシング活動を行っていると感じた。
■ビレッジハウス福住見学
次に見学したのが、かなりの築古物件、「ビレッジハウス福住」だ。

所在地:札幌市豊平区福住?条七丁?3番1他
建物:RC4階建(EV無し)6棟240戸
昭和45年築の物件で6棟240戸もある大型団地だ。
VH移行時の入居率は約20%でガラ空きだった物件だ。
この物件は現在リフォームに着手し始め入居率は現在約45%にまで持ち上がっている。
この物件がガラ空きだったのは、リフォームが全く手つかずだった事が原因なのだが、その他の要因としては、なんと共同浴場物件なのである。
昔は公営住宅をはじめとした、こうした団地の浴室は共同浴場が主だった。
実は平成8年の公営住宅法の改正まで、公営住宅団地敷地内に建設できる建築物は、集会所と共同浴場に限定されていたのである。
公営住宅法が制定された昭和25年頃は、住宅内に浴室を持つ国民は一部であり、多くは銭湯に行くのが当たり前だったのである。この流れが雇用促進住宅にも適用さてれていたのである。
実はこういった共同浴場案件はここだけではないようである。

だからこの物件の部屋には浴室が付いていないのである。
これをどのようにリノベーションしてるのかは大変参考になった。
このリノベーションには2つのテーマがあった。
コンセプト@風呂なし部屋を格安で
札幌市内の類似案件より割安な賃料にて募集
コンセプトA 風呂付部屋(Grade ハイグレード)を相場で
周辺の1LDK案件より若干割安にて募集
この2つのコンセプトに基づきリノベーションをかけていった。
まずはハイグレード部屋の紹介をしよう。
昭和45年当時の間取りの2Kタイプを1LDKに完全改修し、ユニットバスも新設。
この物件の募集賃料はこれでも36,000円〜41,000円だ。

何度かはリフォームしているようだが、この部屋は退去してから暫く何も手を付けていない状況だった。
このような部屋をハイグレード仕様にリノベーションしたのだ。
先程の状況の部屋を、結構な資金を投じて、UBを設置しフルリノベーションでこのような今風の物件に改修したのだ。
そして入居者はタダで利用できる「共同浴場付き」の物件なのだ。
不動産会社への物件説明会には多くの業者が参加し、非常に好評をはくし、すぐに入居付がされたそうだ。
このような空き室がまだ120戸あるのだ。
VHではこのようなリノベーション・リフォームを年間全道で240戸ほど行っている。
そしてこれからはこの福住団地を重点的に工事していく予定だと言うことだ。
ということはこの近隣の投資家の物件には少なからず影響が出ることは間違いないだろう。
次にハイグレードではなくP1リフォーム物件。
浴室は割り切って設置せずに、共同浴場をウリにしているのだ。
そして家賃は驚異の21,000円である。
このように約20%の入居率にまで落ちていた物件を、民間が取得し真剣にコストリフォームを行い、それを回収するために真剣にリーシングを行っているのである。
これが全国に点在するのだ。
そして最後に見学したのが驚異のタワーマンション桜台タワーである
■ビレッジハウス桜台タワー見学

所在地:札幌市厚別区西4条1丁目
建物:SRC14階建(EV有り)4棟312戸
昭和60年築の物件でタワーマンションで312戸もある大型団地だ。
タワーマンションだから入居率は良さそうだと思ったら、なんとVH移行時の入居率は約4%程度だと言うから驚きだ。
この物件も棟別にリフォームに着手し始めほぼリフォームが完了した棟ではほぼ100%の入居率にまで上がっている。
現在の入居率は約50%までに持ち上がっている。
この物件はタワーマンションであるものの、新さっぽろ、厚別両駅からバス便と不?気なエリアにできた?規模案件であり、 募集の無い時期は退去が相次ぎ稼働率は4%までに下がっていたのだ。
この物件のコンセプトも以下のようにハッキリとしている
コンセプト@
・一号棟を雇用促進風で値ごろ感を全面に押し出す
・共用部の改修などは行わない
・風呂釜はバランス釜(2点給湯)
・原状回復工事はできるだけ安く
・賃料駐車料込み5万円以下に設定
・3DK、和室中心
コンセプトA
・3〜4号棟に設備投資を行い相場より若干下げて募集
・共用部改修実施(エントランス、ゴミ置場等)
・室内型FF式給湯器による3点給湯
・浴室も大型化、HG部屋はユニットバス新規
・賃料駐車料込み6万円以下に設定
・2LDK、洋室中心
コンセプトB
・3〜4号棟にコンセプトAにさらに追加投資実施し相場並みで募集
・ システムキッチン、ユニットバス、シャンプードレッサー等導入
この様に、松竹梅のグレードに分けて広い選択肢を提示できるようにして、入居対象者を広げているのである。
ではハイグレードタイプのリノベーションを見てみよう。
元の3DKの間取りを、ゆったりとした2LDKに間取り変更し都市ガス設備の給湯暖房システムに変更した。
そして居室だけではなく共用玄関やエントランスも改修しグレード感を上げている。


ポストを交換し、ガラスブロックも撤去しモザイクタイルを施工しグレードアップしている。
天井のライティングも改修し、明るくなっており入居者にグレード感を感じさせるリフォームだ。
内部の改修も良くできている。

年代を感じさせるバランス釜の浴槽と洗面台。フローリングも継ぎ接ぎだらけだった。

床はCFで全て上張りし綺麗に仕上げている。
給湯用の水道管がないので割り切って廊下の上にそのまま水道管を通している。こういった点からもコストリフォームに心がけている。
ストーブ上部に給湯ボイラーを設置。給湯ボイラーがもともと設置されていないので、窓側に壁掛けボイラーを設置。苦しいがこれも妥協点を探りながらリフォームに腐心している事が伺える。
募集資料をお見せしよう

浴室はバランス釜そのまま、内装を少しリフォームした部屋。
家賃45,000円での募集で、広告料もしっかりと出しているので決まりは良いようだ。

浴室、洗面台、トイレ、キッチンまで交換し、給湯ボイラーも設置しフルリノベーション工事を実施した2LDKの間取り。
家賃的には55,000円-58,000円程での募集で募集されている。
この桜台タワー120室以上がこれからリフォーム工事に入る予定だ。
これから厚別区のこのエリアには、120戸以上のVHが供給されるのである。
ビレッジハウス3物件を見学しての総括だが、大手にも関わらず自社管理のため、一つ一つの空室を埋めるために細密に市場調査を行い、それに基づきリフォームを行い、そして業者向けの見学会をはじめ、営業活動を行い、自社募集サイトも用意し、そこに誘導するためにTVコマーシャルまで流している。
そこには真剣に不動産賃貸業を行う自主管理オーナーと被るような印象すら受けた。
規模は違えど不動産オーナーとして見習う点は非常に大きいと感じると共に、自分の物件の近隣に手をかけていない物件があったとして、それが募集開始されたとしたら、少なくない影響は受けるものと感じた。
特に低家賃・低属性の入居者ターゲット物件は競合になるであろう。
今後もこのビレッジハウスの動きに不動産投資家は注目して行くべきであろう。
執筆:J-REC教育委員 原田哲也
【プロフィール】
2010年より、一般財団法人日本不動産コミュニティー(J-REC)の北海道支部を立上げ、不動産実務検定の普及に尽くし、多くの卒業生を輩出。2018年よりJ-RECのテキスト編集、改定などを担当する教育委員に就く。
また自身が主宰する北海道大家塾は既に62回の開催を数え、参加人数も述べ3700人を超える。